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人生裁判  作者: 絃芽こう


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28 お願い

「この、記憶を消すと言う対処法は、幸福度がマイナスの出来事の部分を消して、数値を引き上げるものだとは先程説明しましたね?」


俺は、アサギの疑問へ答えるために、もう1度さっきの説明を繰り返す。


「はい、分かりやすく言うとそうでしたね」

「では、もしもこのマイナスの部分を消したとして、それでも幸福度がプラスにならないとしたら?」

「えっと、さっきの説明で言うと、期待値の方の数値を上げるとか?」

「そうですね。基本的に、無理矢理数値を上げようとしたらそれぐらいしか方法は無いでしょう。」


エタリウムの説明の時もそうだが、アサギはこういった話について、魔法が発展している大陸から来た人達よりも理解が早いように思える。


「ですが、彼女は…マシロは幸福度がマイナス100。そして、期待値はマイナス200なのです」

「そんなに…低いんですか。全然そうは見えなかったです…」

「これも、下限の数値に達していると言うだけで、もしかしたらもっと低い可能性も…あります」


ここまで、自分が死んだこともすんなりと受け入れてきた彼女だが、流石にこの数値には困惑の表情を見せる。


「それって、1年でなんとかなるんですか?」

「難しいとは思います」

「ですよね…」

「それに、彼女には幸福度がプラスの思い出が無いので、本気で転生許可を得ようとするなら、記憶を全て消すぐらいしか方法は無いでしょう」

「………なんで、そこまで話してくれるんですか?」


俺はアサギに、マシロの現状を教えるが、彼女が疑問に思うのは当然だろう。

だが、俺がそうするのには理由があった。


「すみません。正直、俺には打つ手が無くて困ってます」

「…だからってなぜ私に?私達知り合って間もないと思うんですけど。と言うか、そもそも私は貴方に相談しに来たわけで…」

「そうですよね。相談者に相談って、可笑しいですよね。けど、貴女ならもしかしたら、マシロの気持ちを聞けるんじゃないかなって、そう思って」

「どう言うことです?」

「実は、彼女が本当に転生を望んでいるのか、俺はよく分かってないんですよ」

「えっ?」


そう、俺はこの2ヶ月をマシロと過ごして、本来なら最初に確認するべきであった事なのだが、色々な理由から未だ聞けずにいた。


「と言うのも、俺は彼女の担当を引き継いだだけで、当然のように最初から彼女が希望して相談していたと思っていた」

「違うんですか?」

「ああ。だが、そうだと気付いた時には、既に本心を聞けるような状態では無くなっていた」


俺が担当する前のマシロは、他の心察官(セレクター)達にたらい回しをされてるような状態だったが、それは彼女がそれでも転生を希望しているからだと思っていた。


しかし実際には、彼女はその数値が理由で常に担当の心察官をつけることを義務付けられていた。


それを、マシロと会った時に知っていれば、その時にでも聞けば良かったのだが、今となっては彼女に転生を希望するか聞いたところで、『はい。』以外の返事は返ってこないだろう。


「きっとマシロは、自分が転生したくないと言った場合、俺や他の心察官からも見放されてしまうと考えてると思うんです」

「それで、見た目だけでも年齢の近い私に、それとなく聞いて欲しいって事ですか?」

「話が早くて助かる。つまりはそう言うことだ」

「でも、それって私が協力する理由無いですよね。ましてや、まだこの街にきて右も左も分からない私が」


アサギは、俺が彼女に求めていることを理解してくれたようだが、彼女がそう言うのも当然だろう。


「なので、これは俺からのお願いだ」

「お願い?」

「ああ。アサギさんもマシロも、この後も何回か顔を会わせることがあるだろう。だから、気が向いた時、思い出したときで良い。その時になんとなく聞いて貰えたら嬉しいと、俺が思っていることを覚えておいてくれたら。マシロが答えないならそれはそれで良い」


俺は、そうやってアサギに強制してる訳ではない事を伝えると、彼女はしばらく顎に手を当て考える素振りを見せる。


そして、

「………1つ条件があります」

と答えが返ってきたので、俺は

「条件?」

と聞き返す


「はい、貴方のお願いを聞くのだから、私からのお願いも1つ聞いてくれますよね」

「勿論です」

「じゃあ、私には敬語外して喋ってくれます?」

「そ、それが条件ですか?」


彼女の要求がどんなものであろうと、出来る限り応えようと身構えてた俺は、飛び出した要求に思わず聞き返してしまう。


「クロノさん敬語苦手でしょ?喋りにくそうでしたよ?」

「確かに苦手ではあるが、そんな事で良いのか?」

「えぇ。あまり堅苦しいと、仕事漬けの日々を思い出しちゃうから」

「成る程。そう言うことですか」


だが、過労で亡くなった彼女の事を思えば、その言葉は納得だった。


「ならば、これからは普通に喋らせて貰うとしよう」

「えぇ、助かるわ。それで、私も貴方の事はクロノ先生って読んだ方が良いのかしら?」

「勘弁してくれ。変な呼び方はマシロだけで十分だ」

「じゃあ、クロノで」

「俺はアサギで」


気を遣う必要が無くなるのは、俺としても望むところなので、快くその提案を受け入れる。


「ふふっ。これから短い付き合いになると思うけど、よろしくね」

「あぁ。此方こそ宜しく頼む」


そうして、その日の相談はお互いにお願いをしたところで終わりを告げるのだが、最後にそう言っていたずらっぽく微笑むアサギの姿は、先程までの大人びた様子とは違い、まるで年相応の少女のようにも見えるのであった。

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