32 担当官として
「えっ!?じゃあ、マシロちゃんとケンカしてるってことですか?」
数日後、俺はマシロと和解出来ずに、未だ気まずい状態のままだった。
だからと言って彼女を放って置く訳にもいかないので、俺は彼女からの相談が彼女の知り合い、今話しているトキハ辺りにあるかもしれない事を、簡単に報告していた。
「ケンカと言う訳では無いが」
本人が転生を望んでいないのに、彼女に時間を割いてくれるような心察官は、トキハ以外には恐らく居ないだろう。
そう思って彼女に声を掛けたのだが、その反応は予想以上で、自分の作業の手を止めてまで俺の話を聞いてくれる。
なので、俺はあの夜起きた事を、彼女にはもう少し詳しく話すことにした。
「まだ、自分の業務で手一杯でしょうに、面倒事を押し付けたようで申し訳無い。」
俺は、彼女にある程度の事情を話し終わると、そう言って頭を下げる。
「いえ、先輩には以前アイト君の事でお世話になりましたし、いつも手伝ってもらってるので。」
だが、トキハは『これぐらい平気です!』と、心強い返事をくれる。
「それにしても、マシロちゃんが転生を望んでないなんてねぇ」
トキハは、マシロの明るい部分しか見て来なかった為、その事実にも驚きを隠せないようだった。
「俺も、聞くまでは知らなかったので…。ですが、担当官としてそれを言われてしまうと、どう声を掛ければ良いのか…」
それは、俺があの日からずっと悩んでる事だった。
あれから何度か、彼女の家を訪ねた事はあるのだが、転生を目指して数値の改善を促す心察官として、何を言えば良いのか分からず、結局ベルを鳴らすことなく帰宅する日が続いていた。
「えっと…担当官としてですか?」
そんな俺の様子に、トキハが困惑した声を出す。
「そうですが、何か?」
「あの…担当官としてなら、出来る事は特に無いのではと…」
「はっ?」
今度は俺が、困惑する番だった。
「あ、あの、勘違いしないで下さいね!別に、マシロちゃんが嫌いとかそんなんじゃなくて…」
そんな俺に、トキハが慌てて補足する。
「単純に、転生を望まない人に対して、心察官が行動を起こす理由って、何かあるんですか?」
「…っ!」
あまりにも正論だった。
「すみません。あの、わたしは、何年かエタリウムで過ごしてから、心察官を目指したんですけど、わたしの周りでも、転生を目指して無ければ、そこまで数値を気にしてる人は居なかったので…」
彼女の言う通り、エタリウムで過ごす大半の人に、心察官の力は必要無い。
此方から積極的に住民と触れ合うのは、最初の案内の時だけで、それ以外は、転生の希望者など、基本的に住民の方から相談に来た時に、ようやく此方も相手との意思の疎通を図るのだ。
たが、マシロの場合はどうだ。
彼女は、この街へ来た時点で、幸福度と期待値がどちらも下限へと達している為、監視対象とされ、強制的に心察官を付けられているという状態になっている。
しかし、彼女の特徴的であるらしい容姿と、たった1年でそれらの数値が改善する訳が無い、という現実的な理由が原因で、2ヶ月ほど心察官の間をたらい回しにされていた。
彼女が今まで、転生を希望していない事を誰にも告げなかったのは、恐らく、それを言ってしまえば、すぐにでもアルター行きが決定してしまうと、そう直感していたからなのだろう。
そんな彼女に、何かしてやれることはないのか。
1人で考えても、結局答えが出ないまま時間だけが過ぎ、最終的に叩き付けられたのは絶望だった。
「わたしは、どうしてマシロちゃんが、心察官にお世話になっているのか、よく知らないんですけど、転生を希望してないのなら、前にもお店で話したみたいに、少しずつ数値の改善をしながら、心察官を目指すのを応援するのでも良いんじゃないですか?」
「それ…は…」
俺はここで、トキハにマシロについて、重大な事実を伝えてなかったことに気付いた。
彼女は、マシロの数値がとてつもなく低い事は聞いていても、それを1年以内に改善する事を、役所から求められてる事は知らなかったのだ。




