20 はじめまして
「今日は、マシロは来るのだろうか…」
俺は家を出ると1人そう呟き、役所へと歩き出す。
この前ミズキと面談をした日からしばらく経ったのだが、あれから1人でも外出するようになったのか、マシロが毎日のように俺の家に来ることは無くなった。
俺の方も、担当している内の1人が、そろそろ数値も良くなってきているので、裁判の準備をしようと、役所に行くことが多くなってきて、日中家に居ない日が増えてきた。
そのせいもあって、マシロが俺を探しに役所へ来ることが増えたのだが、役所に来るときは決まって例の黒髪姿をしているので、以前は廊下等で1人で待っていることが多かったのが、休憩室でのんびり本を読んだり、役所の人と話してる姿を見掛けることも増えてきた。
「クロノさんって、アイト君のことを覚えてますか?」
「えーっと、たしか、トキハさんが担当している男の子でしたっけ?その子がどうかしたんですか?」
「はい、あの…。彼の期待値を上げるのにはどうすれば良いのか聞きたくて…」
役所で、今度の裁判についての資料を纏めていると、トキハから担当している子についてのアドバイスを求められる。
どうして急にこんな話をされたのかと思ったが、彼女が心察官になった時期を考えると、そろそろ1ヶ月になるだろうし、あの男の子の測定結果が出たのかもしれない。
ひとまず、その子の状況を知らないと何も言えないので、トキハに尋ねてみる。
「期待値…ですか。ちなみに、アイト君はどういった理由でエタリウムに?」
「えっと、アイト君は事故で家族と別れていて、幸福度はそれなりにあるんですけど、まだ若かったせいか未練度がとても高くて…」
「なるほど。1つの数値だけがマイナスになっていると言うことですね」
アイト君がここに来てから、まだ1ヶ月ほどしか経っていないし、未練度だけが低いというのは、エタリウムに来る人達としては良くある事だと思ったのだが、更に詳しく話を聞いてみると、彼は時々その事故の事を突然思い出すことがあるようで、その影響でカウンセリングが思うように進まないらしい。
「本人もまだ、自分が亡くなった事を受け入れるのに時間がかかるみたいで、普段は平気なんですけども、ここが死後の世界だということを深く認識すると、大声で叫んで暴れだしてしまうんです」
「この前の格好を見る限り、彼はまだ学生でしょうし、事故で亡くなったとなると、尚更受け入れにくいでしょうね」
ミズキやアイトのように、未練度が高い人達は、カウンセリングを通じて徐々に傷が癒えていくのを待つのが対処法としてよく採られるのだが、今回のように過去の影響が大きい場合、相談者と話し合った上で記憶を消す方法が選択されることもある。
その事を話そうとすると『キーンコーン』と正午を知らせる鐘が鳴ったので
「とりあえず、この話は後にしてお昼を食べに行きますか」
と、一旦話を打ち切り食堂へと向かうのだった。
「あれっ!?先生?その人はだーれ?」
食堂に着くと、そこには黒髪姿のマシロが居た。
初めて彼女がここに居るのを見たときは驚いたものだったが、『朝家に居なくても、ここに来れば会えるでしょ。』とのことらしい。
それはともかく、普段俺は1人で食堂に来るため、マシロは俺の隣に人が居ることに驚いた表情をしている。
ちょうど良いタイミングだったし、俺には話しにくい事も、同性であるトキハには相談しやすいこともあるだろうと、2人をそれぞれに紹介することにする。
「マシロ、この人はトキハさん。俺と同じで心察官をしているから、俺に言いにくい事があれば、この人に相談してみてくれ。トキハさん、この子が前に話した相談者だ。アイト君の事で大変かもしれないが、マシロが困ってたら相談に乗ってもらえると助かります」
「マシロちゃん?わたしはトキハって言います。困ったときは何でも相談してくれて良いからねっ!」
「………」
マシロは、トキハの勢いにびっくりしているのか、初めて会う人にはまだ抵抗があるのか、俺の腕を掴んで半分ほど姿を隠しながら、トキハの事を見つめていた。
「あんまり人見知りって訳じゃないんだが、ちょっと驚いてしまったようだな」
「そうなんですね。びっくりさせちゃってごめんなさい。これから宜しくね?マシロちゃん♪」
「………」
「とりあえず、続きは中でしましょうか」
あまり入り口で止まっていると、食堂へ来る人の邪魔になってしまうので、そう言って俺達は、それぞれにお昼を選んで席へ向かうのだった。




