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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていなかった転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第4章 赤い衝撃、燃ゆる国

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第三十二話

 多くの人の命が失われた。そんな夜がついに終わった。

 あの後、駆け付けたセイナたちに保護されたリュカたちは、すぐに城に連れ戻された。カナリアたち、また近くで発見されたバラバラにされた兵士の遺体は、セイナたちが処理するらしい。

 まだ信じられない。自分たちが生き残ったなんて。自分たちとカナリアとの実力の差は歴然だった。だから、正直相手をしている時には勝算は全くなかった。

 しかし、自分たちは勝ったのだ。ケセラ・セラやクラクたちが協力してくれたおかげで。

 だが、夜はまだ終わりそうにはない。自分たちがヴァルキリーであると団員にばれてしまった以上。この問題を先送りになんてできないのだ。

 いま、自分とケセラ・セラは城の中でも団員達から距離を置くことのできる部屋に隔離されている。今頃、騎士団の隊長級が集められて自分たちの事や、カナリアのことについて説明があるはず。その後で、自分たちを扱いをどうするかの話し合いが行われるそうだ。

 しかし、ここまで結果が目に見えている審判なんて、なかなかにないはずだ。どう見繕っても、自分たちはこの国に災いをもたらしに来た悪魔にしか見えないのだから、きっと彼女たちの答えは―――。

 でも、その前にコレだけは伝えておかなければならない。そう考えたリュカたちは一人の女性を呼んでもらった。


「カナ……」


 そう。セリンである。彼女は、カナリアと共にギルム・リリィアンから出向してきた女性の一人であり、カナリアが自分の村から出る時に初めて出会った友達、いや親友と言ってもいい存在。だから、彼女にはカナリアの最後を、カナリアを殺した人間として説明する義務があった。

 リュカがカナリアの最後を事細かく、物語を話すかのように伝えた直後、セリンは下を向いてしまう。当然だ。親友が、化け物同然の姿になって、目の前にいるまだ人殺しも経験したことのなかった人間に殺されてしまったのだから。

 前世の自分だったら、どうだろう。自分は、親を殺し、自分と妹からすべてを奪ったあの男を目の前にして許すことができるだろうか。どう行動するだろう。

 きっと憎むはずだ。相手を憎んで、怨んで、それこそ殺したいほどの欲求に駆られて場美雑言を発するはずだ。

 彼女も、そんな気持ちのはずだ。経験者が言うのだから、間違いない。


「あの、セリンさん……私……」


 リュカは、セリンに声をかけようとする。でも、その言葉が続くことは無かった。何を話せばいい。彼女の親友を奪った自分が、一体何を。どんなことを話したとしても、言い訳をしたとしても自分がカナリアを殺した事実は変わらないのに。彼女が、帰ってこないという事実は変わらないというのに。

 一体、何を。


「いいのよ。あの時から、カナも覚悟していたらしいから」

「え?」


 覚悟していたとは、どういう意味なのか。リュカは、セリンから詳しく教えてもらった。

 実は、ギルム・リリィアンの軍団長ティムにはある特殊能力があった。その能力を使用すれば、カナリアの中にいる接触禁止生物を殺すことも可能だったそうだ。

 だがその力は、使用者に多大なる負担をかける諸刃の剣。もし使用するのならば、ティムが多大なる犠牲を払うことになる。

 当時、そう説明されたカナリアは、自分のせいでティムが犠牲になるくらいなら、自分が犠牲になる。もともと二度も無くなっていかもしれない自分の命だ。それが助かった今もう、後悔の一つもない。だから、自分が寄生されて、自我が無くなるその日まで、誰かの今を、未来を守りたい。ティムは、その自分の目標を叶える為に必要な人間だから、自分を犠牲になんてしてほしくない。そう言ったそうだ。

 その日から、いつかはくる終わりをその身に宿しながらカナリアは生きてきた。生きて、戦って、人を殺して、そしてたくさんの未来を救ってきた。そしていざ自分の身体の寄生が始まったその時には、人里から離れた場所に行って、もしその時に自分の自我が残っていたら自らの命を断たせてもらう。そうまで言ってのけた。だが、まさかこんなにも早く終わりが来るなんてセリンも思ってみなかった。しかしきっと、彼女は満足しているはず、本望だったのだと、そう言っていた。


「それじゃ、リコやネクルさん、それに兵士の人たちの犠牲は何だったんですか?」

「ッ……」


 リュカは、開口一番にそう言った。

 そう、結局カナリアは確かに山奥に自分の身体を持っていた。だが、その後自殺することなく生き続け、結局食料を調達するために山に入った兵士三人やネクル、そしてリコの命を奪う結果になってしまった。

 確かに、山に兵士たちがいたという事は想定外の事だったのかもしれない。だが、ソレにしてもあの時、自分が話をした時にはまだ彼女は自分の身体を何とか制御できる力を持っていた。それならば、自殺することは簡単にできたはずなのに。

 やっぱり、彼女は最後まで生きたがりだったのだ。最後まで、死にたくないとあがき続けていたのだ。それが、人間として最もあるべき姿だったから。でも、その結果彼女は五人もの人間を殺害して逝ってしまうことになった。

 そして、一人の殺人者を生んでしまう事にもなった。


「仲間を殺して、誰かを殺人者にして、それが本望だったって、本当にそう言うんですか? そんなの、勝手すぎますよ……」


 リュカは、祈るように手を合わせてから顔を下に向けた。その手は、小刻みに震えている。

 あの時の感覚が蘇ってしまったのだ。信頼していた友達を殺された時の悔しさ、信頼していた者に裏切られた悔しさ、そして信頼していた者を殺す言いようのない快感。

 そんな物を与えるためのカナリアの人生だったというのか。そんな物を与えるために、彼女は無駄なあがきをしたというのか。そんなことのために、五人いや六人もの犠牲を生んだというのか。

 自分勝手だ。でも、そんな言葉、同じ穴の狢であるはずの自分が言っても何の説得力もない。

 きっと、自分も同じはずだ。最後には死にたくない。生き残りたいと願ってあがくはずだ。例え、どれだけの犠牲を払おうとも。それが、人間の哀しき性なのだから。

 ケセラ・セラは、そんなリュカのことを慰めるためにその肩に手を置いた。でも、それ以上は何もできなかった。自分もまた、人殺しになれば何かが出来るのかもしれない。彼女の心の助けになるのかもしれなかった。しかし、今の自分には彼女の心を救う方法なんて何一つとしてなかった。

 流石の自分も、獣を殺したことはあっても人を殺したことは一度たりともない。そんな人間が、人殺しとなってしまった人間を救う方法なんて何もなかった。ケセラ・セラは何もできない自分が悔しくて悔しくてたまらなかった。


「……そうね、本当身勝手な大バカ者よカナは……」


 だからこそ、彼女なのだ。

 セリンはリュカの、そして何もできず無力感を味わっていたケセラ・セラの肩を優しく抱くとつぶやいた。


「笑ってやりましょう。黄泉の国の底に堕ちたカナの事を……」


 涙を交えた。やんわりとした笑顔。それは、彼女の精一杯の優しさであり、そして精一杯の親友を送るための言葉だったのかもしれない。

 例え、それがカナリアの望みであったとしても、それがどうしようもなかったことであったとしても、だからといって彼女もまたリュカの事を許せるはずがない。許してはならないのだ。

 でもそんな理不尽をも正当化させてしまう。それがこの世界。それが、自分が転生した世界の掟。揺るぐことのない、悲しき掟。


「はい……」


 こんな掟、あってはならない。そう感じながら、リュカはそう返事をするしかなかった。

 セリンの悲しみを、自分自身の悲しみに変えながらも。

 きっと、彼女の魂は、自分たちの世界で言うところの地獄に落ちたのだろう。ならば、そこで待っていてくれ。私も遠い未来、そこに行く。貴方を殺し、それでも生きようとする身勝手な自分は、貴方の所に。

 だから、それまで、お別れです。

 さようなら、カナリアさん。


「リュカ、ケセラ・セラ」

「セイナさん……」


 そうやって、リュカたちが悲しみに包まれるなか、セイナがドアをくぐってやってきた。リュカは、目元をこすってから言う。


「あの、私たちのことについての話し合いは……どうなりましたか?」


 彼女がここに来たという事は、自分たちの扱いについての話し合いの結論が出たという事だ。これから、自分たちがどうなってしまうか、セイナは苦笑いして、頬を掻きながら言う。


「紛糾したわよ。ヴァルキリーをこのまま連れて行くかどうか賛否両論。いいえ、否の方が多かったわね」


 それは、リュカ自身も予想していたことだ。

 前の世界でも昔の言い伝えや伝説。ありもしないような伝承に恐れる人間が多かったように、この世界でもヴァルキリーの存在が人々の恐れる物であるという事には変わりない。自分だって、もしもヴァルキリーじゃなかったとしたらそんな存在を許せるのか。

 いや、私なら言える。許せると。共に歩んでいこうと言える。ケセラ・セラにそうしたように。

 でも、それは自分が前世で差別はいけないことだと教えられてきたから。そういった意識が存在してからそう言えるのであって、そんなことを教育されていないこの世界の人々に同じことをしてくれと頼むのも違う物だ。


「それじゃ……」


 でも、もしそうだったとしても、この騎士団から追放されたとしても構うことは無い。自分は、この国で多くの経験を得た。世界は広く、自分よりも強い人間なんて何十何百といるという事。一人で戦うには限界がある、けど仲間といればその可能性は大きく広がるという事。龍才開花の新しい使い方や、戦術戦略だってたくさん教えてもらった。この国で、初めての友達に出会うことが出来た。

 そして何より、人殺しを経験させてもらった。

 だから、この騎士団から追放されても悔いはない。自分は、ここで培った物を持って生きていく。ただそれだけで満足だから。

 だから。


「でもね、最後にはみんな納得してくれたわ」

「え?」


 セイナのその言葉には驚いた。納得してくれた。自分たちが、この騎士団に残るという事がか。

 でも、どうやって。団長権限か、いやしかしそんな物を使っても人の心を完全につなぎとめることはできない。そうセイナは言っていた。一体、何があったのか。話し合いで、何が。


「この子たちのおかげでね」


 その言葉と同時に廊下から現れたのは、リュカも知る三人の女性達だ。


「クラク、トリコさんにクルウスさん……」


 自分と一緒にカナリアと戦ってくれた仲間たち。三人は、その時の説明をリュカの代わりにするために隊長級でもないにかかわらず話し合いに参加していたそうだ。

 そして、そこで三人からの懇願があったらしい。


「ヴァルキリーでも、接触禁止生物級の獣を倒せる力は、今後も必要になってくる。そう説得したのよ」

「確かに、最初は驚いたけど……でも、二人がいなかったら私たちも死んでいたかもしれないわ」

「髪の色が違っても、ヴァルキリーでも……私は二人と一緒にいたいんです」


 トリコ、クルウス、そしてクラクがそう言った。

 確かに、自分は彼女たちの命の恩人なのかもしれない。だからこそ、そう言って自分の事を庇ってくれたのかも。

 いや、あの戦いの勝利は自分一人の力じゃない。クラク、トリコ、クルウス、ケセラ・セラ。そしてセイナのおかげでもある。

 あの時、カナリアは魔法の使用に苦労していた。今考えてみると、彼女もまた自分やケセラ・セラが来ていた魔力封じの服を着ていたはずだ。だから、彼女の魔力が抑えられてここにいる五人で互角の戦いをすることが出来ていた。もしも彼女の本来の力が発揮されていれば、自分たちはここにはいない。

 だから、自分は彼女たちの恩人でも何でもない。むしろ感謝しなければいけないのは自分の方だ。

 それに、自分は追放されても構わない、そう先ほど言った。だが、それには語弊がある。本当は、去りたかったのかもしれない、彼女たちの元から。


「……私、不幸をまき散らすかもしれない……また、その不幸のせいで誰かが死ぬかもしれない……」


 ヴァルキリーが持つ運命力。最初は意味すらも分からないでいたが今になって思う。つまりは、主人公補正を格好良く言い換えただけなのだと。

 不幸をまき散らすとは、つまり自分たちが行くところ行くところで事件が起こるという事なのだ。前世のアニメーションの中で行くところ行くところで事件に遭遇していた主人公たちのように。

 エリスが処刑されそうになったのも、この国が滅びることも、カナリアの身体が寄生されたのも、リコやクネルが死んだのも、自分のせい。自分が来たから、自分のための事件を起こすために運命力が働いて、人が死んだり、国が滅んだりする。

 そんなの、見るのはもうたくさんだ。そんなリュカの言葉に、セイナはその頭に手を置いていった。


「それでも、よ」

「え?」

「人が死ぬのなんて日常茶飯事、不幸なんて気の持ちよう。それに、もしそんな物が襲ってきても、これだけの仲間がいるんだから乗り越えるなんてわけないでしょ」

「セイナさん……」


 何故だろう。そんな彼女の笑顔を見ていると安心できるのは。彼女が言うのだからそうなのかもしれない。そう思えてしまうのは。


「それに、王妃様も嘆願してくれたんです。この国を救ってくれた二人も一緒に連れて行きたい……何度も厄子を見捨てたくないと」

「何度?」


 聞くところによると、王妃は夜も深い、いやもうすぐ朝を迎えるという時間にも関わらず彼女たちの会合の場に現れ、その場にいた隊長たちを説得したらしい。

 彼女もこれ以上見たくなかったのかもしれない。自分たちの勝手なわがままで、厄子を捨て去るという事が。

 この国でも、何度も髪色の違う子供が産まれていた。そして、その度にあの、自分がケセラ・セラと出会った森の奥深くに捨てられていたそうだ。もしかすると、ケセラ・セラもまた、この国から捨てられた厄子の一人だったのかもしれない。

 王妃自身も、今まで多くの厄子を捨ててきたにもかかわらず今更なことを言うと自嘲したそうだ。けど、それでももう、これ以上単なる迷信のために、滅びゆく国のためなんかのことで独りぼっちになる子を出してはならない。出したくない。

 そう言って、彼女はなんとその場で≪土下座≫までしたらしい。異世界にまで土下座の文化が広まっているという事に驚いたが、この国の中では王の次に権力を有しているはずの彼女がそこまでの事をした。それが、彼女たちがヴァルキリーを受け入れることを容認した理由の一つなのかもしれない。

 因みにその時、セイナやクラクたち三人もまた仲間たちに対して同じく土下座をして懇願してくれたそうだ。こんな、自分なんかのために。その時の事を想像すると、とても申し訳なくなる。自分は、そんな大それた人間じゃないのに、そこまでしてこの場所にいる意味なんてないはずの、人間なのに。


「ヴァルキリーが不幸を呼ぶ存在だってんなら、私たちみんなで変えていけばいい。それが私たち、マハリ騎士団……いいえ」


 セイナは、一度声を遮る。まるで、何かを噛みしめているかのようだ。

 その時間が、とても長いように感じた。時間が引き延ばされているかのように長く、長く、長く。

 そして、彼女は言う。その言葉を。


「≪ヴァルキリー騎士団≫の決定よ」

「え?」

「マハリももう直なくなるから、改名してみたの。どう? 格好いいと思わない?」


 ヴァルキリー騎士団。それはきっと、自分たちを受け入れるという事を真に表明するための改名なのだろう。

 自分たちは、ヴァルキリーの名と共にある。ヴァルキリーという存在を恐れることは無い。そういうための改名。


「……はい」


 少しだけ恥ずかしいような気がして、そんな小さな声しか出せなかった。でも、嬉しかった。彼女たちが、自分の居場所を、自分たちのいるべき場所を作ってくれたことが。

 この時、彼女は決めた。自分もまた、この騎士団で生きていく。この場所で、この世界で、共に生きていく。

 例え辛く、悲しい出来事があっても、この仲間たちと一緒ならば、どこまでも羽ばたくことが出来る。そう信じて。自分たちを受け入れ、自分たちと共に歩んでくれる仲間たちと共に。


「改めて、ようこそヴァルキリー騎士団へ。リュカ、ケセラ・セラ」

「……」


 この騎士団から変えていこう。この世界を。こんな狂った世界を、変えていこう。平和な世界に、差別なんてない世界に、そしてヴァルキリーも分け隔てなく一緒に笑って暮らせる世界に。

 そう信じたからこそ、彼女は笑顔で、今度こそ言った。


「はい!」


 後に、彼女はこの時の事を思い出してこう回想している。


『あの時の私は、使命感というか、これが自分の役目なんだって思い込んで突っ走ろうとしていた。こんな人殺しばかりが起こる世界なんてなくしたい。そう願ってた。でも、今になって思えば……』







≪私は、いい道化でしたよ≫


 と。

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