07 助手
「へー、おしゃれなお店。先生、こう言う所も来るんだね」
「エタリウムでは普通の部類に入るぞ、このお店は。と言うか、本当に外食したこと無かったんだな」
俺は何処でお昼にするか悩んだが、マシロは家でしか食べたことが無いと言っていたので、無難に現世で言うファミレスのようなお店に来てみたが、彼女の様子を見るに正解だったようだ。
マシロの体格も合わさって、お店の中をキョロキョロと見回す様子は、小さい子どもが初めてのお出掛けにはしゃいでいるようにしか見えない。
「ほら、これがメニューだ。写真も付いてるから食べたいものを選べ」
「うわぁ~、凄い!どれも美味しそー」
「そんなに興奮するほどか?」
「当たり前だよ!!私が居た所はこんなお店だって無かったんだから!」
「お前が1人で外出することが少なくて良かったと思うよ」
俺はマシロの言葉を聞いて、外出が少ない理由が何となく分かったような気がした。
それと同時に、今日一緒にファミレスに来ることで、彼女が1人で出掛けてトラブルが起きる事を未然に防げたことにホッとする。
「ねぇ、ここに書いてあるドリンクバイキングってなに?」
「所謂飲み放題ってやつだ。向こうのドリンクバーから好きに飲み物を取って来れる」
「あー、そうなんだ…。歩くのめんどくさいし、私はこのクリームソーダって奴頼もうかな」
「それぐらい面倒臭がるなよ…。まぁ何だって良いがな」
何てことがありながらも、俺達は注文を終えて料理が来るのを待つのだが、その間マシロはご機嫌な様子だった。
クリームソーダが到着したときも嬉しそうな声をあげている。
「ふわぁ~、何これ!パチパチしてるよー」
「あぁ、炭酸は初めてか。飲むとき噎せないように気を付けろよ」
「これがアイスっていうの?冷たくて美味しー」
だが、炭酸は初めてのようで、一口飲むと案の定咳き込み始める。
「ケホッケホッ。何これ、口の中もパチパチする~」
「だから気を付けろと言っただろ。まぁ、そうなるとは思ったがな。炭酸がキツいならアイスを沈めれば幾らか飲みやすくなるだろう」
「う~、やってみる」
そして、残りの料理―マシロは包み焼きのハンバーグプレート、俺はステーキセットを注文した―も到着すると、食べ方を説明してやりながらの食事が始まる。
「うはー、凄いや!お肉を切ったらジュワジュワしたのが出てくる!!」
「まだ出来立てで熱いだろうから火傷しないように気を付けろよ」
「むぅ~、バカにして。私だってそれぐらいは分かるよ。さっきのたんさん?は初めてだからゲホゲホしちゃっただけ!」
そんな風に、騒がしいながらも楽しそうにご飯を食べていたマシロだったが、何か言いたいことがあるのか、急に神妙そうな表情を浮かべる。
「あのさ、先生…相談なんだけど…」
「なんだ?」
「あの…、もしも私が転生しないで先生とお仕事したいって言ったらさ、どうする?先生の助手にしてもらえる?」
突然先程までと比べて、大分真剣な内容の話になったが、俺はマシロの方からこれから先の事を相談されて、出会った時からの前進を感じる。
だからこそこの質問に対して、俺はハッキリと答えを告げる。
「するわけ無いだろう」
「なっ。どうして!」
「お子様が何を言ってるんだ。それに、俺はお前に頼らなきゃいけないほど人手に困ってないぞ」
「だから、私は子どもじゃないって言ってるでしょー!?」
「うるさいなぁ」
「う、うるさい!?」
やはりと言うべきか、この答えに納得がいかないマシロは騒ぎ始める。
それにしても、ナイフとフォークを握りしめて抗議するマシロ、これは誰の目から見ても子どもにしか見えないと思うのは俺だけだろうか…。
「冗談はさておき」
「じ、冗談!?私の真剣な相談を冗談で済ますの!?」
「マシロ」
だが、俺が名前を呼ぶと、真面目な空気を察知して、すぐに大人しくなる辺りは年相応の姿にみえる。
「お前は比喩でもなんでもなく、この仕事に就くにはまだ若い」
「うん」
「まだここに来てから3ヶ月、現世の事も来世の事も考えるにはまだ不十分な時間だ。それに、まだ初めて会ってから1ヶ月しか経ってない」
「マイナスが大きすぎて転生する事が選択肢から消えてるのかもしれないが、エタリウムに残り続けると言うのは、マシロが想像しているよりも重い決断になる」
「別に転生をしたくないって訳じゃないけど…」
「だったら尚更、今はまだそんな事を考える時ではない。まずは転生をしてから、もしもまた次の人生でエタリウムに来ることがあれば、その時に考えてみろ」
「そっか~、分かったよ」
俺はマシロの事だから、もう少し粘るのかと思ったが、意外にもあっさりと引き下がる。
その後も、届いたデザートを頬張る姿は、さっきまでの空気を忘れるくらい、子どものようだった。
「たった1ヶ月って言うけど、その1ヶ月で充分決意出来るぐらいの事をしてもらったんだよ、私は…」
だからこそお店を出る時、扉のベルのカランコロンと言う音に紛れて、マシロが小さくそんなことを呟いていた事に、俺は気付くことが出来なかった。




