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人生裁判  作者: 絃芽こう


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13 手料理

俺の呟きが聞こえていたのかいないのかマシロは


「ほへ?」


と変な声を出すと、再び俺の胸へ顔を(うず)めてしまう。




やがて気が済んだのか、俺からぴょんっと離れると


「いつの間にかもうすぐお昼だね。ね、私ご飯作るから良かったら食べていってよ」


と言って、キッチンの方へ向かってしまう。


まぁ、俺の方も少し落ち着く時間が欲しかったし、上機嫌に鼻歌を歌って用意してくれている所に、水を差すのも(はばか)られるので、大人しくソファに座ってマシロの様子を(なが)めることにする。




しばらく待っていると、部屋の中にトントン、と食材を切る音が(ひび)(はじ)める。


「く、クロノ先生は何か嫌いなものとかある?」

「特には無いが、何を作っているんだ?」

「んー?まだひみつ~」


前に、料理をするのは嫌いではないと言っていたが、今のご機嫌なマシロをみるとその言葉に(いつわ)りが無いことが分かる。




「用意出来たよ~」

「良い匂いがするな。何か手伝うことはあるか?」

「んふ~」



ガチャガチャと騒がしかった音が鳴り止むと、マシロが俺に声をかけてくる。

何やら悪戯(いたずら)を思い付いたような表情をして、此方へ向かって来たかと思うと、後ろの方へ回り込み突然首筋にカブリと噛みついてくる。


「あいたぁっ!な、何をしてるんだ!?」

「私のお昼ご飯は先生♪なんちゃって」

「冗談でもやめてくれ。心臓に悪い」

「えへへ~ごめんね。…ね、先生って吸血鬼って、聞いたことある?」


マシロは悪びれた様子もなくそう言ってキッチンへ戻ると、今度こそ料理を運びながら尋ねてくる。


「聞いたことはあるが…、確か人の血を吸う化け物だったか」

「そんな感じだね。さ、冷めちゃうから早く食べよっか」

「あ、あぁ。それじゃあ頂きます」

「うん。いただきます」


俺達は食事を始めるのだが、マシロの料理は、家でしか食べないと言うのも納得出来るくらい美味しかった。


「うむ、あれだけの時間でこれ程の物が作れるとは驚きだな」

「んふふ~、どーお?美味しい?」

「ああ、機会があればまた作って欲しいと思うぐらいには旨いな」

「んへへ~、先生の為ならいつでも作っちゃうよぉ~」


俺は料理の感想を伝えながら、マイナスを少しでも減らす糸口を掴むために、マシロが現世にいた頃の話を聞いてみることにする。


「母親に習ったと言っていたが、この料理もそうか?」

「うん、そーだよ。でも、お母さんはこれよりもっと美味しく作れるの!」

「これよりもか、それは凄いな。マシロの両親は、その…なんだ、どういう人だったんだ?」


マシロはキョトンとした後、俺の質問の意図が分かったのか、ご飯を口に運びつつ答えてくれる。


「お母さんは魔法が使えるだけで、それ以外は普通の人だったよ。お父さんは私が産まれたときに、逃げちゃったみたいだから分からないや」

「逃げた…だと?」

「うん、私の姿を見てヴァンパイアだ、って叫んでどこかへ行っちゃったんだって」

「ヴァンパイア…」


俺は先程噛まれた首筋を撫でながら呟く。


「真っ白な姿に血のように赤い眼。そして、日に当たるとすぐに焼けちゃう肌のせいで、夜にか行動しない私」

「小さな村で、私の事が噂になるのはあっという間だった。先生は私の事、ヴァンパイアだって思う?それとも普通の人間?」

「ヴァンパイアなんて空想上の生き物だ…。現実に居る筈がない…」


自分のことを指差しながら、そう聞いてくるマシロに、俺は曖昧な答えしか返せなかった。


「うん、そうだよね。最初は村の中でもそう言ってくれる人は居たんだ。けれどもある時、流行り病が村を(おそ)った」

「元々、村の人達は私に関わろうとしなかったし、私もお母さんと居れればそれで良かったんだけど、不安を解消するのに生け贄が欲しかったんだろうね」

「誰かが、『村に病気を呼び込んだのはあのヴァンパイアだ。自分達の血を吸うために殺し始めたんだ』って言い出したの」


「そんなの、完全な言い掛かりじゃないか」

「うん、そうだね。私もお母さんも最初はそう思って気にしていなかった。けど、病気に(かか)る人が増えていくにつれて、それを否定する人は減っていった」

「最後には、村長が家に来て村から出ていってくれないかって」

「幾らなんでも横暴(おうぼう)すぎる」


俺は思わずそう言うが、マシロは首を振って


「それでも、強制的に追い出そうとしなかったんだから、村長として良心のある方の対応だったと思うよ」

「村を出た後、私とお母さんは色んな所に行ったよ。基本的に移動は夜だったけど、お母さんの魔法があったから、暗いところも魔物が居るところでも何処でも行けた」

「お母さんは、お父さんと冒険者みたいなことをしていた時もあったみたいで、昔を思い出して楽しいわって言ってくれて…」


「私も、お母さんが嬉しそうにしてくれるなら、他の人に何て言われても平気だった」

「最初の何年かは幾つも村を転々としたけど、屋根のあるところで過ごせてたから、お母さんに地図を見せてもらいながら、今は何処まで来たとか、この辺りでは何が美味しいとか教えてもらって、私も冒険者になったみたいで楽しかった」


マシロはその時の事を思い出しているのか、幸せそうな表情をする。


「だけど、私が立ち寄った村に病気が流行っては追い出されるって言うのを繰り返した結果、私の見た目が目立つのもあって、いつの間にか少し遠くの村にも私の噂が届くようになっていたの」

「どうして…追い出されなければいけないんだ。お前は何もしてないんだろう?」


目立つ容姿をしているからと、何故幼い少女に全ての責任を押し付けることが出来るのか、俺には理解出来ない。


「うん。けれど、それを証明する方法も無いから、最終的には何処にも立ち寄れる場所が無くなって、日差しを避けられないせいで火傷が増えたり、疲れが溜まったりとかして熱を出しちゃって…」


そこから先は言われなくても何となく想像がついてしまう。


「……辛い話をさせたな」


俺は何とかその言葉だけを絞り出すが


「ううん、全然辛くないよ。ただ、先生には知っていて欲しかったんだ。ノートが真っ白でも、こんな風に大変な事もあったけど、それでも私にはちゃんと幸せだったって思える事があったって。先生が、私と普通に接してくれるのが、本当に嬉しいんだよって事を」


と、マシロは安心したような表情でそんなことを言う。


食事を終えた後も、俺はしばらく帰宅すること無く、にこにこと嬉しそうなマシロに、母親との思い出話を聞かされるのだった。

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