49/54
表裏一体
その国の歴史上、最悪の犯罪者が、法廷で裁かれようとしていた。
被告は、確かな数すら解らないほどの人々を殺害し、人々はその行為に恐怖に震えた。
法廷は国中に生中継され、人々は法廷の行方を見守った。
検事は被告の罪とその証拠を、表情を崩さず淡々と詠み続けた。
検事の示した証拠は、覆しようが無いほどの、確実性に満ちていた。
それを、被告は薄笑いを浮かべながら聞いていた。
裁判官の木槌を打つ音が、法廷に響き渡り、陪審員達は被告の罪の行方を話し合った。
数時間後、被告は罪を言い渡された。
陪審員は全員一致で、被告に無罪を言い渡した。
その判決に、被告は静かに手を叩いた。
そして、生中継に釘付けになっていた人々は歓声をあげた。
なぜ、人々は凶悪犯人の無罪に歓声を上げたのか?
被告は多くの人々を地獄に叩き落す一方、
多くの人を歓喜の楽園に持ち上げた。
地獄に落とされた人々は、この世にすででおらず、
国中には、歓喜の楽園に持ち上げられた人々があふれていた。
釈放された被告は、国中から英雄として迎えられた。
おしまい




