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千佳の変 中篇



葛城は将来宇宙飛行士になると言っているだけあって、優秀で自信に満ちた顔立ちをしていた。


 葛城は地域で最も偏差値が高い高校で、成績は常に首位を維持しており、そして運動神経も他の生徒を圧倒していた。



 将来、宇宙飛行士になると言う葛城の夢は、誇大妄想や絵空事ではなく、極めて現実的な予定の様に思えた。


多少クラスで浮いた存在だったが、その事を除けば葛城は出来すぎた少年だった。



そして、千佳が陥った今の状況を打開するには、適任者の様に思えた。



千佳は


「私が世界の時間軸からはぐれた?」


と聞き返した。葛城は自習室の周りの目を気にしながら


「ロビーに行かない?ジュースでも奢るよ。」


 と言った。千佳に異論はなく、2人はロビーに向かった。



ロビーのふかふかのソファーに腰掛けると、葛城は


「ところで君、名前なんて言うの?」


 と言った。千佳は


「えっ?。」


 と思わず言ったが、葛城の真剣な顔を見て


「飛騨・・・千佳。」


 と言った。


千佳は


「本当に忘れれてしまったんだ。


もしかすると、私がおかしくなって、何か大きな勘違いをしてしまっているだけなのかもしれない。」



葛城の真剣な顔を見て、千自分が置かれた不安な状況を改めて認識した。


葛城は


「千佳さん・・・?」


 と聞いた。千佳は


「はい。」


 と答えた。


千佳は久しぶりに自分の名前が呼ばれて、なんだか嬉しくなった。



葛城は


「かぐや姫って知ってる?」


 と聞いた。千佳は「何を言い出すの?突然。」と思いながら


「竹取物語。」


 と言って、ボトルのお茶を口に運んだ。葛城は


「僕が思うに、月の人にとって地球ってのは、子どもが育つ環境としては、抜群にいい環境だと思うんだ。空には青空が広がり、森は天然の酸素を作り出す。だからかぐや姫もわざわざ地球に送られて、育てらたんじゃないかって。だから・・・。」


 千佳は


「ちょっと待って、ちょっと待って。葛城君、何、言ってるの?」


 と葛城の話をさえぎった。葛城は


「だから、千佳さんは現代のかぐや姫じゃないかって話。」


 と言った。千佳は唖然として、思わず失笑した。そして


「葛城君とも在ろう人が・・・何言ってるの。」


 と言った。葛城は真剣な表情を崩さず


「宇宙飛行士を目指す僕にとって、竹取物語の伝承はとても現実的な話だ。宇宙飛行士は丸腰で宇宙空間に出て、何らかの知的生命体と接触する可能性があるんだ。地球上でオカルト話に花を咲かせるのとは訳が違う。」


 と力説した。


 千佳はため息をついた。そして、葛城に期待した分がっかりした。


葛城は


「世界の時間軸をずらす事によって、千佳さんの地球上での、過去の形跡は消えてしまった。


月の子が、成長して月に帰る度に地球から突然消えてしまっては、地球は大騒ぎになるからね。そうしたんだ。彼らなりの礼儀だよ。」


 と続けて言った。


 


千佳は葛城の話すことなど、どうでも良くなった。


そして、自分自身で自分の今後の事について考え始めた。



現実的事実・・・学校の入学記録とクラスの名簿から、自分の名前は消えていた。


クラスの生徒の、まるで初対面の人間を見るようなあの視線は、本気かどうかは不明。


クラス全員がふざけてるとしても、しーちゃんまでそれに加わる事は考えられない。



私が住んでいた家に、まったく違う家が建っていた。この目で見た現実的事実。



そうだ、母さんの仕事がもう終わった時間だ。とりあえず連絡してみよう。



千佳は携帯で母の仕事先に電話をかけてみた。携帯は繋がらなかった。



「ちょっと、電話してくる。」


 と葛城に言うと、千佳は公衆電話に向かった。


 公衆電話に母の仕事先の受付係りが出た。


「飛騨の娘の千佳ですけど、母はまだそちらにいますか?」


 と千佳は聞いた。千佳は5分程待たされた。そして


「飛騨様は当社には在籍しておりません。」


 と言う返事が返ってきた。千佳は


「企画部長の飛騨ですよ。」


 と言った。受付係は


「飛騨と言う名前の社員は、当社には在籍していません。」


 と言った。千佳は


「辞めたんですか?。」


 と聞いた。受付係は


「いえ、過去にも在籍した記録はございません。」


 と言った。千佳の体から力が抜けていった。


 千佳は礼も言わず、受話器を置いた。



 つづく 


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