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第五話 魔力、なにそれおいしいの?

 正直なところ、自分は魔法という物に憧れを抱いている。いや、憧れを抱いていたと言った方がいいだろう。

 掃除を勝手にしてくれる。勉強を勝手に終わらせといてくれる。そんな物はほんの序の口で、空を飛べたり、深海の世界に行ったり、重い岩を持ち上げたり、そして誰かを助けたり。

 そんな、なんでもできる。なんでもやることのできる魔法にとても強く憧れていた。それはまず間違いない。

 たとえ、高校生になってそれが夢物語に過ぎないことがわかってもなお、心のどこかには魔法を信じたい気持ちがあった。

 だが、そんな少女に伝えられたのは、絶望的な事実である。


「つ、使えないってどういうことですか?」


 自分は魔法が使えない。一体どういうことなのか。自分が、龍神族の一人だからか。それとも龍と人間の混血種だからか。

 今のところ魔法に関しては何の情報も持ち合わせていないリュカでは、これくらいしか考えることはできない。しかし、魔法にあこがれる一人の少女として、魔法を使えないという事はとても壊滅的なショックの一つであるのだ。


「貴様には、魔法を使えるほどの魔力が備わっていない」

「え?」

「一般人の魔力を100とするのならば、お前の魔力は1。それこそ、赤子と同じほどの魔力しか持ち合わせていない」


 どうして、そんな極端なことになってしまっているのだろう。自分が転生者だからか。いや、自分の身体はそもそもこの世界に存在したリュカという少女の物。

 リュウガは、自分がこの身体に宿ってから魔力がないという話をしていない。つまり、自分が転生する前からリュカには魔力が備わっていなかったのかもしれない。もしかして、魂と身体が不一致しているために魔力を上手く引き出せていないのかとも考えたが、同じ転生者であるリュウガは恐らく魔法を使うことが出来ているため、それもないのだろう。

 それじゃなんだ、なんで自分は魔力がない。魔法が使えない。何故。どうして。そんな疑問が、思わず口に出てしまっていたのだろう。自分の疑問にリュウガは答えてくれた。


「分からん。分かることと言えば、少なくとも今の貴様では、魔法一つ使えない。それどころか、魔法による攻撃を受ければひとたまりもない」

「……」


 リュウガのような龍が分からないと言っているのであれば、本当に原因不明なのかもしれない。

 何故だろうか、彼がどれほど物を知っているのかも分からないのに、どうしてここまで彼の言葉が信頼できるのだろうか。やはり、父親だからだろか。例え、自分の《魂》がそうとは認識していなかったとしても、自分の《身体》は彼の娘だからだろうか。

 しかし、もしリュウガのいう事が確かであるとするのならば、もしも今後リュウガのように自分が命を狙われることになった時、相手に魔法を使えるものがいたとする。

 そうなると、自分は何の抵抗もできずになすすべなく殺されるのを待つしかなくなってしまうのかもしれない。

 そんなの、嫌だ。せっかくもう一度別の人生を経験でいるという奇跡を体験できているというのに、そんなに簡単に命を散らすことになるなんて、そんなの絶対に嫌だ。

 それに、自分には欲望があるのだ。あの時、リュウガの上で世界を見渡して、自分の中に生まれた大きくて、途方もない欲望が。それをなすこともなく死んでしまうなんて、そんなのは、嫌だ。

 リュカは思わず手に力を入れてしまう。爪が皮膚に食い込み、血が流れ出てくる痛みとぬるっとした水の感覚がする。しかし、そんなこと構うことなく手を握っていた。リュカに、リュウガが、いたずら小僧のような声色で言った。


「だが、方法はある」

「え?」

「周囲の魔力を自分の魔力として用いる。それによって、自らの魔力を補うという方法がな」


 リュウガが言うには、この世界の空気や大地、植物に至るまですべてに魔力が備わっている。それを身体に取り入れることによって魔法を使うことが可能になるというのだ。

 といっても、この方法には二つの問題があるらしい。


「まず一つ目に、例えこの力が使えたとしても、随時魔力を身体の中にとどめておくことは不可能だ。場面場面ごとの使用に止まり、なおかつ取り込める魔力もそう多くはいだろ」


 どうやら、魔力の質が違っていると、例え魔力を取り込めたとしても身体が拒否反応を起こしてすぐさま魔力を自動で放出しようとするらしい。

 そのため、一度取り込んだ魔力をキープすることは不可能であるし、取り込んだ魔力をすぐに使わなければ、身体に悪影響を与えてしまうこともあるらしい。

 そして、これらは全て可能性、つまり仮定の話であるらしい。


「その方法はワシがいづれ目覚めるであろう貴様のために編み出した物。理論上は可能であったとしても、貴様にソレを会得できるかは……」


 つまり、これは全て机上の空論であるという事。まだ、誰も試したことのない全く新しい技術である。成功する可能性は確かにある。しかし、失敗してしまう可能性はその可能性よりもはるかに高みに存在する。まさしく、シュレディンガーの猫的な存在なのだ。

 そんな、試運転もすんでいない機械をぶっつけ本番で動かすすような危険な真似、慎重な人間であったのならば絶対にしないだろう。しかし、彼女はその慎重な人間の一人ではなかったらしい。


「それでも、それでもやります!」

「……」


 未来の事を考えているリュカは、目線をリュウガから一切外すこともなくハッキリとした言葉で言った。

 その言葉に、一瞬面を喰らったリュウガは、さらにリュカの言葉を聞く。


「私、魔法が使いたい、強くなりたいんです!」

「何故だ?」

「……」


 何故、そんなの決まっている。


「生まれてしまったんです。欲望が」

「……」

「私、前世では未来への目標とか、将来の夢とかそんなのなかった。ただただ毎日毎日を必死で生きる。それしか、なかった……。でも、貴方の頭からこの世界を空から見て……私、初めて夢を見ることが出来た……この世界を、自分のものにしたいっていう……欲望という名前の夢が……」


 リュウガの上から見た世界。ソレは、とても甘美な夢を見せてもらったような気持ちだった。

 世界を上から覗いた気分。それは、まるで自分がこの世界の王様にでもなったかのような、充足感を貰った。

 でも、それは全てまやかし。全てリュウガが見せてくれた幻想。自分自身が手にしたものではない。

 奪いたい、この手に掴みたい。人生で初めての征服欲を手にした瞬間だった。自分自身少しイカれた考えであると思う。でも、そんなイカれた自分の心をどうにもすることはできないのだ。


「天下統一……貴方と同じ夢になったのは、これも何かの縁かもしれない……」


 思えば、リュウガの前世、織田信長の夢もまた日本を統一するという物だった。これは、今の自分の夢とよく似ている。これもまた、何かの縁だ。そう、語ったリュカの言葉に、彼は一息だけ吐くとこういった。


「……うつけめ」

「え?」

「本気なのか?」

「……もちろん」

「ならば、何も言わん。これだけは覚えておけ」

「何?」

「お前は、幾度も後悔することになる。その欲望を持ったことに、な」

「……」


 後悔。それは一体どういうことなのか。この時の彼女にはよくわからなかった。

 そして、それは5年経ったのちにも分からないままであった。


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