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人生裁判  作者: 絃芽こう


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34 記憶

「えっと、本当はと言うと、現世での年齢の事ですよね?」


仕事柄、現世での年齢、つまりは見た目ではなく亡くなった時の年齢を、相手側に尋ねることは良くあるのだけど、反対に、自身の年齢について聞かれることはほとんど無いので、俺はどう答えたものか考えてしまう。


「えぇ。わたしがこんなだから、もしかしてクロノさんも、現世の方ではそれなりに年齢を重ねていらしたのでは?」

「うーん、そうですね。でもまぁ、俺みたいな人間は、見た目の方に精神が引っ張られやすいので、あまり関係が無いと思いますよ。」


結局悩んだ末、現世での年齢を教えると相談者に見くびられるからと、現世での年齢を公開しない心察官も居るという話を思い出し、俺はそう言って誤魔化すことにする。


勿論、ミズキがそんな人だとは思っていないが。


「あら、そんな事無いと思いますよ?積み重なった経験は、忘れない限り残り続けるものですからね。」

「なら俺は、見た目通りに扱ってもらった方が良さそうですね。」

「ふふっ、教えて貰えないのね。」

「すみません。」


ミズキも俺が教える気の無いことに気付いたようだったが、それ以上追及する事は無い。




「さて、この前の測定の結果なのですが…」


元々マシロの事を報告してる時点で、今日の面談内容からズレてしまっていたので、ある程度話が落ち着いたところで、俺は話を本題に戻す。


まずは、いつものように数値の確認やらをするのだけど


「やはり、多少の上下はありますが、マイナスのままですね。」


ミズキは、転生許可を得る為の条件である、幸福度と期待値の数値において、期待値だけがマイナスであった。


「やっぱりそうなんですね。」

「えぇ。なかなか改善しませんね。」


彼女は、本人も「思い残すことのない幸せな人生だった」と言う通りに、最後の瞬間まで幸せに満ちた人生を送っている。


しかしそれ故に、来世ではそれ以上の幸せを迎える事が出来ないのでは、と言う恐怖によって、期待値の内訳である未練度、希望度の両方ともがマイナスになってしまっているのだ。


ちなみに、未練度は主に前世への未練や執着度合いを、希望度は来世への感情を元に、それぞれ100からマイナス100までの数値で表される。


期待値は、この2つを合わせたもので、200からマイナス200までの数値で表される。


これにライフイベントノートに書かれた内容を、100からマイナス100で可視化したものが幸福度で、基本的にはこの数値を足してプラスの数値が出た人に、転生許可が出される。


ただ、裁判の結果次第では例外が認められる事もあるようだが、出来るだけ高い数値を目指した方が良いと言うのは変わらないだろう。


その為には…


「やっぱり、記憶を消してしまうのが1番良いのでしょうか。」


ミズキが呟くそれは、以前俺が彼女に提案したものではあるが、実際のところ俺も同じ意見だった。


「そうですね。来世の運命がどうなるか、俺達にも分からない以上は、前世への未練を断ち切り、来世への不安を抑えるには有効な手段だと思います。」

「えぇ。それは分かってるのですけれどね…。」


理解はしていても、記憶を消すと言う行為自体に不安を覚えるのは、仕方の無い事だろう。


人によっては、消した記憶の内容次第で、見た目の年齢が変わってしまうぐらい、影響が出ることもある。


「幸いにしてミズキさんは、幸福度の方に余裕があるので、ライフイベントノートから、プラスの記憶とマイナスの記憶と、両方を選んでいけば調整がしやすいかと。」


だが、彼女のライフイベントノートには、前半部分がまっさらだったマシロとは違い、実に様々な内容が記載されていた。


更に、見た目が実際の年齢よりも相当に若いことから、多少記憶を削ったところで、今の状態に大きな影響は無いだろうことが予測出来る。


「たくさん幸せな経験が出来た人生に感謝すれば良いのかしらね」


ミズキは、微苦笑を浮かべながらそう言うが、その経験のせいで期待値がマイナスになり、転生出来ない原因になっているのは、なんとも皮肉なものだった。

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