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人生裁判  作者: 絃芽こう
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03 空欄

「2ヶ月改善(かいぜん)無しか。こんなやつを担当させられるとは、俺もいよいよ新米卒業と言うことなのかね。」


俺は、これから会いに行く予定の人物についてのレポートを見てそう(つぶや)く。

亡くなった年齢は17歳と随分(ずいぶん)若いが、転生許可が出ずにエタリウムに残っている者なのだから、そんなに(めずら)しい事でも無いだろう。


それよりも、わざわざ面会場所を指定されていることに、年齢以外で何かしら問題がある子なのではないかと言う不安がよぎる。

なんにせよ、会う前から色々考えても仕方ないし、指定された時間も迫っているので、俺はその人物と会う予定の部屋へと足早に向かう。




「おや、もう来ているのか。ずいぶん早いんだな。」


目的の部屋に辿(たど)()くと、扉の前に居る男から相手がもう既に中で待っていることを伝えられる。

2ヶ月改善が見られなかった人物と言うことで警戒(けいかい)していたが、思っていたよりも協力的な人物なのかもしれないな。

なんて考えながら扉を開けると


「…。」

部屋の中では、髪も肌も真っ白な少女が、1人で椅子に座っていた。


「初めまして。今日から君の担当をするクロノだ。」

「………。」


最悪、今日面会出来ない可能性も考えていたので、直接顔を合わせられたことに安心したのだが、少女は緊張(きんちょう)しているせいか、それとも知らない人間を警戒(けいかい)している為か、俺を見定(みさだ)めるように此方(こちら)をじっと見つめてくるだけで、答えを返してくれそうになかった。


「ごめんな、こんな部屋に、小さい子が1人で待たされて不安だっただろう。」

「私を子ども(あつか)いするな。」


緊張を(ほぐ)そうと、見た目相応の子にするように話し掛けてみたが、子ども扱いに機嫌(きげん)(そこ)ねてしまったようだった。


「あぁ、すまない。ここでは見た目の年齢を優先して話すことが多くてね。それじゃあ君が今(いく)つなのか聞いてもいいかな?分からなければ別に答えなくても良いんだが。」

「…17。」


俺は、少女が自分の現状を、どれくらい把握(はあく)しているのか確認しようと質問をしたが、思っていたのと違う答えが返ってきたため、今度はもう少し分かりやすく質問をする。


「ええっと…、俺の言い方が悪かったな。確かに君は、17歳で亡くなったようだが、聞きたかったのは今の姿が幾つの時か分かるかな?と言うことなんだ。」

「だから、今の私の年齢が17歳だって言ってるの!!」

「それにしては随分小さく見えるが…。」


「小さくて悪かったね。それで、私は17歳だけどなにか文句でもあるの。」

「いや、文句は特にないな。とりあえず記憶がどれくらい正確か等を判断するのに聞いてるだけだからな。その様子だと亡くなるまでの事はけっこう覚えていそうだな。」

「まぁ、だいたい…。」



初めは無口だった少女も、緊張が()けたのかこちらの問いかけにすんなりと答えてくれる。

ここで一旦静かになったので、俺は気を取り直して今日の目的を少女に伝える。




「では改めて、俺の名前はクロノ。今日から君を担当する。2ヶ月間数値の改善が見られなかったそうだが、その年ではそうなるのも仕方がないだろう。まだ滞在期限まで時間はあるし、ゆっくりと心の整理をつけていこうか。」

「何も聞いてないんだ…。」


俺の説明に対して、少女がボソリと呟いた気がしたので聞き返してみる。


「何か言ったか?」

「何も…。」


しかし、答えてくれそうには無かったので俺は話を続けることにする。


「次は君の事を聞きたいんだが…、」

「どうせこれ見せれば十分なんでしょ。」


少女はそう言うと、既に渡されていたのであろう問診票のようなものを出してくる。

だが、渡されたそれに名前が見当たらない。


「ん?名前は何処にあるんだ。」

「一番上にあるでしょ。」

「空欄のようだが。」

「空欄じゃないよ。それが私の名前。」

「俺には真っ白に見えるな。」


恐らく名前は思い出せなかったのだろう。

先程から少女は、(うつむ)いたままつまらなそうに髪を(いじ)ってるが、最初と違いこちらの問いかけに返事をしてくれる。



「まぁ、大体覚えているのなら名前ぐらいは問題無いな。それよりも…」

「えっ?」


そして、そのまま話を続けようとしたのだが、俺の言葉に少女は(おどろ)いたのか、一瞬(いっしゅん)顔を上げてこちらを見る。

しかし、またすぐに表情を戻して俯いてしまう。




その後、結局少女は顔を上げること無く、問診票の確認を終えるのだった。

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