からくり屋敷の衝撃
駅前にある私の実家の、通称からくり屋敷は、
10年前に死んだ祖父が一生をかけて作った家だ。
家の至る所に、からくりが仕掛けられており、その全貌は今となっては誰も知らない。
クリスマスになると、どこからともなくツリーが現れ光り輝き
節分の日には、豆の機銃掃射を受け、
バレンタインには、天井からチョコレートが降り注いだ。
夜中には家のどこかでからくりが作動しているのか、木がすれる音が時々した。
しかし、どんな状況でも慣れてしまえば『お茶の子さいさい』だ。
『お茶の子さいさい』死んだ祖父の口癖だ。
そして、3月3日の朝の出来事。
男3兄弟で、女の子がいなかった我が家では、
普通の日と変わらない一日のはずだった。
祖父が死んでから10年、からくり屋敷は3月3日に何のからくりも仕掛けてはこなかった。
しかし、今日は違った。
家族で朝ごはんを食べていると、リビングの天井が開き、原寸大の雛人形が降りてきて、雛祭りの歌を歌いだした。
家族が呆然と見ていると、末の弟が
「爺ちゃん・・・。」
と言って。突然泣き出した。
私が
「どうした?」
と聞くと、末の弟は
「僕、ゲイバーで働くことにしたんだ。」
と、朝の食卓で衝撃の告白をした。
両親は目を丸くして末の弟を見つめた。
末の弟は自分の部屋に行き、綺麗な美女になってリビングに戻ってきた。そして
「今日、初出勤なんだ。」
と言って張り切って出勤していった。
その年からからくり屋敷では3月3日には、原寸大の雛人形が出てきて雛祭りを祝うようになった。
綺麗な弟さんは好きですか?
おしまい




