26 これも仕事の内
「それで、今はマシロちゃんと一緒に住んでるんですか?」
マシロが家にご飯を作りに来るようになってから数日後、俺はトキハとの雑談ついでにその事を報告する。
「一応、空いてる部屋があるからそこを自由に使って良いとは言ってるが、泊まったり泊まらなかったりだな。別に一緒に住んでる訳ではない」
「そうなんですね。でも、先輩がそう言う事許可するの意外です」
「俺もこんなことするのは初めてだ。ただ、今回はマシロが担当してる人達の中で、一番優先度が高いと思ったからな」
マシロが来たばかりの時は、俺が担当してるのは状態が落ち着いた人達ばかりだったが、今はほとんどが裁判を終えてこの街を去っていった。
そして、新しく担当する人達は、まだこの街に来てそれほど時間が経っていないのもあり、今後何かしらのトラブルが起きないとも限らない。
その中でも、マシロはこれまで見たこと無い程低い数値であるにも関わらず、それ以外の問題はほとんど無いと言う不安定な状態にある。
そうした状況でマシロがしてきたのは、他の相談者の事で忙しくなったとしても、1日に1回は彼女の様子を確認出来るうえに、仕事で疲れている日でも暖かい食卓を提供してもらえるという、言うなればメリットしかない提案だったのだ。
だからこそ、今回その提案を受け入れ、今に至るのだと言うことを、俺はトキハに説明する。
「先輩の事ですから、お仕事の為と言うのはなんとなく想像が付きますけど、ちゃんとマシロちゃんの気持ちも考えてあげてくださいよ?女の子が男の人の家に泊まるのは、それなりに勇気の要る行動なんですから」
「はぁ、似たようなことをミズキさんからも言われたよ。この後アサギさんとも面談予定だし、彼女にもこの事を伝えたら言われるかも知れないなぁ。…俺から言い出した訳じゃないんだがなぁ」
「もぉ、そう言うことじゃ無いですってば」
この後俺は、トキハから一応気を付けておいた方が良いことを聞くと、午後のアサギとの面談へ向けての準備を進める。
「えっと、マシロちゃんと同棲を始めたって事ですか?」
俺は、先日から似たようなやり取りを繰り返すのが少し面倒になってきてたので、マシロの事は簡単に説明してさっさと面談に入ろうとしたのだが、やはりアサギはこの事に食い付いてきた。
「同棲じゃない。ただ食事を作りに来てくれるだけですよ。それよりもこの前の『1年以上この街に滞在するとどうなるのか?』と言う質問の答えですが、簡単に言えば、2度と転生が出来なくなり、魂が形を保てなくなったとき、その人の精神も完全に消滅します」
「うぅ、真面目そうな雰囲気…。ここは一旦流された方が良いのか…」
「是非ともそうしてください」
しかし、それでも生前は会社員として働いていたからか、彼女は俺がこれ以上その話題に触れるつもりが無いことを感じ取ると、すぐに意識を面談へと切り替えてくれる。
「確か、ある程度の基準を満たさないと転生の許可は貰えないんですよね。そして、この街に来るのは、基本的に基準を満たせなかった人達で、1年以内にそれを解消出来ないと魂が消滅してしまうと…」
「はい、そう言うことです。来たばかりなのになかなか理解が早いですね。とてもこの前現実逃避をしていた人だとは思えないです」
「今だって出来るならそうしたいですよ。けれど、期限が決まってるんですよね」
どうやら彼女は、前回までに話した事もちゃんと覚えているようで、思っていたよりもスムーズに面談は進んでいく。
「そうですね。なので、早めに現状を受け止めて頂けると、次の話に入りやすいのですが」
「………はぁー、分かったわよ。私が死んだのは紛れもない事実で、今此処でこうしているのも、夢なんかじゃなくて現実って事も認めるわ」
「ありがとうございます。…それで、確認なのですが、アサギさんはこうして相談に来たのは、転生の意志があると言うことで宜しいですか?」
「良くわからないままこの建物に案内されたって言うのもあるけど…そうね、私は転生を望むわ。消滅なんかしたくないからね」
流されるままに相談に来ると言うのは、エタリウムではままある事だが、そうして来た人は大抵すぐには自分が死んだ事を認められなかったり、ここが夢の中だと考えたりするのだが、アサギは意外とすんなりこの事実を認めたようだ。
彼女は生前、魔法を使わない大陸に居たので、彼女にとってこの非現実的な空間は受け入れ難いものだと考えていたが…
ともあれ、ここでアサギの意思確認が取れたので、いよいよ転生について話し合う訳なのだが、彼女にはいったいどこまでを伝えるべきだろうか。
そんなことを考え、俺は口を開くのだった。




