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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第4章 赤い衝撃、燃ゆる国

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第三話

 軽い物、きつい物と順番で来ているから、多分次は軽い奴なんだろうなと、考えていたリュカが悪かったのかもしれない。だが、まさか三番目がこんなきついものだなんて思わないじゃないか。

 それは、彼女にとっては前世ぶりに見る懐かしい物。長細いいい匂いのする木片を久々に持ったリュカは、頭を抱える。

 まさか、前世で自分を苦しめた最恐の敵にもう一度挑むことになるなんて思いもよらなかった。

 異世界に来て、ソイツとは別れることができたはずだった。けどこんなところで再会するなんて誰が想像できたであろう。

 だが、泣き言を言ってもしょうがない。いまは、この敵に挑まなくては先に進めない。

 リュカは手に持った細い木片を握りしめて、次の言葉を今か今かと待つ。

 反射神経を競う競技でもない。だが、その声が聞こえて来れば直ぐに動かなければ。ソイツと戦う、とても貴重な時間を守らなければ。

 そして、ついにその言葉が発せられる。


「では、始め!」


 まさかまさかの筆記試験が始まった。

 この世界に産まれ直してからという物、鉛筆などほとんど握ったことのなかったリュカは問題文を見ながら呟く。


「が、学力は必要かもしれませんけどこんな唐突になんて……」

「こら、私語はつつしんで」


 はい、と答えてリュカは渋々解答用紙を眺めてみた。

 さらっと読んでみたが、問題はどれも超がつくほどの難問でいっぱいだ。リュウガのお陰である程度は答えられるとは思うのだが、しかし彼女は先ほど激しい運動をした後。体力も浪費して、疲れ切っている状態で頭があまり回りはしない。

 だが、それでもやるしかない。内容は、戦略についての問い。山に陣取っている敵とどう戦うか、劣勢に陥った際どう判断するのか等が十数問程度。他、魔力計算という種類の問題。基礎中の基礎、武器や防具の使い方の問題などなど多岐に及んでいた。

 しかし、この五年間でリュウガに教え込まれたとおりに答えていく。そして、結果は直ぐに帰って来た。

 試験終了の時間となり、さらっと流しで見たリィナは一言言う。


「う~ん、微妙かな……」


 と、つまり得点があまりよく無かったという事なのだろう。

 だが、自分は先程言った通りリュウガに教えられたことを全てそのままに書き記したはず。あの父にして間違いはないと思いたいが、一体どこが間違っていたと言うのだろうか。


「魔力計算とかは満点に近いのに、戦略系の問題でちょっとね?」

「え、どうしてですか?」


 自分はリュウガ、織田信長に教えられたとおりに書いたはずなのに、いやそう言えばその時彼は何か言っていたような気がする。細かいことだったからあまり覚えていないが、もしかしてそれについて言っているのだろうか。


「例えば、この敵が山に陣を張っていた時」

「はい」

「夜中に奇襲を仕掛けるってあるわね」

「はい、夜だったら暗いから、こっそりと敵の陣まで行けば見つからずに奇襲をかけることも可能だと……」

「それじゃ、もしも相手が奇襲を読んでいたら? もしくは、間者によってその情報が洩れていたら?」

「え? その場合は……」

「その場合は?」


 リュカは何も答えられなかった。答えを待つまでもなく、リィナは言葉を放つ。


「しかも、山のどこに陣を張ってるか分からないし、山って同じような景色が続くから迷いやすいじゃない。暗闇だったらもっとよ。だから、もしも奇襲を仕掛けるのだったら、敵の前面から攻撃を仕掛けたり騒ぎ立てる囮と、後ろから攻撃を仕掛ける本隊の二段構えを用意するとかなんてどうかしら?」


 成程、そうすれば山の中にいる敵の本陣から兵が飛び出して戦力を分散させることができるかもしれないし、その兵が飛び出す方向から、敵陣のある場所を考察することも可能か。


「それで出てこなかった場合は、別の方法を考える。その時々によるから、後は戦場の様子から考えないといけないけど」

「……要は奇襲を仕掛けるにも、単純な物じゃなくて、第二第三の戦略を用意するということですね」

「そう言うことね」


 そういえば、織田信長は桶狭間の戦いに置いて雨の中の奇襲で今川軍の本陣を襲い今川義元を討ち取ったらしい。と言うことを思い出した。

 当時は、酒を飲んだりして油断していたとも言われるが雨音、そして視界不良によってこっそりと近づいているのに今川側が気がつかなかったということも勝因だったとか。ーーー諸説あり。


「雨音に紛れ……運が必要、というか他力本願か?」


 雨音に紛れての奇襲というのも戦法として書いても良かったかもしれない。しかし、天候なんて操作することできないし、これは戦略の一つとしては不適切か。

 しかし、リィナはそんなこと思ってもない様だ。


「だったら、魔法で何とかすればいいじゃない」

「え、魔法でそんなこともできるんですか?」

「えぇ、応用すれば……知らない?」

「すみません、私生まれた時から使える魔力量が少ないらしくって……」

「なるほどね……それはしょうがないか」


 やはり、魔力量が少ないというのは完全に不安要素にしかない。龍才開花という自分だけの魔法を使えばなんとかなる。しかし、あれの持続時間は意外に短く、戦闘の初めから終わりまで持つという自信はない。

 だから、それの使用前までは自らの肉体か、もしくは修行によって身についた剣技によって戦うしかない。

 魔力計算に関して満点に近かったのは、そう言った自分の中の少ない魔力量をどうやりくりするのかを常日頃考えていたお陰なのだろうと思う。


「よし、それじゃ次の試験ね」

「え? まだやるんですか?」

「大丈夫。次で最後だから」


 と、リィナはウィンクしながら言った。

 筆記試験の行われていた部屋から出た二人は、最後の試験の場所に移動するまでの間に、ケセラ・セラと見知らぬ団員の女性。そしてケセラ・セラの付き添いで試験を見守っていたエリスとクラクと合流した。

 どうやら、ケセラ・セラは、自分とはまた別の試験を受けたらしい。当然だろう。彼女はこの十年間勉強とは無縁の人生を送ってきた。文字なんて一つも知らないのだ。

 だから、彼女に対しては文字などを一切使用しないで、積み木などを利用した試験が行われたのだと、後にエリスから聞いた。ならば、彼女たちと一緒に出て来た見知らぬ女性は、試験官役だったというわけか。

 自分にもそんな簡単な試験をしてもらいたかったものと思うが、もしかするとケセラ・セラの試験が簡単だった皺寄せがあの難問だった可能性もある為何も言わないことにした。


「ついたわ、ここよ」


 そんなこんなで、彼女達が連れてこられたのは、あの王様と戦う寸前にまでなった広々とした決闘場。

 の、そのすぐ下にある少しだけこじんまりとした場所。そこでは団員らしき人達十数人が剣を握り、対峙していた。時刻はすでに真夜中に向かいそうになっているというのに、どれだけ戦うのが好きな人たちなのだろうか。

 ここは道場のような場所なのだろうか。自分の見たことのない顔もいくつかある。と言っても、自分が知っている団員なんて高が知れているのだが。

 リィナがその内の一組に言う。


「カナ! こっちに来て!」

「あいよ」


 大人の雰囲気を醸し出している女性は、目の前にいた団員に一度手を振るとタオルで汗を拭いながら近づいて来た。

 そして、ケセラ・セラの試験管だったであろう女性もその隣に並んでからリィナが言った。


「二人とも、紹介するわね。こちらがセリンさん。そしてこっちは、カナよ」

「私がセリン。よろしくね」

「よろしく。いちおう言っとくけどカナってのは愛称、本当はカナリア」

「は、はいよろしくお願いします」


 茶髪で短髪、ふくよかな胸をしている女性がセリンというらしい。

 そしてもう一人、二十台後半と言ったところの金髪の女性がカナリア。昔のスケバンのような雰囲気を醸し出しているような気がするのは、多分気のせい。


「それじゃ、ケセラ・セラはセリンと、リュカはカナと試合をやってもらってもいいかしら?」

「え、試合?」

「そう、今回の入団試験の最後は、団員が直々に相手をしてひよっこの技量を見るって言うもんさ」

「へ、へぇ~」


 すでにセイナによって剣の素振りを見てもらってはいるものの、敵がいるときといない時ではかなり変わる物だ。だから最後に実戦で自分たちの評価を決めるのだろう。


「一応、セリンとカナは私たちと一緒に来た団員の中では強いほうの人間だから」

「まぁね、でもさすがに副団長や団長には負けちゃうわ」

「いつかは倒してやるから」

「いつでも挑戦は受けるわよ」


 リィナは強気に言った。

 二人がどれだけ強いのかは分からないが、しかしリィナから信頼を得ていることは確か。これは、強敵なのかもしれない。


「それじゃ、ちょうど三か所開いてるから、二人づつに分かれてね」

「え? 三か所って……」


 自分とカナリア、ケセラ・セラとセリンの二人が戦うのだから二か所で十分なのではと思ったのだが、リィナが言う。


「クラク、貴方は私と一緒に来なさい」

「え、な、なんでですか?」

「う~ん、なんとなくかな」

「な、何となく、ですか……」


 クラクは彼女達が外の世界にでる少し前、大戦が終わった後に兵士となった。

 しかし、実はその少し前。大戦の以前から密かに団長、副団長の三人と親交があったのは驚きの事実だ。

 だが、親交があってもその実力の程を見る機会はあまりなく、この際だから少し彼女を試してみたいと思ったらしい。

 クラクからしてみればとんだとばっちりの様な気もするが、しかし副団長と手合わせする機会なんて滅多にない筈、クラクは、負けてもなおそれが自分の経験になると思ってリィナの提案に了承し、共に戦場へと向かった。

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