04 真っ白なノート
「さて、名前以外で忘れてることは無さそうだし、数値が改善してない理由でも考えてみるか?」
「………」
少女は質問には答えてくれたが、それ以外のちょっとした雑談をしようとしても、無言で視線を逸らされてしまう。
本人は子ども扱いを嫌がっていたが、この様子を見ると、少女の体格も相まって本当に子どものようだ。
なので俺は、最初の数回無視をされた時点で相手は小中学生ぐらいなんだと、そのくらいの子なら知らない人に対して無口になるのも仕方がないと思うようにして対応することを決めた。
「現世ではお友達とかは居たのかい?」
「………」
「エタリウムに来てから不便な事とかはあったか?」
「………」
「食べ物のお店とかも色々あるが、食事はどうしている?」
「自分で作って食べている…」
俺は少女に幾つか質問をし、こんな風に反応が返ってきた話題について話をしていく。
「ほぉ、わざわざ自炊しているのか。1人で居ると面倒じゃないのか?」
「別に…。お母さんとよくやっていたから料理は嫌いじゃない…」
「料理はお母さんから教わったのか」
「うん…」
話していると、少女は現世の話題、特に母親と関係のある話によく返事をしてくれることに気が付く。
その事から、少女がこの数ヶ月数値の改善が見られなかった理由に現世への未練が強いのだろうと言うことが窺える。
とりあえず俺は、どうして少女がエタリウムに滞在することになったのかを確かめようと、次はノートを開いて貰おうとしたのだが、
「い、いやっ!」
その事を口に出した瞬間、少女はそう叫び、先程までからは考えられないような機敏な動きで、テーブルに置いてあったノートを胸に抱える。
そして、そのまま無理矢理取られないようにと、必死に庇いながら不安げな表情で此方を見てくる。
「参ったな、そんなに嫌がられると流石に俺も傷つくぞ」
「ノートは、絶対見せなきゃ駄目なの?」
「うーん、その方が今後の話をするのに楽だとは思うが、見せるのが嫌なら俺が聞いたことに、言える範囲で良いから答えてくれれば大丈夫だ」
「どうせこれを見たら…」
「うん?何か言ったか」
少女はボソッと何かを言ったような気がしたが、しばらく迷った後しぶしぶと言った感じでノートを渡してる。
「ずいぶんと迷ってたようだが、俺が見ても良いのか?」
「………」
ノートを渡した後、少女はムスッとした顔でそっぽを向くので、仕方がないと思いノートを開く。
ライフイベントノートは通常、前半部分に幸福度がプラスになった出来事、後半部分にマイナスになった出来事が点数と共に書かれている。しかし、
「これは…」
少女のノートは、真ん中までいくらページをめくっても真っ白のままで、一文字も現世で起きた出来事が書いていなかった。
それだけなら、これは少女のライフイベントノートではなく、普通のノートの可能性もあったのだが、真ん中から先には前半部分とは対照的にマイナスの出来事がしっかりと書かれており、それが、このノートが本物であることをハッキリと示していた。
ノートを読んでいる間、少女は此方を覗き込むように見ていたが、俺が読み終わり大きく溜め息を吐くと、ビクッと体を揺らし、今から何を言われるのかと怯えるように口元に視線を寄越す。
「なるほどなぁ、これでは見せるのを躊躇うのも仕方無いか。ちなみに、期待値がどれ程だったのか聞いてもいいか」
「…それだけ?」
「なにがだ?」
「ううん、なんでもない。数字は覚えてるけどこれも言わないとだめ?」
俺が気を取り直して、もう1つの方の数値を聞こうとすると今度は、心から疑問に思っている表情でこちらを見ている。
「この後の方針を考えるのに、両方数値を知っていた方が色々と対策を練りやすいと思ったのだが」
「どんな数値でも怒らない…?
「何故怒る必要があるんだ。エタリウムに滞在している以上低い数字になるのは仕方がないだろう」
「それなら…」
少女が答えるのをなかなかに渋るので、こちらの数値もノートの時と同様に相当低いだろう事が窺える。
「それじゃあ言うね。私の期待値はマイナス200。ここに来たときからそれは今日までずっと変わってないって…」
「なんだと!?」
だが、それなりに覚悟していたにも関わらず、予想外なまでの数値の低さに俺は思わず机をバンッと叩いて立ち上がる。
そして、それを見た少女は、ビクッと体を震わせ
「ご、ごめんなさい!」
と謝り、椅子の上で縮こまってしまう。
その様子を見て、俺は冷静になり再び席に着く
「すこし取り乱してしまったようだ。びっくりさせてすまない」
「う、うん…」
「もう大きな音は出さないから普通に座ってくれ」
「怒ってない?」
少女がそんな質問をしてしまうのも当然のことだろう。
「怒ってはないさ。ただ、始めての数値に少し驚いてしまった」
「やっぱり普通じゃないよね…」
「いや、数値がでかいだけで普通じゃ無いってことは無いだろう。とりあえず幸福度と期待値、どちらから改善するのがいいか…」
「えっ?」
数値が分かった所で、今後どのようにしていくか考えようとすると、少女から驚いたような声が出る。
「なんだ?」
「だって、こんな数字じゃ考えてもどうしようもないよ」
「それで困っているから相談に来たんじゃないのか?」
「………」
俺は、少女の反応が少し気になったので、面談に来た理由を聞いてみるのだが、答えは返ってこない。
「そうは言っても幸福度マイナス100で、期待値がマイナス200か…。どこから手をつけたもんかね…」
ここで考えても、すぐには案が出てこないと思った俺は、明日適当な場所でまた会うことを約束して、その日の面談を終えることにしたのだった。




