私じゃない、私。
「誰か・・・誰か出てきて・・・」
仲間からはぐれて、どのくらい経ったのか、彼女にも、解らなくなっていた。
親を知らない彼女にとって、物心付いたときより、いつも一緒にいた仲間たちは、彼女にとってすべてと言ってもいい存在だった。
孤独な彼女を照らしていた太陽の光は、徐々に弱まり、彼女の周囲を薄暗い淀みが漂い始めた。
淀みに潜む刺激が神経に触れ、彼女の記憶や気持ちや感情の一部を、引きちぎろうとした。
「私の心を奪う気?誰?やめて!」
彼女の心の叫びは、薄暗く淀んだ闇の中に、行く当てもなく吸い込まれていった。
すると、彼女の心の叫びに反射したかのように、闇の中で何かがうごめいた。
仲間が噂しあっていた、彼女たちを捕食する肉食生物かもしれない。
彼女は闇の中で、じっと息を潜めた。
その間も、神経に触れる刺激が、心を引き裂こうと躍起になっていた。
地の底から響いてくる地響きが、彼女の体に伝わり、震え止まらなかった。
「誰か助けて、誰か私を助けて」
地響きの中、肉食生物のうごめきが、徐々に近づいてきた。
肉食生物は、彼女に狙いを定めた。
肉食生物に睨まれた彼女は、恐怖のあまり身体が動けなくなってしまった。
肉食生物が間近に迫った瞬間、天空から一筋の光が降り注いだ。
肉食生物はその光に驚き、慌てて退散した。
彼女は「助かった」と安堵感を感じるはずだった。
しかし、その光は彼女に安堵感をもたらさず、彼女の引き裂かれそうになっていた心の一部どころか、体の一部すらも奪い去っていった。
「いやーーーーー!」
体の一部を引きちぎられ、全身に激痛が走った。
激痛で意識が朦朧とする中、彼女は激しい喪失感と不安感に襲われた。
するとまた、天空からもう一筋の光が降り注いだ。
その光の中に彼女は、自分と似た生き物を見た。
「仲間?・・・違う!」
彼女は直感した。
その生き物が彼女自身から引き離された、もう1つの自分である事を。
この星に、雄が誕生した瞬間だ。
もう1つの私じゃない、私。
自己愛かも知れないけど、私だったもう1つの私が、とても愛おしく思えた。
引き裂かれた激痛に苛まれる中、彼女は呼びかけた。
「戻っておいで・・・私の元に」
しかし、闇の中で何か巨大な生き物が激しく動き出した。
その動きは彼女の周りの水の流れを大きく変え、彼・・・もう1つの自分はその流れの中に飲み込まれていった。
この時以降、彼女は引き離されたもう1つの自分を、引き戻すかのように彼を求め、彼はもといた場所に戻るかの様に、彼女を求めるようになった。
遥か昔、まだこの星の生き物が、雄や雌の区別の無い微生物に過ぎなかった頃の話。
終




