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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第4章 赤い衝撃、燃ゆる国

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第十一話

 カナリアが生まれたのは、このマハリから遠く離れたところにあった小さな村。どの国の領地下にもない平凡な村だった。この世界において、村と呼ばれる集落は極めてたくさんあり、そのほとんどに名前など付けられていない。彼女のいた村もまたその一つである。

 だが、それでもそこで人は生き、それぞれの生活をしていた。

 カナリアは、その村の村長の家に生まれた。小さな村で生まれた女の子に、村中が愛情深く接してくれ、綺麗な母や十ほども年の離れた姉にも囲まれて何不自由のない生活をしていた。

 村では一年に渡って日照りが続いていた。雨が降る時もあったが、それも一年に一度雨季に一週間ほど村が押し流されるほどに降る。それ以外で天気が変わることがあったらそれこそ天変地異だと冗談で村人が話してしまうほどであった。

 雨が降らず、作物の育たない村の数少ない食料の入手手段といえば狩りであった。村の裏手すぐには、山があったため、村人はそこで獣を狩り、自らの食糧としていたのだ。

 いや、村の裏手が山というのは語弊がある。正しくは、村自体山から見下ろした位置にある窪地にあったと言ったほうが良い。その山には多くの青々とした緑が、黄土色の村の土と対比するかのように映えていて、村の中から見上げたそのきれいな景色と、山の上から見下ろす殺風景な村の景色の二つ、これが彼女の好きなものだった。

 なぜ作物が育たないというのに、山には木が生い茂っているのか。矛盾しているのかもしれないし、カナリアもよくは知らないのだが、その山に生える木は、一度水を得ればそれだけで一年以上持つことができる種類の木であったそうだ。

 元々は一本の苗木だったものが、何十、何百という年月を得てどんどんと増え森となったそうだ。その木は人間が食べられない程硬い、しかし獣たちにとっては食べやすい実を付けていた。その実を食べるために獣たちが続々とほかの山から来るのだとか。つまり、獣達にとっては絶好の餌場。村人達にとっては絶好の狩場であったのだ。

 カナリアもまた、四歳になり物心がついたころには、姉や母と一緒に山に入って獣を狩るのを手伝っていた。と言っても、幼い彼女はほとんど後ろから見ているだけ。時々、生まれたばかりの獣を見つけると、それを相手に狩りの練習をしていたぐらいだった。その時に、刃物や弓矢の使い方を教わった。あの頃は世の中のことなどあまり分かっておらず、無邪気で甘えん坊だったと、カナリアは懐かしそうに話していた。

 六歳になったある日、そのころになるともう中くらいの大きさの獣も誰かに協力してもらえれば狩ることもできるようになっていた。そんなカナリアは、姉と一緒に二人だけで山に狩りに出かけた。いつもは大人数で一緒に山の中に入るのだが、その日は初めて二人だけで狩りに出ることとなった。

 お昼ご飯や、ナイフ、弓矢、傷薬、それから水筒。それらをカバンの中に入れて、まるで遠足に行くかのように気楽に村を出た。

 崖の上から村に向かって手を振って、それに村の人たちが手を振ってくれて、いつもだったら一緒に行くはずの父や母がより優しい笑顔を見せてくれて、カナリアはちょっとした優越感と共に、一歩大人の階段を上っているかのような快感を感じた。それが、生きてる父や母、それからほとんどの村の人たちの顔を見た最期だった。

 日が暮れ始めて姉は大人の獣を二匹、自分はその子供であろう小さな獣を三匹仕留て下山を始めた。最初に狩りに出た頃は、獣を殺すのが可哀そうでためらっていたのだが、何度も同じような光景を見ている間に慣れ、今では表情一つ変えることなく獣を殺すことができていた。

 この結果を見て、父や母、村の人たちは喜んでくれるだろうか。自分としては、もう少しだけ大きな獣を取りたかったのだが、そうすると今度は自分の小さな体で持ち帰ってくることに支障が出てしまうため、子供の獣三匹で妥協したのだ。

 姉がこの獣の親を素早く殺した後、自分は巣穴に逃げた三匹の獣を一匹ずつ引っ張り出して殺していった。いずれも、首筋を切ってすぐ楽にしてあげた。恐らく獣たちが恐怖を感じていたのは親が殺されてからものの数分だけで、痛みなんて感じる時間はなかったであろう。最初の頃、それをするのに躊躇して、何度も首筋に刃物を入れて獣たちを苦しめてしまったのは、自分の汚点であると感じている。

 父に言われた。首筋を斬るのは二つの理由があると。

 一つ目に、自分自身の保身のため。子供ならともかく、大人にまでなってくると少し位傷ついても相手の事を殺そうとして来るのだとか。だから素早く殺してしまわないと思わぬ反撃を受けてしまう。鋭い爪や牙を持っている獣を相手にするのならなおさらだ。

 自分は当時、首筋を傷つける事しかできなかったが、父や母は出会いがしらに頭を切り落とすことや、遠くから頭を矢で射抜くことを呼吸をするかのように簡単にやってのけていた。こうすることによって自分たちの身体を守ることができるのはもちろんのこと、二つ目の理由もやってのけているのだ。

 二つ目の理由、それは相手が痛みや恐怖を感じる時間を減らすという事。自分たちがただ生きたいからという勝手な理由で獣たちの命を奪うのだから、痛みや恐怖と言った物を長引かせるのは獣たちにとって失礼にあたる。だから、感謝の意味を込めて早くに楽にさせてあげなさいと彼女はよく言われていた。それとこうも言っていた。この二つは、獣にだけ当てはまる物じゃないと。

 獣だって生き物、だが人間だって生き物である。生き物である以上、いつかは人を相手にしなければならない時がある。その時、これまで多くの獣を自分勝手な理由で殺してきておいて戸惑ってしまうなんてことあってはならない。

 戸惑ってしまえば、その分だけ自分自身を殺すことにつながってしまう。戸惑いは自分の心を曇らせ、鈍らせ、その結果相手を無残にも苦しめてしまうであろう。最悪同士討ちとなってしまうかもしれない。それだったらこれまで殺してきた獣たち同様に感謝の気持ちを持って殺さなければ自分も相手も苦しんでしまう。

 狙うならやはり首がいい。この世界には回復の魔法に長けた人間がいる。だが、そんな人間であったとしても首を切り落とされてしまえばそれまで。

 腕を切り落とされても足を切り落とされてもまだ戦う力は残っている。

 心臓を貫かれても目を潰されてもまだ戦う気力は残っている。

 だが、首を落としてしまえばそれまで。だから狙うのであれば首ただ一つ。

 そのような話を聞かされたカナリアではあった物の、どちらかというと実感がわかなかったのが実際だ。今まで自分は確かに獣たちを殺してきたが、その獣が人間に移り変わった時、そんな事想像にできなかった。

 というよりもそのような暴力的な人間を思い浮かべることもできなかった。家族や村人たちの狩りの様子を見ても、それらは生きていくための大事な行いであるという認識があったからかそのようには見えなかった。

 しかし、今考えてみると確かにそれは暴力と言えるものなのだろう。

 飛び道具など持っていない獣たち相手に弓矢や槍の投擲を行ったり、罠を仕掛けて待ち伏せしたりと、ずるがしこい手段を用いて獣たちを殺してきた。それは、暴力的な行為であるのではないだろうか。

 確かにそのような手段を用いることで人間は助かった。しかし獣たちから取ってみればあまりにも理不尽な死であると思うのだろうか。今まで一生懸命に生きてきて、その最期が不意打ちに近い形での死であるのだから。

 だが、それは人間の生きる知恵である。どれだけ策を練ったとしても人間死ぬときは死ぬし、獣も死ぬときは死ぬ。確かにあまりにも暴力的な行いだったのかもしれないが、だがそれをしていたおかげであの村の人達はそこまで生きることができたのだ。

 そう、あの時まで。あの時、人間の暴力という物を知ったあの一瞬の時に至るまで。


「お姉ちゃん、お母さんたち喜んでくれるかな?」

「えぇ、もちろん。きっと喜んでくれるわ」

「ヘヘっ」


 帰り道、辺りはすっかりと暗くなってしまい、遠くの夜空には塩をまき散らしたかのような星がずらっと並んでいてとても面白い物であった。

 カナリアには分からなかった物の、姉はその星の並びを見ることで村の大体の位置が分かるのだとか。姉だけではない、父や母、村中の人達がそのような能力を持っていたそうだ。だが、カナリアにはまだよくわからない。

 星が導いてくれるという感覚など感じない。やはり自分はまだ未熟者だ。そう感じていた。だが、姉もまた自分も小さい頃はよくわからなかったけど、段々と分かるようになってきたと話をしてくれるので、いつかは自分も分かるようになっていくのだろう。


「あら?」

「?」


 その時、姉が何かに気がついた。どうしたのだろうか。


「夜空が……明るい」

「え?」


 言われてみれば、少しだけ明るくなっている気がする。もう夜明けなのか。いや、さっき夜になったばかりであるのだからそんなことあるわけがない。しかし、遠くの方が、ちょっとだけ赤く輝いているのは確かだ。いや待て、この方向は確か自分たちが向かっていた方角だ。なら、この光はまさか。


「急ぐわよカナ!」

「う、うん!!」


 狩りによって疲れていた二人ではあったが、どんどんと輝きを増すその光に向かって走り出した。赤い光は、自分達が近づいていくほどにどんどんとその光を増す。それに、先程まで肌寒かったその気温も、徐々に徐々に増していき、その肌をチリチリと焼いた。

 少しだけ上り坂になり、足も痛かった。いつもだったらそこで姉におぶって貰おうとする自分だが、そんな余裕がないことは姉の必死な顔をみればすぐにわかることだった。

 どれだけの時間走ったのだろう。どれだけの距離があったのだろう。しかし、そんな物一切として気にならないほど、彼女たちの目には信じられない光景が広がっていた。

 村を一望することのできる高台。そこからは、茅葺屋根の数々と、少しばかりレンガでできた家が見える。

 はずだった。しかし、今はどうだろう。彼女達が見た物は、そんないつもの光景とは180度違う物だ。

 家はことごとくが燃え、レンガ造りの家は崩れ、そして小さくて見えないがよく見ると人も倒れている。血が地面にしみこんで広まっているのが、遠くであってもよく見えるほどにはっきりと、そして色濃く見えた。


「お、お姉ちゃん……」

「……」


 この時、姉は何を考えていたのだろうか。恐らく、二人でどう逃げるのかを考えているのだと思う。

 火の回り具合から言って、一つの家で火事が起こったという事はまず考えられない。レンガの家が壊されているのも不自然。それに加えて、ただの火事であったら人が血を流して倒れているというのもまた不自然な物。さらに言えば、その火を消そうとしている人間の姿もあまり見えない。

 見えるのは、たいまつを持って、さらに家に火を付けようとしている男共の姿と、さらにまた一人の人間を殺し、女性をどこかに連れて行こうとしている男の姿のみ。

 この時、姉は確信したであろう。村が山賊に襲われたという事に。

 このまま村に戻ったとしても、自分達もまた山賊に襲われて、良くてそのまま楽に死ぬことができる。だが、悪ければ自分たちは辱しめられ、そのうえで一生を奴隷として過ごすことになるかもしれない。

 だから、一刻も早く逃げなければならない。そう、姉は考えていたのだろうと思う。しかし、その考えを行動に移すことはできなかった。


「キャ!」

「お姉ちゃん!」


 後ろから現れたのは大男だった。姉の身体が影になってよくその顔は見えなかった物の、見るのも恐ろしい顔をしていたのは確かだった。


「ヘヘヘここにもいい女がいるじゃねぇか」

「や、やめて……」


 男は、姉の事を後ろから抱きしめると、その顔を舐め始める。まだ幼かったカナリアにとっても、その行動があまりに狂気じみたものであるという事は想像しやすかった。このままではまずい。何がどうまずいと言うのかカナリアはよくわからなかったが、しかし本能的に男に向かって突撃した。


「お姉ちゃんを離せ!!」

「邪魔するな!!」


 だが、そのような物無駄な行動であったのだ。幼い女の子の体当たり一つ等、大男にとっては虫一匹に噛まれたようなものと同じものであった。カナリアは簡単にその足に弾き飛ばされて、高台からその身を投げ出してしまう。


「カナ!!」


 それが、カナリアがその夜聴いた最後の言葉だった。

回想編、残り九話

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