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人生裁判  作者: 絃芽こう


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22 アイト君

「こ、こんにちはっ!」


そこまで静かではない役所の入り口で、一際大きな男の子の声が(ひび)く。

一体何がどうしてこうなっているのか、その声を聞きながら、俺はその時、少し記憶を(さかのぼ)っていた。


「わ、私も会って良いんですかっ!?ででも…」

「そうね。アイト君との話し合いが終わったら、クロノさんと仕事に戻っちゃうけど、そうなるとマシロちゃんは一人でお仕事が終わるのを待つことになって、つまらないだろうし。せっかくだから、アイト君の遊び相手と言うか、お話し相手になってくれると嬉しいなって」


俺達の提案に、マシロは少しびっくりした表情を見せると、トキハは優しくマシロに語りかける。

マシロはその言葉に少し悩むような素振りを見せたあと、俺に話し掛けてくる。


「あ、あの…、先生はどう思う?」

「俺もまだアイト君とは話したこと無いからなぁ。マシロが思うようにすれば良いと思うぞ。けど、悩むってことはマシロは話してみたいって思ってるんだろ?」

「う、うん…」


マシロは、俺の言葉に不安そうな返事をする。

明らかに嫌がる様子だったら、俺も考えたのだが、なるべく最後の手段を取らずに数値を上げるためにも、マシロが自主的に行動出来ることを増やしていきたいと言うこともあり、俺は彼女の後押しになるような言葉を掛ける。


「だったら、不安はあるかもしれないが、話してみても良いんじゃないか?」

「そう…だね…。あの…、私、お友達とか居たこと無いから、どんな風にお話ししたら良いのか分からなくて…」

「そうか?別に難しく考えなくても、ミズキと話しているようにすればいいんじゃないのか?」

「…うん。分かった。私、頑張ってみるね」


そう言って不安を断ち切るように、両手を胸の前でグッと握りしめたマシロを見たのが30分程前だろうか。


そして今、トキハと話したかと思うと、緊張の為かとても大きな声でこちらにも挨拶をするアイト君と思わしき少年と、その姿にびっくりしてしまい、俺の(そで)(つか)んで離さないマシロが居た。


「ちょ、ちょっとアイト君っ!そんなに大きな声を出したら、マシロちゃんがびっくりしちゃうでしょっ!」

「ご、ごめんなさい!…えっと、おれ…いやっ僕、そんなつもりは無くて。えっと、その…だから、」


怯えるマシロの誤解を解こうと必死なアイト君に、なんと声をかけようか迷っていると


「ふふっ」


と言う声が隣から聞こえる


そして、慌てふためく彼の様子を見て、警戒心が解けたのか、マシロが俺の袖を離し、いつの間にか身に付けたのであろう、優雅な動きでアイト君へ挨拶をする。


「こんにちは、アイト君?」

「こ、こんにちは!」

「私はマシロって言います。この人は私を担当してるクロノ先生。これから宜しくね?」

「あ、あの…、うん!宜しくお願いします!」


マシロに直接声をかけられたことで、アイト君は顔を真っ赤に染めてしまう。

そんな彼を、マシロはお姉さんぶった態度で(実際に年上な訳だが)優しく話し掛けている姿に、まるで別人のような印象を受けるが、此方を振り返り、『しっかりお話しすることが出来たぞ』とでも言いたげなどや顔を見ると、やはりマシロだな、と感じるのだった。




それから、2人には仕事が終わる時間を伝え、好きに行動するように伝えると、博物館や美術館で時間を潰すと言う返事が返ってきた。


子どもだけで行くには珍しい場所だと思ったが、マシロの雰囲気と言うか、(たたず)まいで勘違いしてしまったのかアイト君が提案し、マシロも行ったことは無いが興味はあったのだろう。そんな様子をおくびにも出さず、そこへ向かうことが決定した。


一応、何かあったときはすぐに呼びに来るように言って2人を見送ると、俺達は役所の中へと戻り仕事を再開する。




「それで、休憩に入る前の話の続きですが…」

「はい、アイト君の事ですね」

「未練度が低く、時々発狂してしまうと」

「はい…。今後の話をするなら、ここが死後の世界だと言うことを認識することは避けては通れないのですけど、その話をすることが難しくて…」


休憩前に聞いた話では、アイト君は転生許可を得るために計られる期待値、その中でも未練度と呼ばれるものの数値が低いとのことだった。

更に、あることをトリガーとして発狂してしまうと言う。


成る程、エタリウムに来る人達の問題を解決するのは、どの人も一筋縄ではいかないとは言え、新人がいきなり任されるには難しい仕事だろう。

だが、幸いにもと言えるだろうか、数値が低いのが1つだけならば、本人との話し合いが必要だとは言え、解決の方法はある。


「そうですね、確認なのですが、役所へはアイト君の意思で来たのですか?」

「はい、エタリウムに入る時にここの案内も受けて来たそうです。」

「ふむ、そうなると、アイト君には転生の意志があると見て良さそうですね」

「そうですね、時々落ち着いた状態のままで転生についてのお話しも出来るのですけど、裁判を受けたいと言っていました」


「良かった。それならば、この方法が取れそうですね」

「この方法?」

「はい、我々が強制的に行うことは無いのですが、記憶を消す、と言う方法です」

「記憶を…消す…ですか…?」


俺の提案を聞くと、トキハは驚いたように目を見開くと、しばらく黙り込む。

きっと今、彼女の頭の中では、何故記憶を消すのかとか、本当にそんなことが可能なのかとか、様々な疑問が渦巻いてるに違いない。


「あの…、記憶を消すって、そんなことしたら…」

「これはあくまで解決法の1つと言うだけなので、他の方法を取れるならそれに越したことは無いんです。それに、先程言ったように、我々が強制的にそれを行うことはありません」


だが、それらの疑問を一旦置いといて、アイト君への心配が一番最初に口から出る辺り、彼女は本当に優しい人なのだろう。


「アイト君は、数値が低いのが未練度だけなので、恐らく発狂の元となっている記憶を消すだけで、転生許可を得られるようになるでしょう」

「全てを忘れさせる必要は無いんですね」

「えぇ。勿論アイト君との話し合いは必要ですが」


「俺が助言出来るとしたらこれぐらいですかね」

「いえ、十分です、1人だとこのままどうすれば良いのか全く分からなかったんですから。今度アイト君と記憶について話してみようと思います。本当にありがとうございました」

「これからきっとマシロの事とか、助けて貰うことがあると思うのでお互い様ですよ。俺の方こそ今日はありがとうございました」


そうしてトキハの相談が終わると、俺達はそれぞれの仕事へと意識を戻していく。



(俺とトキハの相談者が逆じゃなくて良かった)

トキハには話さなかったが、この記憶を消すと言うのは、アイト君のように1つ以上プラスの数値があると、非常に簡単な解決法として行われる事が多い。


しかし、マイナスの部分が非常に多い人の場合は、記憶の抜けにより精神が不安定になってしまうことがあり、それを未然に防ぐために全ての記憶を消してしまう。


いずれマシロには、話さなくてはならないだろうが、奇跡的な数値の改善が無い限りは、記憶を全て消す以外の方法では、彼女が転生許可を得るにせよ、心察官を目指すにせよどちらの道も選ぶことが出来ない。


「はぁ、心察官ってのは大変だな」


ここで考えているだけでは、何も状態は好転しないと分かっているが、思わずそう呟かずにはいられない。


「そうですね。私もそう思います」


そして、その呟きを聞いたトキハも、同じように溜め息を吐くのだった。

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