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人生裁判  作者: 絃芽こう


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09 待機時間

「思ってたより静かだな。まぁ、本を読むにはちょうど良いか」


流石は休日と言うべきか、休憩室はこの時間でもほとんど人が居なかった。

せっかく場所が空いてるので、俺は適当に日当たりの良さそうな席に座り読書を始める。


「果たしてどのくらいで終わるかねぇ。まったく、もっと一瞬でピッと測ってくれれば楽なんだかなぁ」


期待値の測定は、感情と言う不安定な物を測るため、問診から始まり、脳波の測定など様々な工程を踏むので、どうしても結果が出るまでに時間が掛かってしまう。

全てが終わるまでの待ち時間が長い為、良い方にも悪い方にも想像してしまい、どうも読書に集中出来ない。


―どんな結果が出ても気にしないとは言ったが、1ヶ月前の時点でマイナスが合わせて300。幸福度が最大限に上げてゼロだから、期待値の方をどうにかしないといけない訳だが、最終手段を使う期間を考えて残り8ヶ月程。

今月か来月には期待値を上げる方法を探し始めた方が良いだろうか。


そんなことを考えていたが、時間が経てば雑念も消えていき、自然と目の前の文字に集中出来るようになる。




それからどのくらい経ったのだろうか、不意に誰かから名前を呼ばれる。


「おう、久しぶりだなクロノ。元気にしてたか」


その声に顔を上げると、いつの間にか部屋に入ってきたのか、目の前に同じ役所で働く先輩が居た。


「お久しぶりです、アカバ先輩。今日は仕事ですか?」

「ああ、そうだ。そろそろ裁判が近いからな」

「休日までお疲れ様です。無理はしないで下さいよ」

「お互い様だな。まったく、新人のうちから残業だなんて覚えて、適度に息抜きしろよ?」



この人はアカバ先輩と言い、同僚の先輩だ。

彼には、1年目2年目の時に分からないことを色々と教えてもらったからか、今でも時々話し掛けに来てくれる。


「ご心配ありがとうございます。ただ、今日は元々ゆっくりしていて、担当してる相談者と偶々(たまたま)近くを通ったから寄っただけですよ」

「そうかい、だったら無用な心配だったかね」

「いえそんな。気にかけてくださって嬉しいです」

「この前も休日に役所に居るのを見かけた気がしたからな。ちゃんと休みを取ってるなら良いんだ」


どうやら彼は、休日に何回か役所で俺を見かけ、今日も休憩室に居たので話し掛けに来たらしい。


「新人の中にはこの仕事を重く(とら)えすぎて、休みなく働こうとするやつも居るからな」

「俺はそんな真面目な人間じゃないので」

「真面目な奴ほどそう言うんだよな」

「それを言ったら、先週も今週も休日に来てる先輩だって真面目な人間になりますよ?」

「俺は平日にも休んでるからいーの」


話を聞いてると先輩は、普段なら待たされる事が多い作業を、()えて人が少ない休日に行う事で効率化してるようだ。

しかし、人が少ないと言うことは、不測の事態が起きたときに、対応できる人数も少ないと言うことであり、これはまだまだ経験の浅い俺には真似できないだろう。


「まあ、これも先輩だから出来ることってな訳で、仕事を覚えるまではしっかり平日と休日の区別を付けろよ?」

「はい、今日は特にやることもないのでゆっくりさせてもらいます」

「ふっ、仕事中の先輩を前にして暇だとは言うようになったな」

「い、いえ決してそんな意味では…」


「別に怒ってる訳じゃないぞ。変に仕事に疲れてアルターへ行かれるよりは、それぐらいの適当さで良いんだ」

「そうですね。俺も仕事を嫌いにはなりたくないので、このままゆっくりやらせてもらいます」

「是非ともそうしてくれ、根を詰めすぎるなよ。じゃあ、俺は言いたいことは言ったし仕事に戻るとするよ」


本当にそれだけのために来たのだろう、アカバ先はそう言うと休憩室から去っていく。


その後もしばらく本を読んでいると、コンコンっと(ひか)えめに扉をノックする音が聞こえる。

わざわざ休憩室でノックするとは、いったい誰が来たのかと思っていると、


「た、ただいま…先生…」


おずおずとした態度でマシロが部屋に入ってくる。


「お帰り、やはり測定には時間が掛かったようだな」

「うん、そうだね…。結構待たせちゃったよね、ごめん…」

「分かってたことだから謝る必要ないぞ」

「うん、待っててくれてありがとう」

「気にするな。それで、結果の方はどうだったんだ?」


俺はマシロに尋ねるが、やはり余り良い結果では無かったのか言いにくそうな表情をしている。


「あの…、えっと…」


「別にどんな数値でも気にしないから教えてくれないか?」

「うん、あのね…変わってなかったの」

「か、変わってないとは…、マイナス200だったと言うことか?」

「うん、あの…ほんとにごめんなさい…」


数値が悪いとしても、多少は上がっているのだろうと考えていた俺は、マシロの思わぬ返事を聞いて、つい黙り込んでしまう。


「あ、あの…弁護士先生?」

「あ、ああすまない。今日は元々確認の為に来ただけだからな。大きな変化があるとは思っていなかったさ。しかし、まったく変わってないとはな…。だが、マシロが悪い訳じゃないんだ、謝る必要はないぞ」

「うん…」


今のマシロは、何を言っても落ち込んでいくばかりだと感じたので、俺はこの後の予定に話題を変える。


「測定に時間も掛かったし、腹が減ってるだろう。このままファミレスまで行こうか?」

「えっ、いいの?」

「いらないなら帰るだけだが」

「行く行く!行きたいっ!」

「そうか、なら店に着くまでに食べたいものを決めておけ。」

「はーい」


こちらの気遣(きづかい)いを察したのか、マシロはご飯の話に元気な返事を返す。

ともあれ、測定が終わればもうここに用は無いので、俺達は役所の外に出ようとする。




「あっ…」


その途中、偶然(ぐうぜん)廊下(ろうか)を歩いてるアカバ先輩を見掛けるが、マシロもそれに気付いたのか立ち止まる。

俺はマシロに彼の事を知っているのか聞こうとしたが、それより先にアカバ先輩が声を上げる。


「おい、お前もしかして、そのヴァンパイア女の担当なのか?」

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