18 でぇと
「今日も良い天気だな。まぁ、悪い方が珍しいか」
エタリウムでは、四季と言うものは存在するが、天気が変わることはほとんどなく、大抵は今日のようによく晴れた空が見える。
俺は歩きながら、そんな分かりきったことを喋るが、それ以外にマシロと何を話せばいいのか思い浮かばない。
数日前は、くだらない事を話しながら通った道だと言うのに、マシロと少し距離を空けた状態で歩いてしまうのは、彼女の普段と印象が全く変わった姿に、自分でも気付かないうちに緊張しているからなのだろうか。
「あの…先生?」
「な、なんだ?」
「なんかずっと静かだけど、もしかして、私とでぇとするの嫌だった?」
「い、いや。そう言う訳じゃない!というか、お前はデートの意味が分かってるのか?」
やがて耐えきれなくなったのか、マシロの方から沈黙が破られる。
「知ってるよ!大人のれでぃになるために、ミズキには色々と教えてもらったんだから!」
「色々とは…そう言えばこの一週間ほど、ミズキとずっと一緒に居たのか?」
「うん!」
話し始めると、先程までのような雰囲気が無くなり、見た目以外いつもと変わらないマシロがそこにいた。
それがわかると一気に気持ちが楽になり、お互いに緊張が解けたのか、先程までの無言の時間が嘘のように、ファミレスまでの道を2人で喋りながら歩く。
「食事はずっとミズキの家だったのか」
「うん!色んな料理を教えてもらったよ」
「そうか、マシロに教えられるとなると、ちゃんと家事が出来る人だったんだな。」
「『やらないだけで、出来ないわけじゃないわ』って言ってたよ」
「まぁ、何だかんだで人生経験の豊富な人だからな。料理以外でも学べることは色々あるだろうな」
「ほんとだよ!お料理の他にも、お洒落とか髪の毛のお手入れの仕方とか教えてもらったんだよ!」
ミズキの話題が出ると、2人で居た日がよっぽど楽しかったのか、マシロは嬉しそうにはしゃぎながら、その時の出来事を教えてくれる。
「髪の毛と言えば、それもミズキの提案だったりするのか?」
「うん。…やっぱり今日の格好変かな?先生さっきお話しあんまりしてくれなかったし…」
「そ、そんなことないぞ。最初に知らない人に見えたせいで少し戸惑ってしまったんだ」
元々現世で、母親と旅をしていた影響か分からないが、マシロは体を動かしやすそうな服を着ている印象があり、その体格と相まって子どものように見えていた。
しかし今日のマシロは、肩にかかるまでの長さの黒髪と、普段とは正反対の大人し目な服装をしており、そこに不安気な表情も重なり、小さなレディとでも言えるくらいには印象が変わっていた。
「ほんとう!?それって、私が大人のれでぃに見えたってこと!?」
「あ、あぁ」
それも黙っていればと言うコトバは飲み込みつつも、俺は素直に答えてやる。
「うんうん、ミズキの言う通りだったね」
それを聞くと、マシロは俺の返事に満足したように頷く。
そして、
「クロノ先生は…、今日の私といつもの私、どっちが好き?」
と、非常に答えるのが難しい質問を投げ掛けてくる。
「どっち…か。マシロは自分でどう思ってるんだ?」
「うーん。私は、先生が良いなって思ってくれるならどっちでも?」
「なるほど…、そうだなぁ。あーっと、なんだ。今のその格好も良いとは思うが、普段のマシロの方が接しやすいかなと、俺は思うぞ」
「そっか…。いつもの私の方が良いんだ」
なんとか俺はそう答えを絞り出す。
マシロはそれを聞いて何を思ったのかしばらく頬の辺りをモニモニとしている。
「そう言えば、前回の面談の時ミズキは、俺の事をマシロに近付けさせないみたいな感じだったのに、何で今日は普通にマシロを預けてきたんだ?」
「そうかなー?色々と教えてくれたし、先生の気のせいだと思うけど」
「色々と教えて貰ったと言うが、このデート以外にも変なことを色々と教えてそうだな…」
この1週間でマシロがミズキから、要らぬ知識を植え付けられてそうで、それを考えると気が滅入りそうだ。
「変な事じゃないよ!先生をびっくりさせるにはこれが1番だって教えてくれたんだから」
「確かに驚いたな…。話してみればいつもと変わらんのだがなぁ。」
「ふふーん、そうでしょ?ミズキが言うには、ぎゃっぷを見せて魅力を伝えるのが、大人のれでぃになるには必要なんだって」
1週間は、また相談者同士を会わせることに不安があったが、マシロのこの様子を見ると、お互いに良い影響を与えあってるのを感じるので、この出会いで2人の数値が少しでも良くなっていることを願うばかりだ。
「それで今日の格好だったのか」
「うん。お料理が出来るのも魅力的だけど、姿を綺麗に見せるのも大事よって」
「ミズキがわざわざ選んでくれたのか」
「うん。あとはお洋服以外にも、必要だからってういっぐとか、勝負し…って違う!何でもない!!」
マシロは、自分の頭や服を触りながら説明をしていたのだが、突然大声を上げて、顔を手で被い隠してしまう。
いきなりマシロが黙り込んだ理由もわからず、彼女を見ていると、指の隙間から見える肌がみるみる真っ赤に染まっていく。
「な、なんだ、やはりミズキから変なことを言われたのか!?」
「知らない!先生のばかっ!!」
俺は心配で声をかけたと言うのに、何故か怒られてしまい、なんとも理不尽だと思わずにはいられない。
その後、再び静かな時間が訪れるが、今度は、俺の差し出す手をマシロがしっかりと握って歩いていたので、不思議と気まずさは感じなかった。
そして、向こうの方にファミレスが見えてくると、ようやく此方を振り向き、マシロが口を開く。
「何回も誤魔化してちゃんと答えてくれなかったけど、今日の私はどお?可愛いかな?」
どうやら俺が誤魔化していることに、マシロは気付いてたようで、不安気ながらも期待をするような表情で俺を見てくる。
「あぁ。よく似合っている。可愛いと思うぞ」
「そっか、可愛いかぁ。…えへへ、嬉しいなぁ」
俺がそうはっきりと答えてやると、マシロは満足したのか、そう言って満面の笑みを浮かべる。
その時のマシロの表情は、とても晴れやかで、まるで太陽のように眩しいものだと感じたのだった。




