電車の中で見た白昼夢
昼下がりの空いた電車の中で、
白昼夢を見た。
私の耳元で、優しげな人が
「力の限り走り続けて、力尽き倒れこんだ所が、あなたの場所よ。」
と、ささやく様に言った。
そして私は目を覚ました。
ほんの一瞬の夢だった。
そんな事を言われたからと言って、すぐに力の限り走り出すほど、私は素直な人間では無かった。
ただ『あなたの場所』と言われた場所が、どんな場所なのかは知りたくなった。
ある日、高原にある駅を降りたとき、目の前にまっすぐ伸びる道が、私の視界に入ってきた。
私は、その道に何かを感じた。
そして、
「この道の先に、白昼夢で優しげな人が言っていた『あなたの場所』が在る。」と心の中で何かが言った。
私は持っていた荷物を、置き去りにして走り出した。
1時間
2時間
3時間と走り続けた。
私は意識が朦朧としながらも、走り続けた。
「まだだ・・・まだだ。」
と、心の中で何かが言った。
気がつくと、力尽きた私は倒れこんでいた。
『力尽きて倒れこんだ場所があなたの場所よ。』
と、あの優しげな人の言葉を思い出した。
私の周りには、春の花が咲き乱れていた。
私は、春の花のすがすがしい香りをかいだ。
私は生まれて初めて、春と言う季節を実感した気がした。
おしまい




