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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第4章 赤い衝撃、燃ゆる国

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第二十三話

「救援信号?」


 突如としてセイナに呼び出されたリィナたち副団長組、そして自室から一向に出てくる気配のないカナリアを除いた小隊長組。

 深夜にもかかわらず呼び出しから物の数分足らずで集まることができたのは、日頃の訓練のたまものなのだろうが、流石に眠たそうに眼をこすっていた者が何人かいた。

 しかし、セイナの口から出た思いもよらぬ報告に誰もが覚醒し、その話を一言一句聞き逃すことのないように耳を傾ける。


「えぇ、何者かに襲われたみたい。こちらからも魔法を飛ばしたけど、一向に反応はない。もしかすると既に……」


 今から十数分前、もしかしたら奇襲もあると考え交代で見張っていた兵士の一人から、山の方に助けを求める救難信号の魔法を目撃したとの連絡を受けた。恐らく、食料を調達しに行った兵士たちが飛ばしたものだと考えられるそうだ。

 しかしその後、こちらからも応答を示す魔法を飛ばしたにも関わらず何の反応もない。とすると、遭難や怪我なんて生易しい物ではない事態に陥っていることが容易に想像できた。


「まさか、凶悪な獣に襲われたとか?」

「あるいは、トナガ」

「ッ!」


 懸念していたトナガの奇襲。その先遣によって殺された、あるいは捕らえられたか。それとも、凶暴な獣に襲われ、魔法を返すこともできないほどに緊迫した状況に陥っているのか。

 どちらもあり得る事。特に前者に関してはこの二年間森の獣たちを無視してきたために突然変異で凶暴な獣が産まれていたとしても何ら不思議ではない。


「彼らに何があったのかを探るべきです。敵にしろ、獣にしろ、この国に害を及ぼすというのならば、見逃せませんよ」


 なんにせよ、まずは現場に足を踏み入れる。それからだ。もしも凶暴な獣だった場合、明日逃げることになっている国民たちに被害がでる恐れがあるし、またトナガの国の人間だったとしても、これ以上の情報の流出は避けたい。それに、逆に捕らえる事が出来ればトナガの国の情報を得ることが出来るかもしれない。どちらにしても、動かないわけにはいかなかった。


「そこで、討伐隊を編成する。ラーラ、ミネ、カーレは小隊を引き連れて森へ行って」

「「「了解!」」」

「指揮はリィナに任せるわ。その他の者は奇襲に備えて待機、いいわね」

『了解!』


 先ほど彼女が言った、ラーラ、ミネ、カーレの三人はこの騎士団の中でも小隊規模の人数をまとめ上げることのできる人間たち。三人合わせて九十人足らず。そんな大勢で行くのは少し大げさではないかとも思うが、しかし森の中という広大な土地を探るためには、これくらいの人数がいなければ敵、もしくは獣を見つけるのは困難であるのだ。

 もちろん、大人数で動けば敵が現れた時に戦いにくい場合があるというのは重々承知、だがそれと同時に奇襲などを受けにくいという利点がある。今回はそちらの方を優先させたのだ。

 そして、それをまとめ上げるのが副団長であり、この騎士団の半数の指揮を任されている中隊長のリィナ。彼女は今日のような暗い森の中でもある程度素早く動き回れるためにうってつけの人選だとセイナは考えていた。

 その場にいた隊長陣営もまた、このセイナの人選に異論はない。

 はずだった。しかし、ただ一人だけ彼女にとある提案をした人間がいた。


「あ、団長。いいかしら?」

「何、リィナ」

「討伐隊に、リュカとケセラ・セラ。それからリコも連れて行ってもいい?」

「え?」

「?」

「え、私もですか?」


 このリィナの発言に対して何故か隊長クラスでないにも関わらず参加を強制させられた三人の少女、特にリコは疑問に思った。


「どうして?」

「二人には、相手がなんにせよ、私たち騎士団のやり方ってのを見てもらおうかと思って」

「でも……」

「大丈夫。例の服は脱がせないし、私たちの側から離れさせないから」


 そう言うことを言ってるわけじゃない。相手がまだなんであるのかも分かっていないのにまだ小隊規模での連携の爪も甘いような少女たちを連れて行くなんて。

 それにだ。リュカとケセラ・セラの二人はともかくとして、何故リコもまた連れて行こうというのか。リコ本人も自身疑問に思っていた。

 リコもまたこの騎士団に入団してから間もなく、剣の技術も魔法の力も弱い部類に入る。この危険な任務に連れて行く理由なんてないはずだが。


「あの、二人はともかく、どうして私も?」

「この私が特に目を付けている子だから。嫌ならいいわよ?」

「あ、いえ。行きます!」

「よし、いいわね、セイナ」


 半ば言わされた感のあるリコ。だが、もしも相手が獣ではなくトナガの兵士であったのならば、元トナガ兵であるリコを連れて行く理由にはなる。利が一つ通るのであれば、まだ入団間もないという理由だけで彼女を連れて行かないわけにはいかない。

 いや、そんなわけがない。利が一つ通るからと言って彼女の命を危険にさらす真似が許されて言い訳がない。やはり、ここは彼女には残ってもらう。そう考えていたセイナであるが、しかしそんな彼女の思いを知ってか知らずか、リコは言う。


「団長。私も、この騎士団に入った以上危険は承知です。お願いです。私も行かせてください!」

「……死に急ぐような物よ」

「それでも……お願いします!」


 リコは、仲間たちの力になりたかった。自分の力が劣っていると知っていても、それでもなお足手まといにはなりたくなかった。

 つい先日には最近入団してきたばかりのリュカやケセラ・セラにも負け始めている始末。このままだと自分はまたいらない人間として捨てられてしまうのではないか。そんな恐怖心があったのかもしれない。

 嫌だ、またあんな生活に戻るのは。また、自分の身体を犠牲にして生きるのは、嫌だった。だから、彼女がこの無謀な提案に乗るのはごく当たり前の事だったのかもしれない。

 彼女は居場所が欲しかったのだ。騎士団という場所に、自分のいるところを欲していたのだ。自分の居場所を守るためだったら命の一つや二つ捨ててもいい。リコは、全くと言っていいほどに命に無頓着だったのかもしれない。

 だが、その欲望に忠実なところは、もしかしたらリュカに負けず劣らずだった。そんな可能性もある。

 この熱意に押されてしまったセイナは、生涯この後の決断を悔やむこととなった。


「しょうがない……いいわ、許可する。ただし、私もついていくわ。カイン、この国の事はお願い」


 という事で、騎士団長自ら討伐隊に参加するという。これは異例中の異例だ。

 敵が獣であっても人間であっても、騎士団の人間の力ならば多少の強敵であったとしても倒せる。だから、団長自らが出陣するという事、そしてその意味は全くない。

 だが、それでも新人が数名混じっての討伐隊という異例の部隊を前にして、その異例は通例へと変貌してしまった。


「でも、この場合ついていくのは三人の所属している……」

「そう、カナだけど。まだ部屋から出てきていないみたいだし……」


 リュカやケセラ・セラが所属しているのはカナリア分隊。この場合ついていくのはその分隊長であるカナリアであるという事が普通なのだ。だが、彼女はいまだに体調がすぐれないのか自室から出てこず、昨日今日とその姿を見た人間は誰もいない。

 だからこそいざとなった時に三人をまとめるための人間として自分自身が一番の適任である。そして、何かあった時の全ての責任を負うのは自分が適切であると彼女は判断したのだ。


「了、解。念のためにロゥイの分隊もつけるから」

「ありがとう。と、いう事は……」

「そ、私たちの期待の星の一つ。クラクもいるわね」


 カインの提案にリィナが付け加えた。カインは、そういえば忘れていたと言わんばかりに口を押える。しまった、またセイナに悩みの種を一つ増やすこととなった。

 そう、彼女の言うロゥイの分隊にはこれまた騎士団に入団したばかりで、さらにリュカたちと同じ服を着こんでいるクラクもいたのだ。

 このままではリュカ、ケセラ・セラ、クラクと新人を三人も含んだ討伐隊が編成されてしまう。リコ以上の問題児であるクラクを連れて行くのはマズイ。そう考えたカインは代替え案を提示しようとするが。


「いいわ……新人三人を含めた討伐隊なんて、前代未聞ね」


 といって笑い退ける。自分から提案してなんだが、不安の残る人選に突如として胃が痛くなってきたカインはセイナに手を伸ばして言った。


「けど……」

「誰でも最初は皆新人。初めてを乗り越えてからが本番……一気に新人の初陣を済ませることが出来ると考えたら、気が楽よ」

「……」


 と、セイナは言う。

 後にセイナはこの時のことについてこう語っている。


『あの時、確かにトナガの軍勢が近づいているとはいえ、勇み足で国の兵士を襲うような人間はいない。だから、犯人は獣だとそういう確信があった。いくら危険な獣であったとしても百人近くの人間を連れて行けば、楽に討伐できるか、逃げていくのは間違いない。そんな、慢心があったのは確か。そう、慢心していたのは自分だったのだ。だから』


 あの子たちが死んだのは、全部私の責任だ。

 と。

 セイナは、それまで騎士団団長として間違った判断を下したことはほとんどなかった。しかし、ことこの時に関しては周囲の人間が驚くほどに粗雑な考えを持って指示を出していた。

 もしかしたら、これも全て≪あの人≫たちが原因だったのかもしれない。

 これも全て≪あの力≫が原因だったのかもしれない。

 世界は、彼女を中心に回り始めていた。

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