第三話
「はぁぁ、もう信じられない!」
ミウコの国。その城の中に入ったリュカたち。この国の城は、赤を基調とした真っ赤な物で、じっと見ているととても目がいたくなるような建物だった。
その中で、リュカは怒りに怒りまくっていた。理由は簡単、この国というよりこの城の中に入った時にされた様々な仕打ちが原因になっている。
「本当に上から下まで検査する必要ないでしょ!」
確かに、関所を通る際にフランソワーズは自分たちが敵ではないという事を証明するために、上から下まで検査すればいいとは言っていた。だからと言って本当に調べられるなんて思ってもみなかった。
まず、この城の中に入れられた後、自分たちは三つの組に分けられた。そして、待っていたのは身体検査。文字通り身ぐるみを全部剝がされて持ち物を確認され、裸にされてしまった。まぁ人前で裸になるのは(以下略)。それに、自分たちが爆弾などの危険物を持ち込んでいる可能性も捨てきれない以上そのような扱いになるのは仕方のないことであろう。
だが、その後はさすがの自分も恥ずかしかった。髪の中から口の中、そして男性に見られたくないようなアソコの中まで全体的に隅から隅まで見られ、さらに魔法で身体の中まで調べられた。
自分のように痴態には慣れている人間にはまだいい。セイナたち大人組も大人らしい対応を取れるからいい。だが、リュカ分隊仲間たちは皆まだ精神的に成熟しきっていない子供。ケセラ・セラのように意味も知らないような人間以外にはこの検査は少し酷だったようだ。
特に、小心者で臆病なミコは身ぐるみをはがされる段階で既に泣いてしまっていた。あの姿を見るのはとても辛かった。だが、まだ検査をしてくれた兵士たちが皆女性であり、不審人物を女王に会わせないからと言って反人道的な検査をして申し訳ないと事あるごとに謝ってくれたのは不幸中の幸いだ。
検査の途中によく話を聞いてくれた女性兵士たち。恐らく、会話の中で自分たちの情報を取ろうという算段だったのだろうが、それもまた彼女たちの精神安定をもたらしてくれるよい薬であった。
その会話の中で、この検査、最初は男性陣が率先して行うと言っていたらしい。あまりにも下心丸見えであったため彼女たちが話し合い、検査役をもぎ取ったそうな。非常識の中にいた常識的な人間たちの存在に感謝の念しか覚えないリュカであった。
因みに、彼女たちは話し合いをしたと言っているのだが、後にすれ違ったその時の男性兵士の顔が傷だらけだったり腕を骨折していたりと重症を負っていたことに関しては見なかったことにしたほうが良いのだろうか。
どうやら、この国でも女性の方が立場が上のようである。
検査を終えた後、数々の無礼のお詫びと、旅の途中に体中のあちこちに着いた汚れを落とすために、リュカたちは城の中のお風呂場を貸してもらえた。この二週間水浴びしかしてこなかった自分たちにとって身体だけではなく心までもを綺麗にしてくれる気持ちのいいお風呂だった。
それまでの疲れが湯の中に溶けだして消えていくようで、いつまでも入っていたいようなそんなお風呂。一緒に入っていたミウコの女性兵士によると、どうやらこの国では天然の温泉が湧いているらしく、源泉かけ流しという物であるのだとか。
お風呂から出たリュカ、まだ鎧は返してもらえないそうなのでミウコの国の兵士から支給された純白のワンピースに着替えた。それはまだいい。だが、腕輪。お前はダメだ。
「おまけに枷まで付けるなんて……」
リュカの右手と左手を繋ぐ一つの腕輪。前世で言うところの手錠だ。そして、ソレはマハリの国で処刑前のエリスが付けられたソレと全く同じものだった。
あれほどまでに検査をしたというのにここまでするのか、と思うのだが。しかしこの世界ではたとえ手ぶらであったとしても魔法使えさえすれば暗殺することも容易い物。だからこそ、魔力を吸い取る枷は、重要人物との謁見には必要不可欠なのだろう。しかし、動きづらくて仕方がない。早く外してほしい物だ。
「それぐらい厳重だという事だ」
「って、なんでお父さんは何の検査もなしに入れたの?」
確かに不思議だ。自分たちが念入りに検査を受けていた時、何故かリュウガは高みの見物を決め込んでいた。真っ先に検査されそうなものなのだが。
見た目的にも獣には全く程遠いような外見の父、その中にいったい何が仕込まれているのか分かった物じゃない。そんなリュウガが、何故何の検査もなく、というより全く意に返されないような感じで自分と一緒に検査を潜り抜けてきたことに疑問が生じるのだ。
そんなことを聞いたリュカに対してリュウガは一言。
「フン……」
もしゃべらずにいつも通りに鼻で笑うばかり。結局リュウガが検査を素通りできたからくりの一つも明かしてくれなかった。
恐らく認識阻害の魔法のようなものを使用したのだろうと推測されるのだが真相は闇の中である。
「謁見の準備が出来ました。こちらにどうぞ」
と、その時だ。ドアの外から女性の兵士が現れてそう言った。ようやくこの国の女王様と会えるようだ。女生と一緒に外に出ると、そこには仲間たちの姿もあった。お風呂から上がったあと、それぞれに個室を与えられた自分たち。話を合わせたり情報交換の機会を作らせないためであろうが、分散されてそれぞれにひどい目にあわされていないか心配だったため、そこは一安心のようだ。
「って、なんかフランソワーズさんだけ服豪華じゃないですか?」
とリュカは彼女の格好を見て不思議に思った。
確かに、彼女の服はリュカたちのように何の装飾もない服ではなく、ドレスをそのまま着込んでいるかのような派手で、とても見目麗しい服装だった。ちょっとうらやましい気持ちも現れてしまうほどに。
フランソワーズによると、本当は自分もリュカたちと同じような質素な物でいいとは言ったらしい。だが、一応この国の元姫であるという事から、この服を着るように懇願され、そんな彼女たちの気持ちに押されてその服を着ることになったのだとか。
そして、ついに謁見の時が来る。彼女たちが通されたのはとても豪華絢爛、とても巨大な部屋だった。人が百人以上入ってもまだあまりあるくらいに広い。金や宝石で装飾された部屋の内装はとても輝き目を見張るものがある。
だが、その中でも特に目線をひく物があった。それが、玉座。見たところ、座る所の材質はとてもふんわりとしているようで、とても座り心地がよさそうだ。自分もいつかあんな椅子に座ってみたいと思わせるほどの椅子に心が引かれるリュカ。
その時だ。兵士の一人が言った。
「女王陛下のおなぁりぃ!」
前世で高貴な身分の人が現れる時の台詞である。ソレは世界共通の言葉だったのかとどこか変なところで感心してしまったリュカの目の前に、部屋の内装に負けないほどに綺麗な女性が現れた。
血のように真っ赤な外套を纏い、手には巨大な宝玉が頂点に着いた杖。そして、頭の上には彼女の顔と同じくらいの大きさの王冠。あぁ、これこそが王だなと誰が見ても分かるような分かりやすい人間が玉座のすぐ後ろにある扉から現れた。
「あれが、女王様……」
どうやらリュカ分隊の面々もまたそんな女王に対して心を奪われているようだ。考えてみれば彼女たちは元々どこともつかないような国で兵士をやっていたり脱走したりと言った地位という物とは全くと言っていいほどに縁遠かった者達。そんな自分たちが一国の女王に謁見することが出来るのだから、これほどの名誉はないことだろう。
無論、その価値に一切気が付いていないケセラ・セラは除く。
「似てますね、王妃。いえ、フランソワーズさんに」
「そうだね」
リュカは、隣にいたクラクの言葉に頷いた。確かに、似ている。やはり姉妹だからなのだろう。いや、姉妹というよりも双子なのではないかとも思えるほどにその顔立ち、そして立ち姿は似ている。違うところと言ったら、フランソワーズは腰まで届くような長髪であるのに対して、女王は逆にうなじの部分に届くか届かないかと言うほどの短髪であるというところか。
そんな女王は、自分が想像もしていなかったことをする。
彼女の立場上、まずは玉座に座るものとばかり思っていたリュカ。しかし、彼女は玉座には見向きもせず、先頭にいるフランソワーズを鋭い目つきで睨めつけたまま、スタスタと私たちの前に来た。そして。
「グレーテシア……」
「ッ!」
その顔面を思いっきりの力で殴った。あの感覚、もしかしたら魔力も込められていたのかもしれない。フランソワーズは、その勢いで後ろに歩を進めながらフラフラと座り込みそうになり、カイン達に支えられる。
「フランソワーズさん!」
「いきなり何をっ!」
もしも魔力がこもっていたとするのならば、その威力は自分の想像をはるかに超えるものだった筈だ。そんなものを魔力で防御もできない顔面に受けたのだ。脳が揺さぶられ失神していたとしてもおかしくはない。
前世で男女平等が叫ばれる現在、そしてその常識が一才通じない異世界だ。女性の顔に傷をつけるのかなんて前時代的な文句は言いたいけど言わない。
けど、それを度返しにしてもいきなりその顔を殴りつけるなんて、一国の女王がやっていいわけがない。
「いいんです。リュカさん」
「フランソワーズさん……」
フランソワーズは、そんなリュカの怒りに対し殴られた頬を撫でながら立ち上がった。
そんなフランソワーズに対し、女王は続ける。
「いまさら、のこのことよくあらわれましたね。お姉さま!」
「貴方の怒りはもっともです女王陛下。私も、一度はこの国から逃げ出した身……故に、そう簡単に私の要求を通してもらえるとは思っていません」
恐らく、殴られることは承知の上だったのだろう。フランソワーズはやはりキリリとした顔つきのままで女王に言う。
なんとなく察してはいたが、やはりフランソワーズは円満にこの国から去ったわけではないらしい。この様子からして恐らく、喧嘩別れか。
そんな二人が十五年ぶりに再会したのだから、こんなことになるのはある意味で必然だったのだ。
「処罰は何でも受けます……ですから、貴方に頼みがあります」
「話だけは……聞かせてもらいます」
そういうと、女王は翻って少し小高い位置にある玉座へと向かった。
気のせいか、そんな彼女のことをみるフランソワーズは少し笑っているように見える。まさか、ソッチ系の趣味があるとは思えないのだが、しかし人は見かけによらぬもの。例え彼女が痛みに快感を覚えるものであっても自分は甘んじてそれを受け入れるだろう。
後から考えると、というより後から考えなくても十分失礼なことを考えている人生経験まだまだ足りないリュカであった。




