25 その人は?
「先生、その人は誰?」
あの日から数日、アカバ先輩に遭遇する事を恐れてか、しばらくの間また黒髪の姿で居たマシロが、久しぶりに元の姿で役所を訪れたのだが、俺の隣に知らない少女が居ることに、彼女は怪訝な目を向ける。
「先生?えっと、クロノさん…、私あの子に凄い見られてます?」
「すみません、あの子も俺が担当している相談者の1人、マシロと言うんですけど、少し人見知りな所があるもので…」
「どうも、先生の1番の問題児、マシロです」
「自分でそれを言うのか…」
他の相談者と比べて、マシロは決まった日付以外でも、気紛れで俺の所へ来ることがあるので、一応他の人の時みたいに彼女が居ても大丈夫か尋ねようと思っていたのだが、その前に直接顔を合わせる事になるとは、タイミングが良いのか悪いのか。
「マシロ、この人は新しく担当することになったアサギさんだ」
「マシロちゃん、でいいのかしら?私はアサギって言います。これから宜しくね」
「ふーん。また女の子なんだ。しかも私より年下の」
マシロは、まるで知らない人が来たときの小動物みたいに、恐る恐るといった感じで此方へ近付いて来る。
「そんな目で見られてもな、別に俺が選んでる訳じゃ無いんだが…。それに、彼女はエタリウム基準ならお前より年下だが、元々は立派に成人している方だ」
「えっ!?私より年上なんですか??」
「あぁ、すみません。エタリウムでは亡くなった時ではなく、現在の姿だった時の年齢で判断することが多いのでつい」
アサギは黒髪の女性で、現在は16歳の姿をしているが、亡くなったときはの年齢は30を過ぎていたそうで、死因は仕事や普段の生活の疲れによる過労死だ。
マシロがどう思っているのか知らないが、余計な勘違いを生む前に彼女はマシロやアイト君と違って、見た目通りの年齢ではないことを伝えると、隣でアサギがびっくりしたような声をあげる。
「いえ…、その…小学生か中学生に見えていたので、びっくりしてしまって…」
「むー、失礼な!私は立派なレディ!大人です!!」
「ご、ごめんなさい!えっと、マシロさんって呼んだ方が良いかしら?」
「16歳と17歳なんだから大して変わらないだろう。すみません、アサギさん。騒がしい奴で」
俺は、アサギにマシロは17歳で亡くなった事と、今はその時の姿のままであることを伝え、お互いに見た目通りの年齢として接する事を約束すると、ようやくマシロの怒りが収まる。
「17歳…それじゃあ、亡くなった時はまだ学生さんだったのね」
「うん?学生?私は学校行ってなかったよ」
「あら、早い内から働いてたのかしら」
「え?違うよ。小さいときからお母さんと旅してたから、その学校…て言うの?行ったこと無いんだ」
「どういう…事かしら」
マシロが落ち着くと、そう言ってアサギが生前の話をするが、マシロの言葉に、彼女は困惑しているようだった。
「旅って、お母さまが転勤を繰り返してたとか、そう言うことかしら?」
「てんきん?それって何だっけ?」
「仕事の場所が次々に変わることを指すんだが、マシロの場合は当てはまらないだろうな」
「え?なんで?お母さん冒険者のお仕事をあちこちでしていたよ?」
2人の現世での環境があまりにも違った為か、ついにアサギは訳が分からないとでも言うように、頭を抱え始めた。
「冒険者!?ちょ、ちょっとまって…本格的におかしな単語が出て来はじめたわ。やっぱりこれは夢で、私はまだ会社で寝ているのかしら」
「う、うわっ!どうしたの!?急に1人で喋りだしたよ!?」
「そうよ、だってここは見たことないものがいっぱいあるし、車とか乗り物が1つも無いのだっておかしいわ」
まぁ、アサギが居たのは、他の大陸とは違い、魔法とは別の技術が発展した文化のある大陸だったのだから、こうなってしまうのも仕方がない。
大陸同士の付き合いがない訳じゃ無いが、それでも彼女からしたら魔法なんてのは眉唾物みたいなものだろう。
「残念ながらここは死後の世界で、貴女は亡くなっています。現実を受け止めてください」
「わ、先生…他の人の時とは違ってハッキリ言うんだね」
「彼女にはこうした方が理解が早いかと思ってな」
「ふーん?そうなんだ。じゃあ、私には隠していることがあったりするのかな?」
「どーだかな」
そうしてマシロからの追及を躱しながら、俺は新しい相談者とマシロの相性が悪くないことに期待するのだった。
そして、アサギと今後の方針を話し合った帰り、マシロを家まで送る途中の事だった。
「ねぇ、先生?」
「なんだ?」
「あのさ、やっぱりこれから忙しくなっちゃうの?」
「そうだな。数値が安定してきた人達は裁判が控えてるし、新しい相談者も来たからな」
「そっか…」
マシロが俺の仕事について聞いてくるので、正直にそう答えると、彼女は小さく呟いて考え事を始める。
「………ねぇ、忙しいとさ、ご飯作るのも大変だよね?」
「まぁ、そうだな。疲れたときは簡単なもので済ませてしまうことも多いな」
「…ならさ!えっと、その…私が作ろうか?」
「どういう事だ?」
しばらくすると、マシロは何を思ったのかそう提案してくる。
「先生、前に私のご飯美味しいって言ってくれたでしょ?」
「ああ…」
「だったらさ、これからは夜ご飯は私が作ってあげるよ!!」
「どうして急に…。気持ちは嬉しいが、大丈夫なのか?」
「任せてよ!まだまだお母さんから教わった料理はいっぱいあるんだから、明日から楽しみにしててよね」
「まだ良いとは言ってないんだが…」
なんだか唐突に、マシロが家に来ると言い出すが、最近は相談する時間がしっかりと取れてなかったし、俺としては助かる部分が多いのも確かなので、彼女が乗り気なら良いかと思い、結局はその提案を承諾する。
「やった!それじゃあ、明日もお仕事頑張ってね!!帰ってきたら美味しいご飯を用意するからね」
「お前の面倒を見るのも仕事の内なんだがな…」
その後マシロは、早速明日のレシピを考え出してるようで、玄関で別れるまで終始ご機嫌なままなのだった。




