16 後輩
前回ミサキと面談してから数日が経っただろうか。珍しい事に、マシロはあの日から1度も俺の家を訪ねて来ていない。
一応、彼女が元気であることはミサキから伝え聞いているで、来ないならばそれはそれで良い機会だと考え、俺はマシロやミサキとは別の相談者達の様子を見て回っていた。
「………はい、最近の結果を見た感じ、滞在期限前には数値が届きそうですし、なんなら次は1か月後くらいに最終確認をしたら、そのまま裁判でも大丈夫そうですね」
「ありがとうございます。最初はどうなるか不安でしたが、相談をして正解でした」
だがまあ、マシロ達を担当する前から既に安定していた人達ばかりなので、皆顔を合わせても少し話すだけで、特にたいした問題も起こらず確認が終了する。
そして、俺はひとまず今の状態を整理しようと、役所へと向かうのだった。
「えーっと、この人とこの人は幸福度は足りてるから期待値を上げるだけだな」
「…っあ、あのっ!」
しばらく1人で事務作業を行っていると、後ろから知らない声に呼び掛けられる。
「えーっと、どちら様でしょうか?」
「は、初めまして!!今日から心察官になりました、トキハと言います」
「そうか、新人が入ったのか。俺はクロノ、まだまだ若輩者だから教えられることは少ないと思うが、これから宜しく頼む」
俺は一通り挨拶を済ませると、彼女に何故声をかけてきたのか尋ねる
「じ、自分はここの配属になるそうなので、ご挨拶をと思いまして」
「だとすると俺は一応君の先輩、と言うことになるのか?」
「はい!とても優秀な方だと聞きました!」
「誰だそんなこと言っているのは。俺はまだまだ先輩と比べたら新米みたいなものなんで、あまり固くならずに、気軽に接してくれるとありがたい」
彼女は俺にとって初めての後輩だが、アカバ先輩と俺のような関係とは違って、只の同僚になるので、同じ職場で働く以上、気楽にやってもらいたいものだ。
「分からないところはどんどん聞いてもらって良いんだが、俺も今年ようやく一人立ちしたばかりで、頼りになら無い事も多いと思う」
「そ、そんなことないですよっ!」
「慣れるまでは大変だろうが、気負わずに頑張ってくれ。それはそうと、ここへは何しに?」
俺はプレッシャーにならない程度に励ましの言葉を送ると、彼女にこの後の予定を聞いてみる。
「今日この後相談者さんに会いに行くんですけど、どういう子なのか確認しておきたくて」
「役所で面談ですか?」
「はい。まだエタリウムに来たばかりみたいなので、分かりやすい建物の方が良いかなって思ったんで」
「そうですね。確かにここならでかいですし、中に入ってからも案内があれば、迷うことは無さそうですね」
俺がそう言うと、彼女は何かに気付いたのか
「あっ」
と声をあげる。
「どうしたんですか?」
「これから相談者が来ることを、窓口に伝えてませんでした。アイト君がもう入り口で待っているかもしれません」
他に先輩の姿が無いので、既に迎えに行っている可能性が無いか尋ねてみるが
「わたしが案内すると言ったので、多分面談室で待機していると思います…」
とのことなのでとりあえず、入り口までこの後の簡単な流れを教えながら、一緒に着いていくことにする。
「そう言えば、何も聞かずに来てしまいましたが、待ち合わせは正面の方で良かったんですか?」
俺達は役所の入り口に到着したのだが、俺は肝心なことを聞き忘れていた。
「あ、はい。こっちの方で合ってます。中学生くらいの男の子らしいんですけど、まだ来てなさそうですね」
「あっちの方から誰か歩いてきてるみたいだが、男の子と言うことはあの子で間違い無さそうか?」
「はい、そうみたいですね。待たせることにならなくて良かったです」
「面談室の場所は分かっているんですよね。それじゃあ、もしまた何かあれば声をかけてください」
移動先に先輩も居るらしいので、ここから先は俺の手助けは必要ないだろう。
「初めての仕事で、緊張もあると思いますが、困ったときは1人で悩まずに、相談者や他の職員とも話し合ってみてください」
「はい、今日はありがとうございました。わたしも早く先輩方を助けられるようになるため頑張りますね!」
「あぁそう言えば、俺の担当している中の1人に、あの子と同じぐらいの女の子が居るので、もしかしたら、トキハさんが思っているよりも早く助けてもらう機会があるかもしれませんね」
俺はそう言うと少年が無事トキハと合流したのを見送ると
「それにしても、あれで中学生か。マシロと同じぐらいの背に見えたが、あの子が大きいのか、マシロが小さすぎるのか…」
なんて事を考えながら自分の仕事へと戻るのだった。




