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03.プロローグその2 わたしの夢

 ――なにか感覚がおかしい……。


 強い風が身体全体にあたる感覚がする……。


 彼女はそう感じていた。


 この感覚は、落下している感じだろうか。


 あぁぁ……。


 それに、これは夢でたまに見る、高いところから落ちるような感覚でもある。


 彼女は思う。


 なら今は、夢を見ている最中なのだろうか?




 でも……結構長いあいだ落ちてるような……。




「…………」

「……………………」




 彼女は気になり思い切って目を開けてみた。


 目を開けると彼女は思った。案の定、遥か真下には海が見えると……。


 ん? 案の定…………!? ……落下中!?




「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 えっ? マジ?


「本当にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 落ちてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 マジッ、怖いですううううううぅぅぅぅ!


「夢なら覚めてぇ~!!!」


 彼女は叫んだが、あまりの空気圧で口からよだれが飛び散る。


 大きく身体を動かしたせいなのか、身体が真下から横に180度回転し、背中を下にして上空を見上げるような体勢になった。


 彼女はそのとき、上空に島のようなものが浮いているのを目撃した。


「あぁぁ、わたしはあそこから落ちたんだ。なに落ちてんだわたし……」


 ある意味で安心はしたが、安心しては良いわけがない。なぜあんなところから落ちるのか。身体の感覚だけは、はっきりしていて恐怖心もおさまらない。


 しかも、上空からなにかこっちに向かってくる。


 ん? なんかウネウネしてる……。


 ウネウネ動いているそれは、彼女が子どもの頃に、近くの山でよく見たことがある『虫』に似ていた。


 でもそれは、普通じゃないサイズ。


 とてつもなく巨大な『虫』だった。


 言うなら、ムカデに羽が生えている感じの大きな『虫』。


 しかも、恐ろしく長いサイズであろうその虫は、こちらへ近づいてくるにしたがい、口のような部分が開いていることに嫌でも気づく。


 あれ? これってわたしを狙ってるよね? もしかして食べられる?


 彼女はこのシーンを昔見たなにかの映像だと感じた。


 ゆっくりとだが、ムカデもどきのお口の中が、彼女からもはっきりと見えた。


 彼女は思う。


 なんか、おろし金みたい。


 こういう命が危険なときは、スローテンポになるんだ……。


 あぁ……食べられる……。


 夢なら覚めてぇ〜!


 ドカ――ッ!!!


 えっ?


 食べられる瞬間、彼女の目の前をムカデもどきが勢いよく横にぶっ飛んでいった。


 そして彼女は思う……ムカデもどきをぶっ飛ばしたのは、大きな人型の……。


「『虫』???」


 人型なのは間違いないが彼女は気づく。手に指というか『爪』があり、足の先にも爪がある。表面はヨロイと言うより、甲殻類みたいな感じがする。後から付けた外装だろうか?


 動きだってカクカクした感じじゃなく、生物のような(なめ)らかな動き方をしている。


 なんと言っても、背中に羽のようなものが見える。あの外形に羽があるなら『虫』だろう。鳥とは形容できない。


 そう感じたとき、落下中の彼女は背中のほうで、風圧の変化を感じた。


「うんしょ!」


 彼女はもう一度なんとか身体を180度ひねって下を向くと、いつのまにか八角形の形状をした大きな物体が真下にいた。


(うん。カメに見えなくもない)


 そのカメの上には人が立っており、彼女に手を差し出していた。


 彼女はタイミングを合わせて、その人の手を握りカメの上にフワリと降りる。


 人が立つスペースと、身体を支えることができる鉄製らしきタラップがあった。


 バシッ!


 彼女がタラップのバーを握り身体をうまく安定させると、上空のほうでなにか派手な音がした。その方向を見ると、さっきの人型の『虫』と、ムカデもどきの『虫』が戦っている。


 人型の『虫』は、手に大きな剣をもっていた。あの手の爪で、器用に剣を持てるのかと彼女は感じる。こんなときにそんなことを考えるのは、自分の仕事のせいだろうかとも。


 ムカデもどきは、人型の『虫』に襲い掛かっていったが、人型の動きが速く、ムカデもどきの攻撃を上手くかわす。


 ムカデもどきは、長い胴体を利用して、人型を周囲から巻き込もうとしたが、人型は巻き込まれる前に剣を一閃。ムカデもどきの胴体(?)を切断した。


 彼女はその一瞬の動きにあっけに取られていたが、人型は切断したムカデもどきの半身を落とさないよう、器用に足の爪でつかみ取った。


 頭が付いた方の大きな部分は、下に落ちていった。


 足の爪で虫を掴んだ人型は、上空に上がる。


「えっ! 隊長先に戻るんですか? はい、わかりました」


 彼女の横にいる若者が、手に持ったマイクらしきもので話していたが、話し終わると彼女のほうを見る。

 

「あんた、幸運だったな。普通は島から落ちたら助からないぞ。俺たちが偶然見つけたからよかったけど」


 彼女に手を差し出して助けてくれた若者は、まだ幼さが残る表情で自分よりも若く見える。


「ん……?」


 彼の言葉を聞いた瞬間、彼女の頭の中に声が聞こえた。


(はっはっはっ!)


 突然、頭の中に強引に入り込んでくるようなこの笑い声に、彼女は軽く眩暈(めまい)を覚える……。


「おい、どうした? どこかぶつけたのか?」


 突然のことに、若者が心配そうに聞いてくる。


 少しずつ、頭の中に響いた笑い声が薄らいでいく……。


 なんとか落ち着きはしたが、まだ頭はボーっとする。


「だっ……だいじょうぶです。ちょっと混乱していただけですから。ごめんなさい、助けていただいてありがとうございます。ところで……あれはなんでしょうか?」


 彼女は『あれ』と言いながら、上空に飛んで行った人型の『虫』を指差す。


 彼女が指さす方向を見て若者は納得したように話し出した。


「機人のことか? あぁそうか。一般人が機人をこんなまじかに見る機会なんてそうないからな。あのパラムスはカッコイイだろう。戦闘用の重装甲を付けたらもっと良くなるんだぜ!」


 若者は『機人』と言う人型の巨人を、まるで誇るかのように彼女に教えてくれた。


 彼女は「あの虫みたいなフォルムがカッコイイかはとりあえず置いといて、仕事的に十分過ぎる興味の対象だわね」と思う。


「動力は何ですか?」


 彼女はそう聞き、若者の答えを待ったが、彼はよくわからないような、困った表情をして言った。


「あんた、よくわからないことを言うなぁ……。そんなもんオーラの力で動かしているに決まってるだろうが」

「ん? 『オーラ』? 『オーラ』の力ってなんですか?」


 そこで彼女は、ここがどこであるかを思い出す。


 やっぱりここ(・・)はなんでもありなのね。


 それに、今乗っているこの機体だってよくわからない。この形状で飛ぶためには……。でもこれは安定して浮いているし、なぜかしら?


 彼女はこの機体の中にも入りたかったが、この機体はまっすぐ島に向かって上昇していく。


「あんたをどこに降ろせばいいんだ? あまり遠くには行かせられない。基地からは帰れるのか?」


 彼女的には、帰れるかと聞かれてもどうしようもない。


 とりあえず、元に戻るまでは普通でいようと考え若者に告げる。


「基地までで結構です。あとはなんとかなります」


 『オハジキ』と呼ばれるこの浮遊カメ(勝手に名付けた)で、島の下部が見えるところまで上昇した。彼女が見るに島の下部には、ところどころに人が歩けるような階段が垣間見える。崖に足場を作ったような感じだろうか。


 島の上空まで上がってくる過程で、だんだんと大きくなるこの島の大きさに彼女は驚かされた。


 なぜなら、天空に浮かぶこの島は『島』と言うよりも『大陸』と形容できるくらいの大きさだったからだ。


 不思議なものは不思議に感じるのだからどうしようもない。


 大きな街が見えた。


 森や湖もあり、中世の城ようなものも見える。


 城を囲むように、城下町が形成されているが、その間に大きな広場がいくつか確認できた。


 各広場にも『機人』と呼ばれる人型の巨人と『オハジキ』と呼ばれる浮遊カメが垣間見えるし、大きな船も確認できた。




 彼女が乗っているオハジキが広場の一つに着陸すると、整備員らしき人が近づいてきて物珍しそうに彼女を見た。


「ねぇ、ジャマール。なんで、知らない女の人が乗ってるの?」


 助けてくれた若者の名前は『ジャマール』というのかと、彼女はそのとき認識した。


 ジャマールは、整備員らしき者に言い返す。


「島から落ちて、落下中なのを俺が偶然見つけたんだって! それよりケリー、調整の結果はダメだった。お前が言ったように俺たちの身体がもたない。詳しくは夜に説明する」


 彼女は作業服を着たケリーを見た。


 この整備員は『ケリー』という名前らしい。ジャマールと同い年くらいだろうか。ジャマールと同じように、雰囲気がなんとなくまだ幼い。


「そう……。でも、今僕はこの女の人のほうが気になるかな。てっきりジャマールがお嫁さんを拾ってきたのかと思ったよ」


 ケリーが、ジャマールをからかうように言った。


「んなわけあるか! それより隊長が『ガノーチカ』を仕留めて持ってきてるだろ? レイカー隊長もすぐ持ってくるぞ! 受け取りと、解体準備をしておいたほうがいい」

「そうなのかい。やったじゃないか」

「仕留めたというと、わたしを襲ったムカデのことですか?」


 彼女は口をはさんだ。


「ムカデ? ガノーチカだぞ」

 

 ジャマールが、彼女の間違いを訂正する。


「あのぉ……解体って、あの虫の死骸をどうするんですか?」


 彼女は興味本位で聞いてみた。


 ジャマールは、また不思議そうに彼女を見るが「こいつ、なに言ってんだ」という空気を醸し出している。


「何って、虫の外殻は装甲になるし、血管はチューブ配管や配線。血や内臓だって使えるし、薬にもなる。『ガノーチカ』ならエンガワを食っても旨いだろうが」

「えっ! エンガワって? 虫にもあるの?」


 彼女は首を全力で横に振りながら「いやいやいやいや、わたしには無理」と表現している。


 でも、彼女は重要な話を聞いた。


 金属には見えなかった『機人』や『オハジキ』の装甲は『虫』の外殻を使ったものだったのだと。


「金属では、だめなんですか?」


 疑問が押さえきれない。そう感じて彼女はまた自然と口に出してしまった。


「鉄のほうが強度はあるけど重すぎるんですよ」


 そう彼女に教えてくれたのは、ケリーと呼ばれた若者だった。


 ジャマールに比べ、口調が丁寧で育ちも良さそうに見える。


「拠点防衛を重視したタイプなら、金属でもよいのですが、速さを必要とした偵察機や『機人』には好まれません。とは言え、あなたも知っているように、採集はとても危険で『虫』は貴重で高価です。ですので、なにか良い素材がないか探しています」


 ケリーにそう告げられ、彼女は考える。


 金属じゃなくても、より軽い素材なら代用できるのではないだろうか?


 彼女が『オハジキ』の装甲を触りながら考えていると、上空から風圧を感じた、


 彼女を助けてくれた人型の虫と、同じ機人が広場に降りてくる。背中の羽のような部分から光が流れて出ていた。その手には『ガノーチカ』と呼ばれる虫の胴体を掴んでいる。


 彼女は最初、機人の外見を『虫』のようだと感じたが、見る角度を変えたらスマートな騎士のように見えなくもないと、印象を改めた。


 正確には、虫がヨロイを着た感じだろうかと……。


 人型の虫(あらた)め、スマートな騎士が地面に着地して片膝を地面につくようにしゃがむと、お腹にあたる部分の中心が観音開きで(ひら)いた。


 そこからヨロイを着た青年が飛び出し、器用に地面に着地した。


 栗色の髪をしたなかなかのイケメンで、こっちへやってくる。


 彼女は思う。身長は自分より少し高いくらいだからそれほど高いわけじゃない。でも、まとうような空気感は清閑せいかんで、いかにも只者ではないことを想像させる仕事ができて、尊敬されてそうな雰囲気だよねと……。


「身体に異常はありませんか? かなり落下していたようなので、なにかしらの後遺症が出るかもしれない。念のため、早く医者に診てもらったほうが良いでしょう。それに……今日はここに長居しないほうがいい」

「レイカー隊長。どうかしました?」


 ケリーが、不思議そうな感じでレイカーに問い返す。


「戻ってくる途中でメルメア家の船が見えた。確か今日団長と会う予定だったはずだ。あそこの若様は評判が良くない。こんな美人を見かけたら面倒なことになる」


 ケリーは眉毛を曲げて困ったような顔つきになる。


「それは……たしかに面倒なことになるでしょうね。それでは彼女を早く基地から出しましょう。早くこちらへ!」


 彼女はケリーに追い立てられるようにその場をあとにするが、レイカーと呼ばれた若者に別れを告げる。


「あのっ! 助けていただいてありがとうございました! お元気でっ!」


 レイカーは彼女にニコリと微笑むと、背を向けて基地の建屋のほうに向かう。


 彼女も彼に背を向けて基地の外に向かうが、そのとき背中のほうで大きな声がした。


「レイカー! 早くこいよ! 団長が報告を待ってるぞ!」


 彼女は背中から聞こえた「早く」の声に振り向こうとしたが、ケリーに腕をつかまれ、振り向けずにそのまま引っ張られていった。


 ケリーは彼女を基地の外まで連れていくと「それではっ!」と言って基地の中へ素早く戻っていった。


「あぁ~、あの子になら浮遊カメの飛行原理を聞けると思ったのになぁ~。まぁ、しょうがない」


 彼女は、基地の外を見る。


 感じるに、外の風景はなんというか中世の街並みだった。


 彼女は歩きながら探索することにする。


 石畳の真ん中を走る馬車。


 露店に並べられた野菜やお肉。


 走り回る子どもたち。


 基地の外は、とてものどかな世界と言える。


 と、思ったけど違ったらしい……。


 四輪の車両らしきものがやってくる。


 その車両は、オハジキでも聞こえたような同じ駆動音がした。


 その車両を運転していた男性は、止まって荷台の荷物を下ろす。さらに、別の荷物を積みなおし、再び乗ってからハンドルらしき水平のバーを(つか)んだ。


 男性は、大きく深呼吸すると気張るように声を出す。


「ハッ!」


 その瞬間ハンドルがぼんやりと光って、トラクターがゆっくりと前へ進み出す。


 あれがジャマールさんの言っていた『オーラ』なのだろうか?


「オーラで動かす機械……。ダメだ、あれだけじゃ原理がわからない。オーラはともかく、どうなって駆動しているのかの理屈が知りたい」


 彼女は車両を追いかけようとした。


 そのとき、彼女の頭の中で声が響いた。


 ――そなたの思考は、夢の中にしては明確で楽しませてくれる。その礼に良い物をやろう――。


 年齢不詳の男性を思わせるその声を聴いた途端、彼女は眠気に襲われる。


 あれ? ここ(・・)で眠くなるなんて……。


 そして、彼女はここ(・・)で眠りに落ちた……。



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