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恋の契約書



僕は


「薄っすい関係!」


と、グランドピアノで、ショパンの『革命のエチュード』を狂ったように弾く彼女に言った。



僕と彼女との関係は、お互い1人だと孤独に耐えられないから、一緒にいるだけの関係。



もし、彼女が誰かに恋をしたら、


まるで、帰宅途中に友達と別れる時の様に、軽く


「バイバイ。」


と言って、僕らの関係に終止符を打つに違いない。



それは僕にしたって変わりは無い。



この関係性は、僕らが付き合う前に交わした契約書に、ご丁寧にもちゃんと書いてある。



契約書の冒頭はこんな感じだ。


『2人の関係は何事があっても、あとくされが無いように、ここに契約する。』


って、感じだ。



付き合い始めたときは、それでも良かった。



むしろ都合が良かった。


あの頃は、こんなに彼女の事をこんなに好きになるなんて、想像もしたことが無かった。



しかし、今の僕の心の中は四六時中、彼女の事でいっぱいだ。


もう、彼女なしでは生きられない。



にも関わらず、あの契約書のせいで、こんな薄っすい関係を続けさせられている。


呪わしい、恋の契約書だ。



僕は


「赤い糸どころか、白い糸、青い糸、どんな色の糸だって僕らを繋いではいない。


恋人同士が、こんな契約書で繋がってるなんて、まともじゃない。」


と苦情を言った。



すると彼女はピアノの鍵盤を叩く音を、ぴたりと止めると。



「あたしはこの関係嫌いじゃないし、それにすごく居心地がいい。


もし、契約に異議があるなら違約金10億払うか、私と別れるか、好きな方選んだら。


別れるのはただだし、何だったら、少しくらいなら慰謝料ぐらい払ってもいいよ。


引越し代ぐらいなら出せるから。」



と言って、再びピアノでショパンの『革命のエチュード』を狂ったように弾き始めた。



僕は


「何が革命だ!」


と言ったが、その声はピアノの音にかき消された。



彼女の表情は、すでに陶酔していた。


僕にではなくショパンにだ。



おしまい


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