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民を従え民に従う者



「王太子殿下、貴方は王族である以前に1人の男性であり人間です。人には言葉を音にして発する事ができます、それは目に見えぬものでございますが目に見え無いからこそ責任を背負わねばなりません、そこに年齢も性別も関係ございません。自分の口から発せられた発言は、取りこぼしたガラスが床で割れるのと等しく二度と戻ることはありませんわ、戻らぬからこそ言葉には重みがつきます。貴方のように、未来の国を背負い民を従え民に従う地位にある方は尚更!!それを、自分の発言に落ち度は存在しない等という世迷言は通用いたいしません!!」



「は──、な、何を.......っ。お、王族たる私が民を従えさせても、従う義務など存在ししない!!不敬だ、不愉快だっ!!誰か、この無礼極まりない女を捉え地下牢に叩き入れろっ!!」


「殿下、今ここにいるのは紳士淑女。我が学園から卒業なさる敬愛する先輩方と、皆様の門出を祝いお見送りする我々後輩のみ。祝いの席に、刃物を持った甲冑のもの達の乱入は認められておりません。この場に、国王両陛下がご入場なさならない限り」



「っ、っ───!」



「今、殿下は『王族たる自分が民を従えさせても、従う義務など存在しない』と仰りましたが、それは傲慢ですわ。現陛下で在られる貴方のお父君も、常々から殿下にお話している筈です。ご自分達王族は、民の支持と支えがあってこそ国の上に立て、民が汗水流し血税を収めてくれるからこそ、豊かなた暮らしができ、恵まれた環境で生活ができる。王族はその見返りに、民の声を聞き民のより善き未来の為に国を繁栄させ、時には己が手を垢で汚してでも国の礎を作り上げ、民が暮らせる場所を創る。王族は、決して神のように偉い地位ではない、民があってこその王族!民の声に従って国を運営する、それは貴族も同じ、決して己の生まれや爵位に甘んじ民を貶める事はしてはならんと!!」


「し、.......知らん!私はその様な話は聞いた事ないっ。民は王族の為に存在する、王族を民が支え王族を繁栄させて尊き血を永遠に継続さそる存在っ!我が王族が作り上げた繁栄という蜜をすすって、この国に居座って居させてやっているのだ!!貴族も含め、民は王族に従っていればいい!!私の価値観は間違っていない、お前や父上が非常識なのだ!な、チリル?」


「えぇと.......、よく分かりませんがジェノス様の言うことは正しいです!私、そんな方と出会えて幸せですわ」


「は、はは───あははは!ほらみろ、我が未来の妃がそう言っている!」




大人しかったエリザヴェーラの豹変に動揺を止められないジェノスフリートは、どうにしかして己の立ち位置を優先にしようと見苦しい醜態を晒しつつチリルに同意を求めた。

だが、同意を求めた相手がチリルなのだから救いはない。夢見がちな少女であるチリルには、ジェノスフリートの抱える責務もエリザヴェーラの言っている内容も理解できない。カシオスに引き取られる前のチリルであれば、理解出来ずともジェノスフリートの言っている事が愚かであることは気付けただろう。が、戻らぬ時に思いを馳せてと無意味なことだ。


エリザヴェーラは、哀れみと失望を入り交えてジェノスフリートを見つめる。ほんの僅かな希望と期待を胸に、エリザヴェーラを含め多くの人々が尊敬する現国王の言葉を口にしたが、その息子にはかの賢王の言葉も意思も届いていない現実に、エリザヴェーラは婚約破棄を言い渡それても傷つくこと無かった心が、大きく傷ついたのを感じた。自分が妻となり、支えて行くはずだった男の醜態と息子に裏切られた両陛下のココロを想像して。


ジェノスフリートは、動揺によって乱れた精神状態をチリルの耳障り───彼にとって都合のいい事ばかりの───がいい励ましに、何とか落ち着きを取り戻し発汗して高まった体温の熱を逃がすべき、着込んでいる礼服の襟を緩める。その最中、彼の心情は大いに荒れている。本来の気性故か口にはしていないが、言葉遣いも荒々しいかった。



(忌々しい忌々しいっ!この私に口答えをするだけでは飽きたらず王族を侮辱するなんて.......王族に次ぐ高位貴族の娘だからと、優しく甘んじてやっているからと付け上がりやがって!!何故、父上も母上もあんな可愛げも私を立たせる姿勢も見せれない女を婚約者なんかにっっ、歳がたった1つ違うからと.......!10年もの時間を無駄にさせられたっ)


年齢順に

ジェノスフリートは17歳。

エリザヴェーラとチリルは16歳。


この国では、10歳で学園に入学し18歳で卒業。その間にデビュタントも迎え、学園を卒業した時は結婚も、他国に赴き新たに勉学を学ぶなど、自己責任を背負えるなら自由に己の指針を決めること許されているが高位貴族や王族となれると話は別となる。

チリルは貴族に、ジェノスフリートと結婚して王族に入ればもっと好きに贅沢に生活できると信じているが、下級貴族や平民の方がずっと自由に生きれるであろう事をチリルは気付くことはないだろう。


「はあ.......本当に嘆かわしい。こんな男が、未来の我々の王となるだなんて」



「なっ、お前.......!無礼な口をきくのも大概にしろ!」


ため息を吐いて嘆くように呟くエリザヴェーラに、ジェノスフリートは怒りで顔を赤らめ人差し指で彼女を指す。

身分関係なく、人に対して指を指す行為は褒められたものではない、異国では指を指すと言う仕草は呪いを意味する。これを知るものはそうそういないが、人を指を指してはならないという考えは幼子でも知っている、常識中の常識である。


だが、それをジェノスフリート相手に指摘する気力はもはやエリザヴェーラの中には無かった。何を言っても、目の前の王太子は聞き入れずこちらを不快にさせる事しか言わないのだから。簡単に言えばジェノスフリートは見捨てられたのだ。


「先に無礼を働いたのはジェノスフリート様でございます。大衆の目がある場で、婚約破棄を宣言した上に何の証拠もなく私を責め立て、挙句の果てに私を通して多くの淑女達を侮辱した.......これが無礼でなければ、何とか申しましょうか」


「そん───なのっ」


エリザヴェーラの言うことに返す言葉を見つけられず、歯切れの悪く言葉を零すジェノスフリート。そこに、あの少女が割り込んできた。


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