↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『朱里ちゃんの微笑み』短編小説集   作者: 健野屋文乃
13 たびだちの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
114/120

チキンな男子、女子マネに期待される。禁断の女子マネとの恋路。

ゆるゆるポンコツ陸上部だけど。


          ①



高校の陸上部には、女子マネージャーが2人いる。


女子の先輩と同じ年の結衣だ。



女子マネージャーとの関係に置いて、気を付けないといけないことがある。


女子マネージャーが、1部員を特別扱いするのは、色々嫉妬を生みかねない。


それが、ぼくみたいなチキン野郎だと尚更だ。



それなのに今、ぼくと女子マネは2人きりだ。


外でのランニングに女子マネがついてくるのは、問題ない。


かなり気は使うけど、かなり嬉しい。


でも、その嬉しさは隠さなければならない訳で。


          


          ②




自転車に乗った女子マネージャーの結衣は、ぼくに狙いをつけ


「走れ!ひくぞ!」


と背後から迫ってきた。


冗談じゃない事は、その距離から解った。



女子マネが部員をひくって!



地区の10000メートル予選を風邪で出場しなかった事に、女子マネはお怒りだ。



ぼくは逃げまくった。


そして、川沿い道に辿り着くと、ペースを落とした。


「ここはゆっくり走るコースだよ」


と説明を受けていたからだ。


今走ってるコースは、明日開催される学校のマラソン大会のコースだ。



ぼくと女子マネの結衣は、極秘でそのマラソン大会の為の作戦を練って来たのだ。


コースを走り、ぼくの体力を元にした最適なペース配分を調べ続けていた。



「わたしに春彦くんの意地を見せてよ!」


と自転車に乗りながら女子マネの結衣は、ぼくを見た。


ぼくにめっちゃ期待している目だ。



期待された事がないぼくには、嬉しさと同時に重さも感じた。


何の取り柄もないぼくに期待するなんて。



ガシャン!


振り向くと、女子マネは自転車ごと並木にぶつかっていた。


「大丈夫ですか!」


「決め台詞に気を取られて」



           ③




高校のマラソン大会。


普通の高校なら陸上部が上位を独占してもおかしくはないのだが、うちの高校のサッカー部は、毎年プロ選手を輩出するレベルの部だ。



だから、全国大会なんか行った事もないうちのポンコツ陸上部より、走り込んでいるし、そして速い。



そりゃプロのサッカー選手になることが、夢物語じゃなく現実の進路の可能性の選手とでは、意気込が違うよね。



さらに記録上、陸上部が1位を取った事は1度もない。


陸上部は創部以来ゆるゆるポンコツなのだ。



一応ぼくは10000メートルの選手だ。


選手と言っても選ばれた訳じゃなく、なる人がいなかっただけだ。


だって、ゆるゆるポンコツ陸上部だもん。



ぼくだって、ゆるゆるポンコツ陸上部生活を満喫しようと思っていたのに、あんな女子マネが入部していたなんて、知る由もなかったわけで。



      


            ④




スタート地点に、なんかやる気のある人たちが、たくさん集まってきた。


あ~サッカー部の顧問が、気合入れてる~


サッカー部なんだから、マラソン大会なんてスルーすればいいのに(泣)



やだやだ。この雰囲気。


ぼくは誰の事も考えずに、ただ走りたいのだ。



「春彦くん!」


やばい女子マネの声が聞こえた。


女子は午前中に走り終えて、気分が楽になってる感がをありありと出した上に、かなりのりのりの声だった。


やだやだ。この雰囲気。


競争とか向かないのよね。



「春彦くん、来て!」


ぼくは女子マネの結衣に手を掴まれて、校舎の裏に連れて行かれた。


「女子マネが、1部員を特別扱いするのはどうかと思うよ。


マラソン大会に出るのは、ぼくだけじゃないんだから」


「いいのいいの、たまには、さあ、わたしが作ってきた、特性のおにぎり、食べて」


と言ったが、ぼくの直感がお握りの危険性を察知した。



えっと、この女子マネージャー、ちょっと痛いのだ。



それを察したのか、彼女はお握りを、ぼくの口に押し込んだ。


んっ!?それはそれは強烈な味がした。



口を塞がれて、


「食べるまで離さないからね」



その強烈さにぼくの目から涙が零れた。


そして身体が熱くなった。



食べ終えると


「はいお茶」


と緑茶を差し出された。


「なんのおにぎり?」


「それは秘密」


「ドーピング?」


「それは大丈夫、確認済みだから」


「えっ確認が必要なモノを入れたの!?」


「どんまい」


「どんまいの使い方間違ってない?」



そして、女子マネの結衣は戦術を説明した。



「多分、サッカー部の2トップが、1位2位を占めると思うの」


この2トップは、みんなの予想ではプロサッカー選手になるであろう2人だ。


そんな奴らに勝とうだなんて。


ぼくとあの2人では、身体能力の差が一見するだけで解る。


あいつらは、もうほぼプロ選手なのだ。



「春彦くんはね、このうちの1人の後を追えばいいの。


そして2人を競わせて、油断したところを一気に追い抜く。


場所は校庭に入る寸前、その地点でわたしが待ってるから、そこからスパークを駆けるの。言うても相手はサッカー選手。長距離の練習ばかりはしてられない。


そこが唯1の勝てる点だよ」



大会のコースは、女子マネの結衣に自転車で追われながら、走り込んだコースだ。


言わばホームグランド。どこでペースを上げれば良いのか解っているコースだ。


そして女子と2人っきりで、こんなに長い時間一緒にいると言う、生まれて初めての経験をした場所だ。



結衣はぼくの太ももに触れるて、


「じゃあ頑張ってね、あそこで待ってる」


と。結衣に触れられると、自分の価値が高まって行く気がする。



           


            ⑤



スタート地点。


女子マネに指示された、ほぼプロ選手の2人の位置を確認した。


存在感が凄いし、カッコええ!


もう1流選手のオーラが出ている。



そして午前中に走り終えていた女子の視線を、集めてるのは言うまでもない。


その女子の中に結衣を探したが、いないみたいだった。



ほぼプロ選手の2人が、ふと、ぼくの方を見た。


ぼくを見た?まさか警戒されているとは思えない。


10000メートルの選手と言っても、ゆるゆるポンコツ陸上部だ。




            ⑥




「春彦、どうする?陸上部だからって、上位に行かなくても良いよな」


と陸上部員の安田が声を掛けてきた。


「それなりに走った方が」


「俺は良いわ」


まあ、こいつはその通りゆっくり走るのだろうな。


こいつこそ、ゆるゆるポンコツ陸上部員そのものだから。



スタートの合図で、男子の群れが走り出した。


ポンコツ陸上部とは言え、まあ上位にはそれなりにいた。



ぼくは陸上部の群れを離れて、女子マネの指示通りひたすら、ほぼプロ選手の2人を追った。


まるで獲物を狙う猫科の様に、警戒されないように距離を保ちつつ。



思いのほか走りは上々だった。


結衣に触れられた太ももが、まるで魔法が掛かったのように、ぼくを跳ねさせる。


本当にぼくの価値が上がったかのように、ぼくは加速した。



でもあの2人、さすが速いわ。




            ⑦




ほぼプロ選手の2人は先頭集団を抜け、2人で独走?態勢に入った。


ぼくは2人の足音に会わせ、2人の走るリズムを理解した。



重みのあるサッカー選手の走りだ。


サッカー選手には重みも必要なのだ。


しかし重みのある走りは、長距離の走りには疲労が貯まりやすい。



対してぼくの走りは、軽く跳ねるような走りだ。


女子マネの結衣が理想とする走りだ。



練習中に結衣が


「その差が勝敗を決するの!」


と自信を持って言った以上、そうなのだろう。



ぼくは、その言葉を信じて、先頭集団を抜け、追撃モードに入った。


観客の視線に驚きが混じり始めた。


       



            ⑧



ほぼプロ選手の2人は、後ろを振り向いたりはしなかった。


2人にとって、大して意味のないマラソン大会なのか?



でも、ぼくは違う。


何の取り柄もないぼくに期待している、結衣の期待に応えたい!


それをぼくは、心の底から欲している!



学校の校舎が見えてきた。そして結衣の姿も。


「春彦くん、今だ!行けぇぇぇぇ!」


その声にぼくの心も体も跳躍した。


でも結衣は、ぼくと並列して走ろうとしたが、転んでしまった。


「ここはわたしに任せて、春彦くんは行って!」


そして結衣の親友がすぐ結衣に駆け寄った。



転び方がワザとらしいし、台詞も棒読みだ。


そう、この小芝居の意味することは、



【レースのペースは予想以上に速い。春彦くんを警戒していたみたい。


ギア・結衣エクセレントスペシャルですべてを出し切って!健闘を祈る!】だ!



やっぱり、あの時の視線は、ぼくを見ていたんだ。


そりゃあ毎日、女子マネの自転車に追われながら、マラソンコースを走ってたら気づくよね。何度もサッカー部とはすれ違ってたし。



ちなみに【ギア・結衣エクセレントスペシャル】と名付けたのは、結衣本人だ。


若さ故の過ちだろう。



ぼくは、【ギア・結衣エクセレントスペシャル】で加速した。


【ギア・結衣エクセレントスペシャル】とは、ぼくの最大戦速を意味する。



ほぼプロ選手の2人が観客の異変に気づき、振り向いた時、ぼくは2人を追い抜き、校庭に突入していた。



校庭で待ち構えていた生徒たちの驚く声を、ぼくは一生忘れないだろう。




            完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。