33 経験
「応援…出来れば良いんですけどね…」
知らなければ、そんな楽観的な意見が出るのも仕方が無いだろう。
かと言って、今真実を彼女に伝えるのは、負担を背負わせる以外に与えるものは何も無い。
俺は、なんとかその言葉だけを絞り出すと、そこから先、何を話せば良いのか分からなくなってしまう。
「クロノ先輩…?」
「いや、すまない。そうだな、出来る限りマシロの助けになろうとは思っているが…」
「あっ!先輩、最近また一人担当する人が増えたばかりですもんね。マシロちゃん1人にかかりきりになるわけにもいきませんもんね。」
俺がいい淀持ったのを見て、トキハはその理由に気付いたようだった。
「任せてください!マシロちゃんから相談が来れば、わたしがバッチリ力になりますから!」
「あ、あぁ。助かるよ、ありがとう。」
正確に言えば、違う理由ではあったのだが、ある部分では間違いではない為、俺はそれ以上彼女の言葉を否定すること無く頷く。
その後は、特に話すことも無いので、そのままお昼休憩まで、お互いの仕事を続ける。
「今日はお一人なんですね。」
そうして午後、俺はマシロだけを気にするするわけにはいかないので、他の相談者、ミズキの元へ来ていた。
「えっと、そうですね。じつは…」
ミズキとの面談では、彼女とマシロの仲が良い事もあって、度々マシロを同席させることがあった。
別に、毎回一緒に居ると言うわけでは無かったのだけど、今日マシロが居ない理由は、普段とは違っていたので、俺は彼女にも、マシロと少し気まずい状態にある事を伝える。
「あら、そうなの?じゃあ、わたしの所へ来たら、優しくしてあげなくちゃね。」
「は…い…。よろしくお願いします…。」
トキハの時ほど詳しく話していないからなのか、俺の説明にミズキはあっさりとした反応を返す。
「あら、どうしたの?」
「いえ、理由とか…聞かないのかと。」
俺は、マシロと何があったのかを聞かれた場合、どこまでを話すべきか考えていたのに、予想に反して彼女は、何も聞いてこない。
なので俺は、逆に彼女に尋ねてしまう。
「ちょっとしたすれ違いがあっただけなんでしょ?」
「いえ、俺の失言で怒らせてしまったと言うか、なんというか…」
マシロと仲のいいミズキの事だから、てっきりトキハと話した時のように、心配の言葉の一つや二つ出てくるものだと思っていたのに、予想に反して彼女の態度は、何ともあっけらかんとしたものだった。
「でも、傷付けようとして言ったことじゃないんでしょ?」
「はい。そのつもりは絶対にありませんでした。」
彼女の質問に、それはありえないと力強く頷けば
「なら、大丈夫よ。ちゃんと顔を合わせて、ごめんなさいってすれば、きっと気持ちは伝わるわ。」
「そう…ですかね。」
まるで子ども同士の喧嘩だとでも言うように、俺の悩みに簡単にそう結論を出す。
「二人とも若いものね。そうやって悩めるなんて羨ましいわ。」
「若いって、ミズキさんもそんなに変わら……あっ」
俺の様子を見て、クスクスと笑うミズキに、言い返そうとしたところで、俺はある事を思い出す。
「そう言えば、ミズキさんは前世では…」
「えぇ。大往生だったわ。」
そう。彼女は、今でこそ20代半ばから30代といった見た目をしているが、亡くなった時の年齢は、それの2.3倍以上だったのだ。
「見た目で忘れそうになりますが、人生経験が豊富な方でしたね。」
「えぇ。辛いことも、楽しいこともいっぱい経験してきたわ。」
この街では、マシロのように、亡くなった時とそう変わらない年齢の姿で過ごしている人も居るが、ミズキのように、その差が大きくズレている人も多い。
それは、その人の人生で、1番精神が安定していた時期に姿が形どられるからだ、とは言われている。
「すみません。なんだか、俺の方が相談に乗ってもらっちゃいましたね。」
本来は、ミズキの数値改善の為の話し合いの場だったはずなのに、気が付けば自分の事ばかり話してしまっていた。
「ふふっ。年寄りの戯言だって聞き流してもいいのよ?」
「いえ、大変参考になりました。ありがとうございます。」
「真面目なのねぇ。」
けれども彼女は、大して気にした風もなく、おどけた様子ながらも、年の功を感じさせるような、柔らかな微笑みでそう返す。
「そう言えばクロノさんは、本当はお幾つぐらいの方なんですか?」
そして、話している途中でふと気になった、とでも言うように、彼女からそんな事を聞かれるのだった。




