11 休日とは言え…
「この時間は早かっただろうか…」
次の日俺は、昨日よりも早い時間にマシロの家の前に来ていた。
普段彼女が家に来る時間よりは遅いし、もう起きてるとは思うが、昨日とは違い今日は用事があって来てるので、そこまで迷わずに呼び鈴を鳴らす。
ピンポーン
だが、今日も今日とてマシロが出てくる様子はない。
やはり来るのが早かったのだろうかと、出直そうかと思ったが、なんとなく扉に手を掛けると鍵が開いていることが分かる。
「鍵も閉めずに無用心な」
俺はそう呟くと、すれ違いになっている可能性も考え、声をかけながら家の中へ入る。
「おーい、マシロ。居るのか?鍵が開けっ放しだったぞ」
「弁護士先生…?」
すると、やはり起きていたのかマシロの返事が聞こえる。
しかし昨日と違い、慌てて此方に来る様子はない。
ガチャっと扉を開けて、マシロが部屋から出てくるが、今日はしっかり洋服に着替えているようだ。
「あれ、先生…1人だけなの?」
「他に誰が来るんだ。鍵が開いてたが、もしかしてこれから出掛ける所だったか?」
「ううん、先生が来るのを待ってた。でも、鍵閉め忘れちゃってたんだ…」
「昨日は色々疲れたかもしれないが、戸締まりだけはしっかりしてくれ」
「うん、分かった…」
マシロは、まるで最初会った頃のように静かだった。
「飲み物、用意するから座って待ってて」
「いや、場所を教えてもらえば俺がやるぞ」
「いいの、先生はちゃんと座ってて」
それでも、こんな風に自分の意思を伝えてくれるので、あの頃よりは変わっているのかもしれない。
言われた通りにソファで待っていると、マシロがキッチンから戻ってくる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、これは…ハーブティーか?」
「うん、落ち着くから…」
「そうか。って、こっちに座るのか」
「だめ?」
「別に構わないが」
マシロは飲み物を置くと、何故か正面ではなく隣に腰掛けるが、わざわざ突き放す必要も無いのでそのままにする。
それからしばらく、お互いに無言で時計のカチカチと鳴る音と、カチャン…と食器の触れ合う音だけが部屋の中に響いていた。
そうして時間だけが過ぎていったが、先にマシロの方から沈黙が破られる。
「……どうして来たの?」
「昨日の話の続きがしたかったからな」
「1人で?」
「何故他の人が来ることになるのか分からんのだが…」
「だって…、私…また数値変わらなかった」
そう言えば昨日、俺の前にも担当者が居たようなことを言っていた気がするが、その時に何かあったのだろうか。
「以前測ったときに何人かで来たことがあるのか?」
「…………測った後は来なかった…」
「来なかったって…、まさかっ、結果を聞いて見放したとでも言うのか!?」
「うん、きっとそう。…先生はどうして?今日はお休みの日じゃないの?」
「相談者の対応を休日だからって疎かにするわけが無いだろう。」
「……どうして…」
マシロからも質問されたので、答えてあげたが、最後の返事が小さい声だったので、何と言ったのか聞き返す。
「ん?なんて言ったんだ」
「どうして、弁護士先生はそんなに優しいの?」
「優しい…とは?普通の事ぐらいしか出来てないと思うが」
「私にここまで関わってくれるのは普通じゃないよ…」
俺は家に押し掛けるぐらいしかしてないので、彼女の言っている意味が良く分からない。
「どう言うことだ?」
「3日…、これが何の数字か分かる?」
「いや…、分からないな」
「先生の前の人達の中で、私の事を一番長く見てくれた人の日数だよ」
「なっ!?」
俺は、そのあまりに無慈悲な数字に言葉が出なくなる。
「普通の人は、私を見たり数値を知ったら担当を辞退するよ。実際先生の前の人達はそうだったし」
「一緒に頑張ろうって言ってくれた人も次の日には来なくなるし、変な希望を持たせるくらいなら、最初から無理だって言ってくれた方が良かった!!」
「先生もそうなんでしょ…!?私に期待させるだけさせてそのうち裏切るんだ!」
マシロは捲し立てるように一気に喋ると、すがるように胸ぐらを掴んでくる。
「お、俺は、相談者が望む限り仕事を全うする。裏切るような真似はしない」
「そうだよね。先生はお仕事熱心だもんね。この一ヶ月見ていて凄い伝わってきたよ」
「あ、あぁ。だから…」
「でも、あの人の言っていた通り、私の事を諦めるなら早い方が良いよ」
俺の言葉を遮りそう言うと、マシロは掴んでいた手を離し、元の位置に腰掛ける。




