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人生裁判  作者: 絃芽こう
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08 1ヶ月の成果

「ねー、この後はどうするの?」


俺達はファミレスを出ると、適当に何処か遊びにでも探そうかと、街中をぶらぶらとしていた。




「なんかすごい見覚えのある道になってきた気がする…。」

「適当に歩いてた(はず)なんだがな…。」


だが、2人ともあまり外出をしない質のせいか、遊べる場所なんか思い付かず、気が付いたら役所の近くまで来ていた。


「ここまで来たなら中に入る?」

「わざわざ休みの日にまで来たくは無かったんだがなぁ。」

「それじゃあどうする?向こうの公園にでも行く?」

「そうだなぁ。また改めてここに来るのも面倒だから、数値がどうなってるか確認しに行くか。」

「えっ、今から?」


マシロと出会ってから1ヶ月程経ち、数値の変化を見るにはちょうど良い機会だと思い、提案(ていあん)してみる。

しかしやはりと言うべきか、マシロはあまり乗り気では無いのだろう。明らかに行きたくなさそうな声を出す。


「平日に来るよりは良いだろう。」

「何で今日の方が良いの?」

「何時でも測定自体は出来るが、今日なら休日で人がそんなに居ないだろうからな。」

「人が居ないと良いの?」

「人が少ない方が良いだろう?特に測定室の近くでは。」


マシロは、俺の近くに居るときは明るく振る舞っているが、1人で他の人と関わることを避けている節があるように感じる。

どうせいつかは測らなければならないのだから、せめて人目につく機会が少ない時に測定出来るならその方が良いだろう。


「うーん、他の人に見られるのも嫌だけど…」

「集団じゃなくて個別で測れる部屋もあるから、そこを開けてもらうことは出来るが…」

「個室なのは嬉しいけど…」

「入り口で言うのもなんだが、嫌ならば今日は帰っても良いぞ?元々来る予定じゃ無かったしな」

「嫌じゃなっ、くは無いんだけど…、先生も結果を見るんだよね?」


マシロも帰る気は無いのだろう、役所に入ってからも歩き続けるが、よっぽど測定が嫌なのか(うな)り続けている。


「流石に俺が結果を知らない訳には行かないからなぁ。」

「人が少ないのは嬉しいけど、心の準備がな~。いきなりすぎて…、変な数値が出るかもしれないよ?」

「元々マイナス200とか言う馬鹿げた数字が出てるんだ。今更何が出たって(おどろ)かん。」

「ば、馬鹿げたってひどいな~。」


喋りながらも歩みを止めずに進んでいるため、あっという間に目的地が近づいてくる。

そして、緊張を誤魔化(ごまか)しきれなくなってきたのか、マシロの口数が徐々に減って行く。


「別に今日で全てが決まる訳じゃないんだ。そんなに固くなることもない。ほら、ささっと行って終わらせてこい。」

「わ、分かってるけどさぁ。もぉ~、簡単に言ってくれちゃって、私がどんな思いでここに居るか知らないでしょ。」

「分からないから気楽でいれるんだ。ここでウジウジされてもたいして結果は変わらないからな。」


実際、マシロの期待値のマイナスはほぼ下限と言っても良いくらいだったのだから、そこからどれだけ上がったとしても、いきなり裁判を受けられるような数値にはならないだろう。


ただ、まだ半年以上時間があるとは言え、そろそろ何かしらの対策を考え始めなければいけないだろうし、数値が少しでも上がっていることを願うばかりだ。


「先生、あのさ…。」

「なんだ?」

「ちょっとお願い事があるんだけど聞いてくれる?」

「無茶な要求じゃなければなんだっていいが。」

「本当!?そ、それじゃあさ、もしも今日の結果が良くなってたら、またあのふぁみれすに連れてってよ!」


マシロは、あまり自分から期待値や幸福度について口にすることは無いが、やはり何かしら思うところはあるのだろう。

約束なんかしなくてもファミレスぐらい連れていってやっても良かったが、とりあえず俺は、彼女のお願いを聞いて不安を和らげてやることにする。


「あぁ、分かったよ。別にファミレスじゃなくてもエタリウムには色々店があるから、測定してる間に何を食いたいか考えとけ。」

「わーい、やったー!今日は先生と一緒に晩御飯!?」

「はしゃぎすぎだ、ここは一応役所の中だってことを忘れるなよ。」

「あっ、そうだった。ごめんなさ~い。」


マシロが大声ではしゃぎ出すので注意すると、すぐに大人しくなり小声で謝ってくる。

本当に、なんと言うか、あまりにも子どもみたいな行動をするので、小学生を職場見学に連れてきたのではないかと勘違(かんちが)いされてしまいそうだ。


「さて、俺は中まで入らず入り口で待ってても大丈夫か?」

「うん、なんだったら先にお家に行っててもいーよ!」

「ふざけるな、あっちの休憩室で本でも読んでるから終わったら呼びに来い。」

「分かった~。」


マシロはそう言うと、入り口まで行くのだがすぐには入らずに此方を振り返る。

過去2ヶ月数値が変わらなかったのだから、どうしても測定するのに躊躇いが生まれてしまうのだろう。

確認をするように口を開こうとするが


「別に数値が悪くても気にしないから行ってこい。終わったら適当に時間を潰してファミレスだ。」

「う、うん、分かった…。ありがとう…行ってきます…。」


俺はそう言ってマシロに測定室へ入るよう促す。


「さて、どのくらい時間が掛かるかね。」

彼女の姿が扉の向こうへ消えるのを確認すると、俺は1人呟いて休憩室へ向かうのだった。

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