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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第5章 選択の色、朱色の主張

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第十一話

 城下の商店街にまでやってきたリュカとローラ。リュウガはまだ調べることがあると言ってどこかに飛んで行ってしまった。おそらく、自分がこうしてさぼっている間にもやるべきことをやってくれているのだろう。

 ソレにしても、昨晩は人が全くいなかったために道はかなり広い印象を受けていたのだが、こうして昼間に来てみると人がごった返していて逆に手狭な印象すらも受けてしまう。マハリの大通りであってもこんなことはなかった。

 というよりも、もしかしなくてもマハリは大きさと人口が比例していなかったのではないだろうかという気がしてきた。だから、あれほどまでに開放感のようなものを感じることが出来たのかもしれない。

 あの国は、前の大戦のときに多くの国民が犠牲となった。その分の人口が回復されないままだったのかもしれない。

 とにかく、こうして人でいっぱいの道を歩いていると、なんだか前世の都会を歩いている気分になれてどこか懐かしい気持ちになってくる。今は戦の事も忘れて色々なお店を見て回ろう。

 と、その時だ。リュカはある店先に見覚えのある二人の少女を見た。一人は、確か昨晩にこの商店で職業見学をするという事を聞いていた。しかし、もう一人の少女がいる理由が全く不明だ。いや、同じような存在である自分がこうして街中に降りてきているのだ。彼女の事を言えないだろう。


「あ、リュカさん」


 少女、エリスが人の波の中に自分の姿を見つけることが出来たようだ。彼女は、自分に対して大きく自分はここにいるという事を示すかのように手を振っている。

 そして、その隣にいる少女。ミコもまた控えめに小さく手を振ってくる。


「エリス、職探しの最中? だと思うけど、なんでミコも?」

「そこで出会ったんです。それで、私の職探しに一緒についてきてもらってたんです。今は、その帰り道です」

「は、はい……」


 今朝、眠い目をこすりながら宿舎を出た直後、たまたまミコが宿舎の前を歩いていた。彼女は夜までやることがないからということで、見知らぬ土地で変質者に襲われるかもしれないから護衛もかねて一緒に防具屋にまで来て欲しいと頼んだのだ。

 自分には護衛は無理だと謙遜はしていたが、しかしこれでもセイナの率いる騎士団の一人。ただいるだけでも周りのけん制になるからと無理を承知で来てもらったのだ。


「そうなんだ。それで、どうだったの?」

「はい、とても参考になりました。それに、ミコさんも」

「ミコも?」

「色彩感覚が豊で、私じゃ想像もできなかったようなきれいな色を作り出せて、手先も器用なんですよ」


 防具屋では、自分が初めて見る素材や製法などをたくさん見ることが出来た。もしもそれを服などに応用出来たら今よりももっと素晴らしいものが出来上がるだろうという確信が出来るほどに。

 だが、それ以上にもっと嬉しい発見があった。それが、ミコの存在だ。ただ見ているだけじゃ暇だろうという店の人のご厚意により、簡単な素材を合成する魔法を教えてもらったミコ。目の前にあった素材の中から好きな物を組み合わせてもいいと言われたためほぼほぼ直感で二つの素材と色付けに使う石を組み合わせた。

 そしたら、とても強靭な、刃も通さないような胸当てを生成することに成功したのだ。

 初めてにして戦場にまで持っていけるような防具を作ることが出来るのは才能だと、店の人はとても驚いていた。だが、エリスが注目したのはその防具の性能ではない。防具の色彩だ。

 色付けのために使用する石、≪色石≫はその石自体の色だけでなく、表面に付着した苔の色彩、その面積もまた重要となってくる。そのため、組み合わせた結果どのような色が出来るのかは、生成するまで分からない物なのだ。

 エリスも時折服を作る前の布に対して色石を使用したりするのだが、どのような色になるか分からないため用途は色を付けてからその色にあう服という物を考えてから衣服の製作に取り掛かっている。

 だが、ミコは見せられた色石の中から、どの石を使用することによってどんな色が出るのかを瞬時に見抜く力を持っていた。結果、彼女がこの色にしたいと願った色がその防具を彩ったことで、さらにその完成度を上げてきたのだ。


「へぇ、やるじゃんミコ!」

「た、たまたまですよ」


 当然ミコは謙遜する。しかし、まさかミコにそんな隠れた才能があるなんて驚きだ。しかし、人は必ず一つは何かの才能があると言われている。その才覚が戦闘に関する物じゃなかったことが少し残念ではあるが、この才能が伸ばしたいった結果どうなるのか見たいものである。


「あなた、確か昨日……」

「あ……」


 と、その時だ。ミコはリュカの後ろから現れたローラを見た瞬間、エリスの後ろに隠れてしまった。といっても、ミコはエリスよりも頭一つ分くらい身長が高いためにいわゆる頭かくして尻隠さず状態になって隠れ切れていないのだが。

 ここまで彼女が怖がっている理由。それは恐らく昨日のことが原因なのであろうか。


「嫌われたかしら。昨日はあんなひどい真似を……」

「い、いえいいんです……私も、ただで女王様に合わせてもらえるとは思ってませんでしたから……」


 ローラは、あの身体検査に関わっているわけじゃなかった。だが、それでもその身体検査を実施したミウコの国の人間であるという事だけでも彼女にとっては心の傷となってしまっているのだろう。

 もちろんミコだって自分たちのような外部から来た怪しい人間が何の検査もなく女王の前に行けるとは思ってもいなかった。だが、それがあれほどまでに女性の心を逆なでするような物とは思ってもみなかった。

 その時は、怒るとかそんな感情も持てない程に恥ずかしさに支配されてしまって泣いてしまっていたが、しかし事あるごとに泣いてしまっては騎士なんて務まらない。いつかは、この感情とも別れ、大人にならなければならないと思っていた。

 だが、もしかするとその感情を捨てきる前に死んでしまうのかもしれないのだが。


「リュカさん。ちょっといいですか?」

「え?」


 と、その時エリスがリュカの手を引っ張った。エリスはミコとローラに対して二人っきりで話すことがあるから少し待っていてと言う。

 その時のリュカは、エリスが二人の少しだけ険悪になってしまった関係を修復するために少しばかり話す時間を作ってもらいたいと思ったのだろうと考えていた。

 確かに、エリスがそう思ったのは確かだ。だが、もう一つ。エリスには本当にリュカに伝えておきたいことがあった。


「何?」

「実は、ミコさん悩んでいるそうなんです」

「悩んでいる?」

「このまま、戦争に参加していいのかって……」

「え?」

「こんな臆病者で弱い自分が戦に参加しても、皆の足手まといになるんじゃないかってそう思っているそうです」


 足手纏いなんて、そんなこと。ない、と言ってあげたい。だが確かに彼女の能力はヴァルキリー騎士団の中でもかなり劣っている方であるという事は事実。いや、それをいうなら自分たちの分隊自体がそうだ。


「まぁ、元々私たちの分隊は他の隊と比べても技術的にも精神的にも劣っている面子の集まりだから……きっと、あの子も経験を積んで成長すればいい騎士になると思うけど」


 そう、例の身体検査の時も精神的に大人になり切れていない自分とケセラ・セラ以外の分隊の面々は、恥ずかしがったり少しだけ拒否反応を示していた。だからと言って自分とケセラ・セラが彼らよりも精神的に成熟していると自慢するわけじゃない。自分たちの場合はそういった神経が死んでいるも同然だからだ。

 自分とケセラ・セラもそれぞれに力はある物の、力だけじゃヴァルキリー騎士団全体から見れば中の上くらい、経験を合わせられるともっと下になる可能性だってある。自分たちの分隊はまだまだ生まれたての雛も同然の存在なのだ。


「団長にもそう言われて、将来性を買われて騎士団に入団したそうです。でも……」

「でも?」


 エリスは、そう言うと言い淀んだ。この時、もしかしてエリスには何か確信のようなものがあったのかもしれない。ミコは、実際にはそうはいっていないのだが、しかし彼女自身の本心がどこかで見え隠れしていたのかもしれない。感受性の高いエリスはその本当の気持ちに気が付いていたのかも。


「……いえ、この先はミコさんが決める事でした……何でもありません」

「そう……」


 だが、エリスはそれを決して口に出すことは無かった。ソレは、ほかでもないミコ自身が口に出してリュカに、そしてセイナに言うべきことであるからだ。

 それから少しばかりなんともない会話をして、もうそろそろいい頃合いかということで、二人は路地裏から出ようとした。


「エリス」

「なんですか?」

「優しいね、エリスは」


 どうして、そんな言葉が出てしまったのか、一歩間違えれば皮肉にも、揶揄にも捕らえられかねないその言葉を投げかける。


「……そんな、ことないです」


 エリスは、うつむき加減にそう言葉を発した。

 優しい、か。そう。自分は優しい。優しすぎる。そんな自分がどこかで嫌いで、どこかで憎くて、どこかで、誇らしかった。


「私は、できる事なら知っている人間に死んでもらいたくないんです。勿論、綺麗事っていうわけじゃないんです。ただせめて、私が戦場に立って、その人たちを守ることが出来るようになる。その時までって思ってて」

「エリス、戦いたいの?」

「リュカさんくらいの年齢になったら、私も騎士団の試験を受けようと思っています。もちろん、仕立て屋も続けますけど」

「そう」


 王様の命を救ったマハリの英雄の夫婦の一人娘。恐らく、彼女にはその手の才能も存在しているのだろうと思う。もしもその才能が開花した時には、共に天下統一のために戦いたいものだ。

 だが―――。


「まぁ、それまでヴァルキリー騎士団が健在だったらね」


 の話である。


「全ては、次の戦……それにかかっていますね」

「うん」


 そう、次の戦に勝たなければエリスの未来も何も存在しないのだ。勝手ながら負けられない理由を一つ作ってしまった。

 リュカは、エリスの肩に一度手を置いて、先ほどの優しいという言葉を謝罪すると再びローラとミコの元に戻っていくのであった。

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