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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていなかった転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第5章 選択の色、朱色の主張

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第十三話

 仕事があるローラと別れたリュカは、体の中に溜まった熱を一時間近くかけて放散させると、再び市場の方へと降りて行った。

 それにしても、何度見ても活気にあふれた国だ。どこに眼を向けても人々が笑顔で、戦が間近に迫っているとは露にも思えない。もしかして知らないのか、とも思ったのだがそれは違うようで、井戸端話に耳を少し傾けると、やはり戦が迫っているという事を心配する声が聞こえてくる。

 だが、その人たちは口々に言っていた。自分たちがいくら心配しても、来るときは来る。ならば、自分たちにできるのはこの国の兵隊の力を信じるだけ、その日が来るまで悔いのないように毎日を過ごそうと。

 一瞬だけ、強い人たちだなと思ったリュカ。だが、もしかしたらそれは諦めの境地にも達していることなのかもしれない。当然だ。世界で三番目のとても恐ろしい国が攻めてくるのだから、生きるのを諦めるのも納得できるのかもしれない。しかし、そんなこと自分たちがさせない。まだ生きることが出来る可能性があるというのに諦めるなんて許さない。

 自分たちが、絶対に守って見せる。そう改めて心に誓ったリュカは、ふと一人の女の子を見つけた。というより、見つけられたの方が正しいのかも。


「あ、リュカさん」


 クラクである。どうやら武器屋に置いてある様々な剣を見ている様子だ。


「クラクどうしたの、こんなところで」

「実は剣を買おうとしたんですけど……」

「あ、そっか……クラクの剣この前の戦いで……」

「はい」


 そうだった。彼女の元々使っていた剣は、この前のカナリアとの戦いで攻撃を防いだ衝撃で粉々に壊れてしまっていたのだ。だから、彼女はこの国に来るまであまり戦闘を行わなくてもいい位置でマハリの国民たちを守る役目についていた。

 だが、今度の戦では同じような立ち位置でいれるわけがない。だからこそ、こうして自分でも使える剣を探しに来ていたのだ。しかし、どうやら雲行きが怪しいようで、困ったような表情を浮かべて言う。


「けど、ここの剣はとても優れた物であるのに比例して、割高で……私の持っているお金じゃどうにも……」

「そうなんだ……」


 マハリの国から来た国民は、ほとんど一文無しであると言ってもよかった。国から出る時に持ってきた物をこの国で換金することによって幾分かの生活費を確保することが出来ていたのだが、流石にこの国の剣を買えるくらいのお金は持っていないらしい。

 まぁ、そもそもこの国の剣がどれほど性能が良いのかは、先ほど自分がその製法の一端を見させてもらったのだから納得なのであるが、しかしこんなことで戦力が一人いなくなるのは惜しい。こうやって手助けするのはクラクのためにもならないのかもしれないが、自分もお金を出して彼女の剣を買おう。

 そう考えたリュカの後ろから、聞き覚えのある声がした。


「なら、この剣を使ったらどう?」

「え?」


 セイナだ。セイナが差し出した剣。それは、とても特徴的な鍔に目が引かれる剣だった。なんだか、前世で好きだったラムネ菓子を思わせる形状だ。


「セイナ団長、この剣は?」

「マハリの国を出た時に、フランソワーズさんに貰った国宝の剣。本当は二剣一対らしいんだけど、もう一方は紛失しちゃったらしくて」

「フランソワーズさんが……?」


 つまり、王妃様(当時)からの下賜された品であるという事。位の高い人間から与えられる品という事は、セイナにとってはとても名誉なこと、決して手放したくない大切な物であるというはずなのだが。


「そ、そんな大事な物、私がもらっていいんでしょうか?」

「いいのよ、貴方は期待の若手の一人なんだし。私には、愛着のあるこの剣があるし」


 といって、セイナは自分の剣を見せる。確かに、昔から使っている手に馴染んだ剣の方が使いやすいというのは分かるが。


「ありがとうございます!」


 幾多の疑問の付かないリュカを尻目として、クラクは何の疑いもないように喜んで走り去っていった。

 残ったリュカとセイナ。二人は、その後決してそう言う意図はなかったはずなのに知らず知らずのうちに人が全くいない場所にまでたどり着いていた。


「でも、本当にクラクに国宝の剣を渡したりしてよかったんですか?」


 確かに、自分もクラクの事は期待している。だが、それでもそんな大事な剣を簡単に託すなんて、きっと自分にはできない。使わず、一生手元に置いているはずだ。それをあっさりと渡すなんて、ありえない。


「えぇ、だってあれ……王様から直々に渡してほしいって言われたもの」

「王様から?」

「えぇ……お詫びに、だって」


 つまり、王様がクラクに国宝の剣を渡してくれとセイナに託したという事なのか。それもそれでおかしな話。確かにクラクはエリス処刑未遂という印象に残る一件はあったが、しかしそのお詫びとしてもあまりにも大それたものを渡してきたものだ。

 分からない。すでに死んでしまっているはずだが、しかし王様の真意がなんであるのか、それが知りたくてたまらない。と、表情に出てしまっていたのだろう。セイナが苦笑しながら言った。


「リュカちゃん、秘密……守れる?」

「え? あ、はい」


 自分は、恐らく口が堅い方だ。と、思う。前世でも、他人に友達の大切な秘密事を軽々しく話したりはしなかったはずだ。だから、たぶん、絶対に、恐らく、確実に、でも話してしまうかもしれないが。しかし理由をちゃんと知りたかったから、とりあえず口が堅いという事にしておこう。


「実はね……クラクには双子の妹がいたのよ」

「え……」


 初耳だ。あの子に妹がいたなんて。やはり双子なのだからクラクにそっくりなのだろうか。そして、クラクのように魔法を上手く使うことが出来ないのだろうか。一度会ってみたいものだ。


「けど、産まれた時に問題が発生した」

「問題……まさか……」


 生きていれば、の話である。セイナのその話し方から嫌な予感がしたリュカは、覚悟してその後の彼女の言葉を待った。そして、想像した通りの結果が待ちわびていた。


「そう、髪色が普通と違っていた、つまり厄子だったの」

「そう、ですか……」


 やはり、そうだったのか。だが、双子でも一人が普通の子、一人が厄子という事があるなんて、ソレは新発見だった。

 いや、普通の子というのは失言だったのかもしれない。人間に普通とかそうじゃない人なんてものは存在していない。皆が皆少しずつ違うところがあるけれど、生きた人間なのだ。例え、髪色が違っていても、それが普通と普通じゃないなんてものを隔てる壁になんて決してなってはいけないのだ。


「王様は、その子を追放……そう、フランソワーズさんがマハリに来るちょっと前の事だったわね」

「……クラクは、妹がいたって事、知ってるんですか?」

「いえ、知らないはずよ」

「そうですか……」


 悲しいことだ。己には妹がいたという事を一切知ることもなくこの齢まで生きてきたなんて。きっと彼女はこれからも妹の事なんて知らずに生きていくことだろう。生きて、そして死んでいくのだろう。

 だが、それもまた幸せなのかもしれない。だって、自分の妹が、赤ちゃんの時にその人生を断たれていたなんて、とても心苦しいことなのだから。自分だって、もしもたった一人の妹があの火災で死んでいたのならば、そしてそれを知ってしまったのなら、今の自分は存在しない。妹という物は、それほどまでに自分の事を成長させてくれる尊いものであるのだ。


「クラクの両親は何も言わなかったんですか?」

「勿論、反対したそうだけど……クラクの事もあったから泣く泣くと言った形ね……」


 当然だろう。子供の事を無下にするような親なんているはずがない。たとえそれが掟だとしても、最後まで抵抗していたはずだ。


「そうなんですか……そういえば、クラクの両親って今は……」

「それがね、分からないのよ」

「分からない……ですか?」


 何故なのだろう。子供を産むというのは、とても時間のかかる物。例え隠そうとしてもその大きくなるお腹で周りの人間にはすぐに分かってしまう。だから、例え極秘出産だったとしても誰が妊娠していたのかなんて、狭い国の中だったのならばすぐに分かったはず。なのに、何故分からない。なんて答えになるのか。


「マハリでは、子供を身に宿した女性はすぐに城の中に入れられて、出産するまではその姿を見せないことが習わしになっていたのよ」

「それも、厄子対策……ですか?」

「そういう事よ」


 なるほど、それで誰が妊娠したのか分からない。子供が出来たという事は、実際に出産して、城から家まで子供と一緒に帰って初めて周囲の人間が周知するという事。当時のマハリでは国交が盛んで、男女問わず人の出入りが多かったから、姿が見えなくなっただけで断定がしにくかったことも幸いしたのだとか。


「クラクの両親は、厄子を産んだ……いえ、子供を見放すしかなかった自分たちが子供を育てることなんてできないって……孤児院への入所手続きをすぐにとった。王様と王妃様しか、クラクの両親が誰なのか知らないそうよ」


 子供を育てることが出来ない、か。それもそれでとてつもない自己満足だ。その自己満足の結果、クラクは両親と一緒にいる暖かさを、嬉しさを味わうことなく成長してしまったのだから。

 子供を捨てた自分たちには育てられない。そんなの関係ない。だって、子供を育て上げるのが親の義務であるのだから。例えどれだけの罪を背負っていたとしても、その先に子供という希望があるのならば、その希望も一緒に背負って生きる。それが、親という生き物ではないのか。

 かわいそうだ。クラクが、そして子供を育てる喜びを感じることもできなかったクラクの両親が。


「結構、残酷な国だったんですね……マハリって……」


 改めて、厄子というだけで追放するマハリという国が、ヒドイ国のように思えてしまってならなくなった。だが、厄子という存在はこの世界単位で見ても厄介な存在。災いを引き起こす存在として知られている。きっと、自分たちが知らないだけでこのミウコの国でも似たようなことをしているのかもしれない。

 そう、同じようなことがどの国でもやっているのだ。だから、マハリやミウコがヒドイ国であるというのは間違い。本当にヒドイのは、本当の悪とは、厄子という存在を危険因子と定めた者達。

 その者達のために、尊い子供たちの命が消されてしまったのだから。

 自分は、そのただの子供たちを悪魔のように仕立て上げた者たちを許さない。リュカは、再び心に一つの憎しみの炎をともすのであった。決して消えることのない、行き場のない、どうすることもできない不滅の炎を、一つだけ。

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