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婚約破棄で始まる醜悪な見世物

ジェノスフリートは、何も言い返してこずじっと見つめてくるエリザヴェーラをみて、己より評価の高い彼女を追い込んでいると勘違いしたままニヤリと、嫌な笑みを浮かべ更に追い込もうとチリルに続きを託す。


「チリル、見てみろ。エリザヴェーラは、君に己の罪を聴衆に暴露されたじろいでいる、このまま追い込み共に悪に打ち勝とう!」


「はい、ジェノス様。私、貴方の為に国の未来の為に悪役令嬢に勝ってみせますわ!」


チリルの言った単語に、エリザヴェーラは聞こ覚えがあった。


(悪役令嬢.......?ああ、幼児向けの絵本にでてくるので悪いお妃様とかの事ね。まさか、チリル嬢.......私をそれと混同なさってる?いや、まさかね。頭が花畑であっても、そこまで幼稚な訳.......)


と、否定していたがエリザヴェーラの胸に一抹の不安とありすぎる心当たりに、目眩がしそうであった。

その件に付いて語るには、膨大な時間(ページ数)が必要となるため省力させてもらう。

ジェノスフリートに肩を抱かれつつ背中を押され、チリルは両手を胸の前に組みながら語り出す。その姿は一見すれば、虐げられても健気に立ち向かう少女であるが今までのやり取りを見て聞いてきた者達の目には、もはや茶番劇のワンシーンでしかない。


「私.......エリザ様には、もっと酷い事を言われてきました。普通にお友達と話していたり、お散歩していただけなのに私の前に現れては、キツい事を言ってきました。ただ普通にお友達と楽しんでいるのに.......、まるで悪い事をしている様に言われてどんなにショックだったか.......」


「まあ、それはごめんあそばせ。貴女の言う『お友達と楽しんでいる』のが、異性を侍らかせて周囲の目も気にせずに無闇に密着し合う事を示しているのなら、貞淑な淑女たれと教育を受けてきた私には、チリル嬢の『お遊び』が理解できませんでしたわ」



わざわざチリルの言った内容の一文を強調して言えば、流石のチリルも馬鹿にされていると察しカァッと顔を赤らめさせる。

女が女に馬鹿にされれば、反射的に喧嘩腰に食ってかかりそうなモノだがチリルはそれを堪え、言われれなき罪を突きつけられた被害者の如く傷ついた顔を作り、ジェノスフリートの胸に顔を埋めた。


きっと、歪んだ自分の顔を隠し気を落ち着かせる算段だろう、頭の悪い事しかしないチリルがそんな判断をできる事にエリザヴェーラはちょっと驚いた───。


ーそれが出来る位の知恵はあったのかー


という意味で。


「酷い.......酷いわ、私が平民生まれで頼れる方が少ないからってそこまで馬鹿にするなんてっ。ジェノス様.......私、悲しくて死んでしまいそうですぅ」


(やれるものならやってご覧なさい。そう言う者程、見苦しいくらいに生きる事に貪欲でしてよ)

「はあ.......。チリル嬢、ご自身を平民生まれだからと卑下しておいでですが、私は1度たりとも貴女の生まれについて口にした事はありませんよ。むしろ、平民の生まれで途中から貴族の世界に放り出され、周囲の冷たい視線を浴びても負けずに己の生き方を貫く貴女の強かには感心しておりますのよ」


「嘘ッ嘘嘘嘘嘘!自分を良く見せたいからって、そんな思ってもない事を.......!うぅ、酷いわぁ、酷いですぅ.......!」


「.......はあ」


エリザヴェーラが、チリルに対して好意的な評価を口にしただけだと言うのに、何故が嘘つき呼ばわりされ、エリザヴェーラは扇で口元を隠す気力も失い、扇を持った手で自身の眉間を揉みほぐす。16のうら若き乙女なのに、一夜で眉間に深い皺が出来そうだ。

エリザヴェーラは、言われない罪でジェノスフリートによって大衆の注目を浴びながら責められ、公開婚約破棄という形でさらし者にされている身。普通の令嬢なら、耐えきれず泣いてこの場を逃げ出すだろうが、エリザヴェーラはそんなか弱さを持ち合わせていない、むしろ己の無実を証明し自分を辱める2人を打倒する気しかない。その為にも、早く事を進めたいのに当事者の1人であるチリルがこうでは、一向に終わりが見えない。


周囲でこちらを見物している紳士淑女達も、足を引っ張るチリルに苛立ちを見せ始めている。


「酷いと言うのは分かりましたから、続きがあるのでしたら仰って下さい。私、そろそろ疲れてきましたわ」


「なんだと?加害者の立場のくせに、何だその態度は」


「だって、話をすればその都度泣いて話の進行を止めてしまうんですもの。夜会の為に新調したヒールでたち続けるのは、殿方が想像するよりも大変なのですよ?コルセットもつけてますし、髪もまとめあげる為に工夫を凝らしているので、頭皮が苦しいのです」


「はっ!そんなもの、そんな大層に己を着飾るお前が悪いのだろう。自業自得でしかない、そもそも女は異常に着飾り過ぎるのだ。チリルを見習え、彼女は過剰に着飾ったりせずに鈴蘭の如く控えながらも美しくある。顔に化粧を塗ったくり、ただ見た目が豪華なドレスを身に纏わねば美を表現できないお前達とはちがうんだ!」



この言葉に、エリザヴェーラを含めたこの場にいる多くの令嬢達が眉をひそめた。当然だ、日々己を磨き気を失いそうになりながらもコルセットを締め、家名や両親、婚約者の恥にならぬよう努力に努力を重ね、目に見える場所──つま先など───を血に染めながら淑女として生きてきた全ての令嬢達に対する暴言でしかないからだ。

令息達の思いを代行して言ってやったと言わんばかりに、清々しい顔で笑みを浮かべるジェノスフリートをみて、チリルはウットリとしている。

ジェノスフリートの言った内容を理解していないか、自分にとって耳障りの言い部分しか聞こえてないのか.......チリルの場合は両方である可能性が高い。ジェノスフリートの暴言に、何処からか啜り泣く声とその主を慰める声が聞こえている。ずっと優雅に対応していたエリザヴェーラも、我慢ならず扇の背を手のひらに叩きつけた。



──パンッッ──


破裂音が大きくこだます。


その音はエリザヴェーラの心情を───堪忍袋の緒が切れたとも言う───表しているようだ。

手のひらに叩きつけた扇を握りしめ、エリザヴェーラはジェノスフリートを力強く睨みつける。その冷たいながらも、怒りからくる熱量に満ちた瞳をうけジェノスフリートはゴクリっと喉を鳴らした。


「王太子殿下、今の発言を撤回し我々淑女達に謝罪のお言葉を願います」


「なっ!?王太子である私が、何故がたかが国民でしかないお前達に謝罪せねばならん。私は普通の、男が常々心にある事を口にしたのみ!そこに何の落ち度も存在しておらん!謝罪するのは、エリザヴェーラ!お前だ、そもそもお前が即座にチリルに謝罪をしないから───!」


「お黙りなさいませッ!!」


「っ!?」


己の失態に気づかず、指摘されてもそれを聞き入れずに自身の正当性をベラベラと語り続けるジェノスフリートの話をぶった斬る様に、エリザヴェーラは声をはりあげた。

普段から落ち着いた声色で、穏やかに話すエリザヴェーラしか知らぬ者達は思わず息を飲む。それはジェノスフリートも同じこと、婚約者となりずっと共に歩んできたエリザヴェーラの、そんな姿は初めて見る。否、そもそも声を張り上げるという淑女有るまじき行動を取るなど夢にも思わなかった。


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