36 当然では?
「どうしたの?クロノ。なんか元気無くない?」
別の日、俺はアサギと面談をしていたのだが、その途中で俺の様子が気になったのか、彼女からそう尋ねられる。
「そう…見えるか?」
「もしかして、マシロとけんかでもした?」
彼女のその鋭い言葉に、俺はドキッとする。
「マシロから聞いたのか?」
「別に。ここ1週間ぐらい姿を見ないから、何かあったのかなぁって。その感じだと正解かな?」
アサギは、マシロと見た目の年齢が近いせいか、他の人と話すよりもお互いに、いくらか気楽に付き合ってるように見えた。
「お前の所にも来てないのか…」
「うん、来てないよー」
マシロが家を飛び出した日から暫く経つが、あれから彼女が誰かと会ったという話を聞いてない。
アサギがマシロとの出来事を知らないと言うことは、どうにもマシロはあの日から、完全に他の人との関わりを絶ってしまっているらしい。
「そうか…面談が終わってから話すつもりだったんだが、今マシロとは気まずい状態でな、もしマシロから相談があれば力になってくれると助かる。それと、前に頼んでいた件、あれはもう聞かなくて大丈夫になった」
「ふーん…てことは、ケンカの原因はそれかぁ」
アサギには、どのタイミングで話すか迷っていたが、せっかく話題に出たので俺は、すでに何度か繰り返した説明を彼女にもする。
そのついでに、俺は彼女に『マシロが転生を望んでいるのか聞いて欲しい』と以前お願いしていたそれが、本人から直接確認出来たことを伝える。
それだけでアサギは、俺とマシロに何があったのかなんとなく察したようだった。
「ちなみにマシロは、転生するよりもここで残って、クロノの手助けがしたいって言ってたよ」
「っ……」
ただ、アサギはもうマシロからそれを聞き出していたのか、一応そう言って聞いた内容を報告してくれる。
「何でも、色んな心察官にたらい回しにされてたところを、唯一親身になって相談してくれた人だから、何かしらの恩返しがしたいんだって」
マシロは、前にトキハと会った時にも、心察官になりたいのだと話していたが、アサギにもそう話しているということは、あの時から彼女の気持ちは変わっていないのかもしれない。
「そんな、俺は心察官として当然の事をしてただけで、恩返しなんてものは…」
「そうね。あたしも話を聞いてて、とってもお仕事熱心な人なんだなぁってしてか感じなかったけど、あの子は違ったみたいよ?」
アサギからマシロの気持ちを聞いて、驚く俺に対して彼女は、なんとも皮肉めいた事を言う。
「死後の世界だとか転生がなんだって言ってても、お仕事だってなると人のやることは、どこでも一緒なのね」
「仕事…か…」
彼女のその言葉に、俺はマシロに言われたことを思い出す。
「アサギは、仕事を頑張るのは、悪い事だと思うか?」
「それを、頑張り過ぎて死んだあたしに聞くの?」
俺は、頭の中がマシロのことばかりになっていたせいで、ついアサギにそう尋ねてしまう。
「す、すまない!失言だった」
「別に良いけどさ。クロノは真面目すぎるんだよね」
指摘されて俺は、今の質問が彼女に問うべきものではなかったことに気付いて、すぐに謝罪をするが、彼女はそう言って俺の失言を流してくれる。
「…相談者のこと全員、転生させるのが正解だと思ってる?」
「何が…言いたい」
「クロノはさ、何でマシロが心察官になるのに反対してるの?」
「それ…は、」
だが、彼女から続けてされる質問は、そのどれもが鋭い内容で、俺は答えようにも言葉が詰まってしまう。
「あはは!ごめんごめん。これは意地悪な質問だったよね。まぁでも、マシロから少しは話しを聞いてるから、あの子には転生しか選択肢が無いって事は知ってるよ」
「っ!?」
アサギは、さっきの意趣返しだと言うように、ケラケラと笑っているが、俺は彼女からもたらされる事実から、マシロが
俺の予想以上に、自分の現状を把握していることを理解する。
そして、見た目の年齢が近いからか、2人が仲良くなるのにそう時間が掛からなかったのは見ていたが、マシロがそこまで深く、自分の事情をアサギに話していることに驚かされる。
「だからさ、あたしには誤魔化して答える必要は無いよ?」
別にアサギに、マシロの事で俺を批難しようという意思は無いだろう。
そう思うのに何故か、笑いかけながら首を傾げる彼女から、静かな怒りのようなものを感じ、俺は背中に冷や汗を流すのだった。
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