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地蔵の子猫



その子猫は毛の長い美しい猫で、裏路地にひっそりと佇んでる地蔵の前に捨てられていた。


箱の中に入れられた子猫は、声を嗄らしながら必死で泣いていた。


男は箱の中から見上げる子猫と目が合ったが、無視した。


 



捨て猫など珍しい光景ではない。



 


男が無視して通り過ぎようとすると、子猫は箱の中で必死に暴れ、箱をひっくり返して箱の中から脱出して、そして、男の後を付いてきた。


 


その時の男には子猫を追い払う気力もなく、子猫が家の中に入ることすら許してしまった。


幸い、古い下町の一軒家に住む1人暮らしの男が、子猫を飼う事に反対する人など誰もいなかった。


 


2週間前の事だ。


 


今では外に出歩く様になった、その子猫が窓の外で騒いでいた。


男が時計を見ると、いつもの夜のえさの時間がとっくに過ぎていた。



密封された部屋の中では、練炭が焚かれ部屋の中の酸素濃度を徐々に薄めていった。



男は薄れ行く意識の中で子猫に


「お前ぐらい美しい猫なら、すぐに誰かに飼ってもらえるさ。俺なんかと違って。」


と。



男は子猫の鳴き声を無視して、部屋の中の酸素がなくなるのを、じっと待ち続けた。



意識が朦朧とし始めた男の頭の中を、子猫の鳴き声がサイレンの様に響きだした。


 


男は


「うるさい。」 


と言って仕方なく窓を開けた。


窓を開けると新鮮な風が、新鮮な酸素を男に送った。男は無意識に大きく息を吸った。



部屋の中に入った子猫は、怒りをぶちまけるように、鳴きまくった。



その様子は、死のうとしている男に、怒りをぶちまけている様にも見えた。男は


「まさか。」


と思いながら、子猫にえさをやった。



えさを与えられた子猫は、静かにえさを食べ始めた。


「やはり、えさか。」



子猫がえさを食べ終わると、男は子猫を部屋の外に出そうと捕まえたが、子猫は慌てて男の手元から離れ、たんすの上に駆け上った。



「お前まで死なす訳には行かないだろ。」



子猫はまったく動く気配を見せなかった。



男は仕方なく、椅子を持ってきて、たんすの上の子猫を捕まえに掛かった。


椅子に乗った男が子猫を捕まえようとすると、子猫は素早く身をひるがえし、楽しそうに台所の方へ走っていった。


 


「お前と遊んでる暇は無いんだ。」



結局、数時間、男は子猫を追いかけ続けた。



そして、


「もう、いい。」


と男は言ってテーブルの上に腰を下ろした。


 


子猫は男があきらめた事を確認すると、男の元へ歩み寄った。


そして、お気に入りのひざの上に落ち着いた。


 


男は苦笑しながら


「まだ、俺にはお前がいたか・・・。」


と言って子猫を撫でた。



 終


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