00. あれから4年後の公園デビュー
あの出来事から約4年が過ぎました……。
今日はこの子の3歳の誕生日で、ついに公園デビューです。
わたしの右手には、3歳になる息子の手が繋がっています。
本当はもっと早く連れてきたかったのですが、わたしの仕事が忙しかったこと以外に、この子があまり外で遊びたがらなかったから。
どうしてかと言うと、家の中でわたしが作ってあげたオモチャを相手にして、遊んでいたせいもあります。
それに、2週間前に東北地方を中心とした震災が起きました。わたしがいる東京でも強く揺れたのです。
福島にある原発でも大きな被害がありましたが、最悪の事態にはなりませんでした。
それでも多くの被害者がいて、日本全土ではあらゆる活動を自粛しています。
ですが、そうは言っても子どもにストレスを与えるのは良くないわけで、公園で遊ばせる程度には許される空気になりました。
少し嫌がる息子を半ば強引に連れ出したので、息子は少しおかんむり。そのせいか、彼はいつも家の中で遊んでいるオモチャの人形を右手に握りしめています。
公園に入ると、息子と同い年くらいの子どもたちが、砂場で遊んでいました。
わたしが子どもたちの近くにいた母親らしき人たちへ挨拶すると、気を使ってくれたのか、その中の一人が話しかけてくれました。
この公園に来るのは初めてですよね? どこにお住まいですか? ご主人は? 等々……。
まるで諜報活動かと思うかのような攻撃に、わたしは一瞬たじろぎます。
「シングルマザーです」と、告げたあとは一瞬言葉に詰まりましたが、いまどき珍しくもないのか「あっ、そうなの。うちもよ」と、周りには軽く聞き流されます。
そうこうしてるうちに子どもたちの目が、息子が手に持つオモチャにいったのがわかった。
子どもたちは、物珍しい形の人形に気づいて息子に群がってくる。息子は最初、人形を触られるのを嫌がりましたが、わたしが「触らしてあげなさい」と言うと、シブシブ見せてあげることにしたようです。
「あの人形って見たことないわね。戦隊もの?」
周りにいた一人の奥様がそう言ったので、わたしは「ははは」とはぐらかす。
まさか「自分で作った」とは言えない。自負するところではあるが、市販のロボット超合金並みのクオリティで制作した自慢の一品。研究所にあるフライスと旋盤を使って作り、さらに塗装もしたものなのです。
「あ~。このロボットには羽がある~!」
とある子どもがそう叫んだことにより、周りの子どもが集まってきて、人形を触りはじめます。
息子は、集まってきた子どもたちに最初は驚いていたが、そのうち見せびらかすように、人形を動かしはじめた。
わたしは「まぁ、可動域にも気を使ってますから」と心の中で自慢していたが、息子の手が背中の羽部分、バーニアに触れた瞬間、つい言葉に出してしまいました。
「おーい。パーちゃんの羽部分は壊れやすいから優しくね~」
それを聞いて、側にいた奥様が言う。
「子どもって自分の気に入ったものに、すぐ名前をつけるのよね~。うちの子もヌイグルミに名前をつけていたのよ~」
わたしも「そうなんですよね~」と、口裏を合わせる。
でも……実はそうではないのだ。
わたしは無邪気に遊ぶ息子を見ながら、昔のことを思い出す。
そして、心の奥底で呟いた。
「それはね……君のお父さんが乗っていた機体なのだよ」と……。
そしてそれは、4年前にさかのぼるわずか数日間の物語。
2つの世界をまたにかける出来事だったのだ……。