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第六話 人間五十年、リュウガ死す

 自分、竜崎綾乃がこの異世界に転生してから五年の月日が流れた。

 あまりも早く、そしてあまりに短い時間、しかしそのわずかな時間が前世で経験した事の全てよりも濃厚で、そしてとても新鮮だった。

 正直の話、自分は少し甘く見ていたのかもしれない。

 ライトノベルの転生者は、何の努力もしなくても強いし、勝手に仲間が寄ってくるし、それに主人公補正のおかげで何をやってもうまくいくし。

 そんな、夢現もわからなくなる幻想をどこかで見ていたのかもしれない。

 自分は、彼の、リュウガのおかげでそれがまやかしであることに気がついた。

 何の努力も犠牲もなしに力なんて手に入らない。仲間なんて、人望がなければ手に入らない。それに、主人公補正なんて物はこの世に存在しない。

 ここは、嘘偽りの世界ではない、現実の世界なのだ。

 悲壮悲叫のたくさん溢れている、正真正銘の現実なのだ。それをしれた。それだけでもこの世界に来た意味があったと言う物。

 あの日から五年、いろいろなことがあったと、彼女は回想する。

 まずやったことは、精神的な修行だった。

 一日の半分は座禅を組んでいた。

 無心になると言うことを身体に覚えさせる為、岩のように動くことのない日が大半。前世で微動だにしない時間なんて授業中か寝る時くらいだったからとても退屈、でもその分自分を考える時間を持てた。

 森の中にはたくさんの獣が住み着いているというのに、そんなところで無防備に瞑想なんてしててよく襲われなかったものだなと言う場所もあった。

 リュウガがすぐ近くにいてくれたおかげで猛獣たちも近づいてこなかったのかもしれない。そういう事を考えるとリュウガには感謝をする。しかし、そんな危険性に気が付いてからは瞑想なんてしてもすぐに途切れたりしてそのたびにリュウガから制裁を貰ってて、それがとても辛かった。

 辛かったといえば、食事もだった。前世のトラウマが理由で、自分から火をしようするということが苦手だった自分がこの世界で食べられるものと言えば、フルーツか生肉、もしくは虫位だ。

 前世でも、一昔前はゲテモノ扱いされていた虫料理であるが、自分が死んだ時には、その豊富なたんぱく質が要因となって、普通に食す人間も多かった。だが、自分はそんなことは無く、虫料理に関しては努めて無視するようにしてきた。

 が、こと今回に当たっては虫をも食べないと生きていくことがままならないといこともあって、最初は嫌々ながらも食べ始めた。

 結論から言って、おいしかった。と、だけは伝えておく。

 それから、肉体的な鍛錬も多かった。座禅を組んだ後はとても重い岩を背負って山の山頂へと地獄のハイキングをしたり、かと言えば川の上流から流される巨木を避ける訓練をさせられたりと、とにかく色々やった。

 あの時程、二度目の死を意識したことは無いだろう。というか、巨木の中には明らかに逃げ切れるはずのないような物、そもそもそんな大きさのものが川に流れてくるのはおかしいだろという物もあった。

 リュウガが謀ったのは目に見えていたが、よくあんなもの避けれたものだと自分で自分をほめてやりたい。

 座学もそうだ。リュウガの前世、織田信長の時代の兵法や戦略等色々と教えてもらった。筆とインク代わりの物は作れたものの、紙に関してはどうにもできなかったから、教えてもらったそばから頭に叩き込むこととなっていたために、頭が割れるほどにいたかったという事はよく覚えている。

 そして、最後の最後、魔法についてだ。

 リュウガは、この世界にある魔法は元よりとして、自らが編み出した魔法を次々と自分に教えてくれた。だが、どれもこれも必要な魔力が多すぎて自分には扱えない物ばかり。魔法の使い方について知った後、自分からこんな魔法はどうかと提案したこともあり、中には有用性のある物もあったが、結局習得はできず。

 結論として、自分は基本的な魔法と、父が自分のために作った独自の魔法を教えてもらった。いまだに父の作った魔法は使えないのだが。

 だが、それでも魔法を一つも使えないよりはましと考える様にした。それに、わずかだが、魔力を身体中に薄いバリアとして張る方法を教えてもらった。おかげでちょっとやそっとの攻撃には耐えられるようにはなった。まぁ、そのおかげで肉体的な修行にさらにきついメニューが追加されたのも事実だが。

 とにかくこの修行のおかげで、基本的な魔法の一つや二つを一日に使用するくらいはできる様になった。最初の魔法を全く使えないと言う状態から考えるとものすごい進歩だと思う。

 とにかく、こうして思い返すだけでも色々なことがあった五年間。そのほとんどが、自分がこの世界で生きていくための技術習得に当てられたから、この世界の地理や歴史に関しては一切分からずじまいだが、そんな物、技術を習得した後にいくらでも知ることが出来る情報だからと、リュカは構うことは無かった。

 確かに辛いことや泣きそうになることはたくさんあった五年間。しかし、前世の16年間も総合してもとても充実感のあった五年間だった。そう言えるだろう。

 けど、それももう終わりを迎える時が来たのだ。


「いつかは、こんな日が来るって、分かってたけど……」

「……」


 今、彼女の目の前にはリュウガがいる。この世界に転生した時と同じように、大きな岩に腰かけ、こちらを見下ろしている竜の姿。

 だが、覇気の方はというと、ハッキリいって全く違っている。

 最初の時はそれこそ、おしっこをちびる、というか全部放出するくらいに恐ろしかったはずのリュウガ。しかし、今ではその威厳は全くそがれ、今にも朽ち果てそうな大木にしか見えない。

 波打つかのように綺麗だったひげも、垂れ下がり。身体中の鱗もところどころが剥がれ落ちている。それに、キバも何本も抜け、何より絹のようにきれいなオレンジ色をしたたて髪は、おじいさんかのように真っ白となっていた。

 もう、彼の寿命が付きかけているのだ。


「やっぱり、辛いです。お父さん……」


 分かっていたこととはいえ、流石に辛い。因みに、リュカは彼の事を一度【父上】という呼び名で呼ぼうとしていた。自分としては彼が呼ばれやすかった物を使ったつもりだったのだが、古臭いからヤメロと言われてしまい、結果【お父さん】などという普通の呼び方で定着した。

 その時のやり取りもまた、いまとなっては懐かしい物である。


「フン、ワシのために涙を流すか……お前は、母親と同じだな……」

「……」


 泣いている。そう、泣いているのだ。自分は。

 この世界に来て、初めて、泣いている。

 あの修行の時に、泣きかけるという事はあったけれど、それでも何故か流すことのなかった涙。五年前、あれほどの死体を目の当たりにしても揺らぐことのなかった心が、情緒が揺さぶられている。

 きっと、自分は成長できたのだ。泣けるように。自分は感じることが出来るのだ。彼の悲しみを。


「これが二度目の死……か」

「父さん……」

「だが、悪くない……」


 フッ、と笑うリュウガ。まるで、つきものが落ちたかのようにスッキリとした顔つきだ。

 死が怖くはないからか。前世も今世も、死と隣り合わせの生活を続けてきたから、だから、死を恐れることは無い、そう考えているから。

 いや、違う。きっと違う。多分違う。

 リュウガの続く言葉を聞けば、それは分かる。


「一度目は、遺恨と悔いが残る死であった……。だが、二度目は……夢を真に託すことが出来る者に出会うことが出来て……」


 一度目の人生。織田信長の人生。

 数々の敵を、好敵手を倒し、いよいよ最後の障害であったはずの強者武田家を滅亡させて、天下取りまであともう少しというところまで来たところ。

 彼は自分が厚い信頼を置いていた知略家である武将、明智光秀の謀反によってその生涯を終わらせた。時代の一歩先を読み進んだ男は、一番の家臣の心を読むことが出来ずに裏切れ、四十九年の短い生涯を終わらせてしまった。その時の事を思い返しているのだろう。


「フッ、だがそれも夢半ば……願うのならば、貴様の夢とワシの夢が叶う瞬間を見たかった物よ……」


 そう。リュカの夢、この異世界の天下統一。いつしか、ソレはリュウガの夢にもなっていた。自分の娘が世界を一つにするその瞬間が見たい。

 もちろん、自分の寿命を知っていたから、そんなことは不可能であるという事は知っていた。しかし、それでも叶わぬ夢を見るのが人間なら、その夢を目標とすることが出来るのが人間であるのだから。彼は、そんな届かぬ夢を見た自分を恥じることは無かった。


「大丈夫。絶対に叶えさせるから、だからお父さんは安心して眠って……」

「できるのか? ワシがいなくなっても……」


 この時、リュウガは非情に心配していたのだろうと、リュカは思っている。

 何故なら、まだ自分には教えなければならないことがたくさんあったから。たった五年では、教えきれるものではなかったから。

 リュウガが彼女のために作った魔法もまだ未完成のまま自分は旅立つことになる。それがとても心配だった。

 なにより、最も彼が心配していたこと。それは、彼女があまりにも優しすぎるという事なのだろう。

 虫一匹殺すことにも悲しみ、肉を取るために獣を殺した時にすらも悲哀な顔をする。こんな気持ちのままでは天下統一等夢のまた夢であると、リュウガは知っていたのだろう。

 そんな、リュウガの心境を悟ったリュカは涙を拭くき、曇りのない様に笑顔をリュウガに向けて言った。


「勿論だよ。だって、私は、貴方の、リュウガの……娘、リュカだもん」

「フッ……」


 全く笑ってしまう。娘がそんな言葉を軽々しく吐くものだから。

 だが、リュカは例え嘘であったとしても彼に安心してもらいたかった。彼に、安心して死んでもらいたかった。だから、色々と思うことはある。もっと話したいことはある。怖くてたまらないことがある。でも、それでも彼女は笑顔を見繕う事しかしなかった。あまりにも愚かだったと後にリュカは恥じている。


「父さん……お父さん?」


 ふと、リュカはリュウガの事を呼んだ。しかし、返事はない。


「……逝っちゃったか」


 これこそがまさしく、眠る様に息を引き取った。と言うものだろう。

 もう、リュウガからは何の気配すらも感じない。あっさりと、しかし静かに死んでしまったのだ。

 前世の彼の死から考えると真逆な死に方だ。しかし、逆に言えばとても満足した死に方だと言えるのだろう。だって、こんなに安らかな、微笑みを浮かべて亡くなっているのだから。

 声も上げずに死んだことからみて、きっと苦しむこともなく逝くことが出来たのだろう。それは、とてもいいことだと信じ、リュカは前を向く。その目にはもう、涙はなかった。


「よし、それじゃ後は……」


 立ち止まっているわけにはいかない。これから自分は、父から事前に言われていた使命を果たさなければならないのだ。

 突然だが、この時のリュカの格好は、とても質素な物である。まるで原始人かとも見間違うような藁で作られた服。角度によっては下が丸見えになってしまうほどにあっぴろげな服。

 五年間、彼女はこの格好で暮らしてきた。もちろん、ソレが彼女の趣味、というわけではない。リュカだって女の子。おしゃれをしたいとリュウガに願い出ることが何度もあった。

 だが、彼曰く。他人と会うわけでもないのに小綺麗な格好をしても意味がない。修行の邪魔だ。とのことだった。

 確かに彼のいう事はもっともだ。事実、自分はこの五年間、全く人と会わずに過ごしてきた。最初に転生したときに遭遇した村人の殺戮を見て、この世界には人間もいるという事は把握していた。本当にそれくらいしかこの世界の人間の情報すらもない。

 だから、彼の言うように。人と会うこともないのにオシャレをしても無駄だというのは分かる。そして、リュカ自身もおしゃれなんてしても無駄だと転生してから1年経った頃には思うようになった。

 だが、この格好で長くいるせいかは知らないが、もうどんな格好を見られても構わない。なんて思うようになってしまっているという人間としてダメな方向に移っている欠点があらわになって、露出狂とか痴女という物になっているのではないのかという不安もある。

 話を戻そう。

 リュカは、森から拾ってきた木の枝で、地面に魔法陣をかき始める。これは、リュウガに教えらえた最初の魔法。それを使うための下準備だ。

 本来魔力がないためにだいそれた魔法を使うことはできないリュカだが、地面にこうして魔法陣を書き入れることによって地面から魔力を抽出し、それを利用することによって魔法を使用することが出来る。

 この為に、リュウガはこの洞窟の床に事前に魔力を流し込んでくれていた。それを今使う。最も、その為に洞窟内の土などが保有している魔力の半分以上を使うこととなるのだが。

 リュウガ曰く、人にとって血が生命エネルギーであるとするのなら、自然界に存在する木や土の生命エネルギーは魔力。使っても年月を経てば再び元の量に自然的に回復するらしいのだが、それまでの間は魔力のない土地では作物は育たたなくなり、土の性質が変化するなどの問題が生じて、そこで生きる動物たちに大きな悪影響を及ぼしてしまうのだ。

 人間のエゴによって被害を被るのはいつだって、こうした自然の物たちだ。自分は、その自然の犠牲の下に生きている。これから生きていく。それを噛みしめながら、リュカは終に魔法陣を完成させた。


「お父さん、お身体を貰います……ハァッ!」


 リュカが、魔法陣の中に両の手を置いた瞬間、リュウガをまばゆい光が包んでいく。

 リュウガの体に残った魔力と、地面に染まったリュウガの魔力、洞窟中の魔力が結びつき、魔法を完成させようとしているのだ。その光はリュカの網膜を傷つけんばかりに明るく、リュカは思わず、目をきつく閉じる。

 この魔法の名前は≪武具生成≫、という物で、この世界では武器屋や道具屋と言った人たちが頻繁に使用している魔法であるらしい。

 リュウガは言っていた。自分が死んだあと、この魔法を使って自分の身を守る武具を創れと。自分程の巨体、そして竜神族身体を使うのだから、とても強力な武具が出来るはずだと。それを用いれば、少なくとも一年は戦うことが出来るはずだとも言っていた。

 自分が死んだ後の亡骸をもあまり興味がないようなリュウガのこの物言いに、少しだけ言いたいことがあったリュカではあったが、しかし墓なんて作ったとしても、墓参りのためにいちいちこの土地に戻ってくるわけにはいかない。だから、きれいさっぱりなくなってしまったほうが良いのかもしれない。そう考えることにして、彼の死体を弄ぶ覚悟をした。

 何秒かして、目を再び開けたその先に、リュウガの亡骸はもうない。あるのは靴と鎧、籠手、脛当てとそして二つの懐刀。


「これが、お父さんの言ってた鎧と小刀……龍の身体で作った、私だけの鎧……」


 意外だったのは、鎧や籠手だけではなく、小刀や靴までも用意されたという事。裸足で岩山等を歩いて足が傷つく事がよくあったが、これでその心配ともおさらばできる。

 父の亡骸があった場所にはさらにもう一つだけ、細長い緑色の鱗で覆われた装備が置かれていた。


「鞘……か」


 一つの鞘。懐刀の物ではなく、いわゆる日本刀サイズの物であった。

 そして、リュカはおもむろにリュウガが座っていた岩の背後にある小さな洞穴の中に入る。そこからある小部屋までの距離は短かったため、あっという間に目的の場所へとたどり着くことが出来た。

 そこにあったのは石で作られた小さな台。その上には、細長い箱が置かれている。


「……」


 それをみたリュカは、肩で一度呼吸してから堂々と箱まで近き、重たいドアを開くときの様にゆっくりと蓋を開けた。

 そして見る。自分の母が残した形見を。

 刀だった。細く、長く、自分から光を放っているのではないかと言わんばかりの光沢を持ち、これほど綺麗で洗練された物質がこれ以上この世に存在するだろか。そう思えるほどに綺麗な刀が、そこにはあった。

 リュカが生まれた直後に死亡した彼女の母親が最後に打ったという日本刀。リュウガが言うには、自分の母親は武器を創るのが得意だったらしい。この刀も、魔法なんてものを一切使わずに自分の手で打ったものだったそうだ。

 この刀と鞘。ソレは、リュカと両親の間を繋ぐ形見であった。

 すべての装備を取り終え、巨大な空間に戻ると、その場に残ったのは役目を果たした魔方陣のみである。鎧とは言ったが、下にスカートみたいな装備であったり、はた目から観察をしてみると、どう見てもこれは甲冑なのではないだろうか。いや、甲冑もまた鎧であるのは間違いないのだが、これも魔法陣がそもそもリュウガの考え出したものであることからくる所以か。

 まあいい。これで、全ての準備が整った。後は、出発するだけだ。

 荷物も、この装備品だけである。飲み物や食べ物は現地調達であるし、思い出の品なんてものは何もない。この洞窟にもつい一ヶ月ほど前に来たばかりなのでそんなに思い出は存在しない。だから、もうこれでここに来るのも最後になるだろう。


「お母さん、この刀で、私は私の欲望を叶えに行きます……。向こうで、お父さんと仲良く暮らしてください」


 リュカは、母の打った刀にそうつぶやく。

 だが考えてみると、リュウガには前世に正妻たる人間がいたはず。この異世界の黄泉の国と前世の黄泉の国が同じものだという保証はないが、もしも同じだった場合かなりの修羅場になるのではないだろうか。

 ある意味、それはそれで見てみたい気はするが。

 なんて馬鹿な事を考えるのはこれから始まる冒険への恐怖心を少しでも減らすためなのだろうか。

 とにかく、リュカは洞窟の外に向かって歩き出す。と言っても、ここから外まではほんの二,三十キロ程しかない。昔の自分だったらともかくとして、今の自分では何の苦にもならない距離だ。

 こうして、リュカは旅立っていった。新しい冒険へと。新しい自分の人生へと。そして、新しい物語へと。

 しかし、彼女は気が付かなかった。いや、気が付けと言っても無理があるだろう。

 彼女の後ろで、≪紫色≫の宝石が浮かんでいるという事を。

 そして、その紫色の宝石から淡い光が漏れ、≪ある物≫を引き寄せているという事を。

 彼女は、気が付くことは無かった。


 それから何時間足らずであろうか。彼女はついに洞窟の出口にたどり着く。

 リュカは、修行のために何度か外の世界に足を踏み入れたことがあった。しかし、その全てでリュウガが一緒についてきていたため、こうしてただ一人で外に出るのは初めてだ。

 齢17の生涯にして、≪はじめてのおつかい≫なんてあまりにも遅すぎるし、おつかいの内容があまりにもハードすぎるな、なんて心の中で冗談めかしてみるリュカには、もう恐れなんてものはない。

 目の前に広がるのは荒野。前世のアメリカという国にある巨大な渓谷を思わせるような大きさの崖が立ち上り、彼女はその崖の中腹部分から渓谷の事を見下ろしていた。

 これまで色々な洞窟を父とともに巡ってきた。その多くは、森に囲まれたり湖があったりと、とても自然にあふれた場所だったことを考えると、ここはとても殺風景であるといってもいい場所。

 何故リュウガがここを始まりの地としたのかは分からない。でも、これまた試練の一つなのだろう。

 自分が、天下を取るための険しい道の一つなのだろう。

 リュカは、腰に下げた母親の刀に一度触れると、意を決して飛び降りた。

 苦難と、悲しみが待つ、本当の、異世界へと。

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