将来の夢物語
すべては嘘で塗り固められていた。
彼女に語った愛も、彼女に語った将来の夢物語も、
すべて嘘で塗り固められた作り話だ。
私が彼女に近づいた理由は、
彼女を愛していたからではなく、彼女の莫大な遺産が目当てだった。
そして、私は彼女に近づいた当初から、彼女の命が長くない事を、主治医から聞きだしていた。
彼女の将来の夢物語の扉は、既に閉ざされていたのだ。
「君が元気になったら、2人であても無く旅に出よう。」
「子どもは何人欲しい?」
「結婚記念日にはいくつになっても、2人だけでデートしようね。」
すべて、嘘で塗り固められた作り話だ。
そして、彼女は予定通り死に、先日、彼女の葬儀が終わった。
私は、私の物になった広い屋敷と、値段も付けられないような高価な調度品を見てまわった。
そして、私は悦に浸った。
誰かがドアをノックする音がした。
彼女の顧問弁護士だ。
そして、これが最後の仕事だ。
遺産相続の書類にサインをすれば、もう妻の死に哀しむ優しい夫を演じる必要は無ない。
顧問弁護士は部屋に入ると、書類を整え、私に書類に目を通す様に託した。
私は簡単に目を通すと、書類にサインをして弁護士に渡した。
弁護士は簡単にお悔やみの言葉を言うと、
彼女から預っていたと言う手紙を私に渡して、部屋を出て行った。
弁護士が帰り、静まり返った部屋で、
私は彼女からの手紙を開けた。
「幸せでした。あなたが語ってくれた将来の夢物語が、私の希望でした。」
と手紙には書いてあった。
私の全身から力が抜け、私は床に座り込んでしまった。
そして、私の予想に反した、涙が留めなく零れ落ちた。
「なぜ涙が止まらない?愛していたから?」
心に深い喪失感が襲ってきた。
「なんてこった!」
もう、彼女の温もりが無くなってしまった広い屋敷を、虚しく風が吹いていった。
おわり




