17 公園にて
「こんな所で待ち合わせなんて、何時もの喫茶店でも良かったと思うが…」
今日俺は、ミズキと面談の約束があるのだが、何故か待ち合わせ場所に、とある公園の時計台を指定されていた。
だが、少し早く到着してしまったのか、そこに彼女の姿は見えなかった。
俺は、この場所が指定された理由も分からず、しばらくの間、軽く愚痴を溢しながら彼女が来るのを待っていた。
「こんにちは。お待たせしてしまいましたか?」
「いえ、そんなに待ってないですけど。…そちらの方は?」
約束の時間になると、向こうの方からミサキがやって来たのだが、その隣には黒髪の少女が一緒に立って居た。
誰だろうと思い、顔を見ようとしたが、少女は此方の視線を感じると、ミズキの後ろへ隠れてしまう。
「あら、この子が気になるのですか?」
「いえ、見慣れない顔だったので…。この子は」
「うふふ、最近仲良くなったのよ。どうかしらこの子の服。一緒に選んでみたのだけど似合ってるかしら?」
俺はこの少女とミズキの関係性を聞こうとしたが、彼女は此方が尋ねる前に教えてくれる。
ついでに、初対面の相手には答えにくい質問も添えて。
「す、すいません。チラッとしか見てなかったのでなんとも…」
「あら、ごめんなさいね。この子ったら恥ずかしがり屋さんで。まぁ、前に出ていらっしゃい?今日はこの格好を見せるために来たんでしょう?」
「…っ!?」
俺はひとまずこの場をやり過ごそうと言葉を濁したが、ミズキはそう言って少女を自分の前に押し出す。
突然俺の正面に立たされた事にびっくりしているのか、少女はパクパクと声も出さずに悲鳴を上げる。
「俺に見せるために?もしかして何処かでお会いしたことが?」
「………」
まるで、俺とこの子が知り合いかのようにミサキが話すので、少女に聞いてみたいのだが、彼女はよっぽど恥ずかしいのか、ずっと俯いたままで顔を上げようとしない。
どうしたものかと思っていると、ミズキがクスクスと笑い
「気付きませんか?」
と、聞いてくる。
「ほら、お顔を見せてあげないと貴女の事が分からないみたいよ?」
再びミズキが少女に声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げる。
「…あ、あのっ。……この服似合ってますか?」
少女が俺と視線を合わせそう言うと、その声に聞き覚えがあった。
俺は、その少女とどこで話したのか思い出すために、ようやく合わさった視線を外さずに、その顔をしばらく見つめる。
すると、彼女の透き通るような白い肌が、徐々に少女の眼と同じ紅色に染まっていく。
「っま、まさかっ!?」
俺は、少女の正体に思い当たった瞬間に衝撃を受ける。
髪型や髪色が変わっていたこと、普段と比べて大人びた服装をしていることで、気付くのに時間がかかってしまったが、この少女は
「マシロ…なのか?」
俺の言葉に、少女は真っ赤になった顔を、コクりと縦に動かすと
「そうだよ…。気付くのが遅いよ?クロノ先生」
と、少し怒ったような表情で言うのだった。
「うふふ、それだけマシロちゃんが綺麗に見えてたって事よ。ね?クロノさん」
「そ、そうですね。本当に、なんと言うか…、良い服を選んでもらえて良かったな、マシロ」
俺が、マシロに対して何て言い訳をしようか考えていると、横で面白そうにこのやり取りを見ていたミズキが、助け船を出してくれる。
「む~、また子ども扱いしてー」
マシロは膨れっ面をするが、俺は急に年相応の姿に見えるようになった彼女が、何時も通りの表情をしたことで、少しホッとする。
「立ち話もなんですし、何処か座れる場所に行きましょうか」
「それなら、あそこのベンチが良いんじゃ無いかしら?」
「まぁ、お2人が良いならそれでも構いませんが…」
俺は、これ以上余計なことを聞かれないようにさっさと面談を終わらせようと、ミズキの誘導に従ってベンチへ向かう。
ベンチには、右側にミズキ、左に俺が座り、間が空いてるのでマシロが真ん中に座る。
「そうですね、今日の面談の内容ですが、お2人の様子を見た感じ、エタリウムには馴染めてきていると思って良さそうですかね」
「私は、元の暮らしと似ている部分が多かったので、珍しい物があるのには驚きますが、それ以外は大分不自由なく過ごせています」
まずは、生活面の確認からと思い聞いてみるが、ミズキはもうその辺りの心配は必要無さそうだった。
問題があるとすればマシロの方だが、果たしてどうだろうか。
「そうですか。マシロは、この1週間はミズキさんと一緒に居たのか?」
「うん。まだお店とかに1人で行くのは不安だけど、それでもミズキに色々教えてもらったから、……もう少し勇気を出せるようになったら、今度はどりんくばぁを飲んでみたいな」
マシロは、ミズキとの出来事を思い出しながら、拙いが、素直な気持ちを伝えてくる。
まだまだ転生許可を得るには、課題は山積みだろうが、ミズキと過ごした事で、マシロが少しずつでも前進しているのを感じられる。
俺だけでは、歩ませる事の出来なかった1歩を、進ませてくれたミズキにお礼を言わなければと、俺は彼女の方へ向き直る。
「御自身も大変でしょうに、わざわざマシロの面倒まで見てもらって、ありがとうございます」
「うふふ、この前はあんなこと言ってたのに、やっぱりマシロちゃんの保護者さんみたいね」
「そんなつもりは無いですよ」
だが彼女には、そう言ってからかわれてしまう。
「他に質問が無ければ、面談はこれで終わりになります」
「私は無いわ」
「私もだいじょーぶ!」
「では、今日はここまでと言うことで、お疲れ様でした」
そうして、面談が終わる頃にはお昼が近くなっていたので、何処かで昼食を取ってから帰ろうかと思っていると、ミズキから呼び止められる。
どうしたのかと思ったが
「せっかくオシャレしてきたんですから、マシロちゃんのこと家まで送ってあげてください」
とのことで、マシロがぴょんっと腕にくっついてくる。
それぐらいなら、先週までもやっていたことだと了承し、何処かへ寄り道した方が良いのか訪ねようとした瞬間
「先生とでぇとだね♪」
とマシロがとんでもない発言をし、1週間振りに胃が痛くなりそうな予感がするのだった。




