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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第3章 黒い憐れみ、姑息な罠

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第十五話 誤解、改革、変化、そして黒幕

 あれは、歴女と呼ばれる種族の友達と話していたときのことだ。


『でね、実は生類憐みの令があそこまでの悪法になったのは、あることが考えられるの』

『あることって?』

『そもそも、生類憐みの令は、徳川綱吉が捨て子や病人、それから老人の保護の方を重要視していたの』

『え? それじゃ、あの動物を殺すなって方は?』

『そのあたりなんだけれど、実は法律が厳しくなったのって、綱吉だけじゃなくて、家臣のせいもあるっていう説があるの』

『え? 家臣?』

『うん、綱吉の命令を聞いた家臣が行き過ぎた法律にしただけ。確かに、犬以外にも金魚とかに広げたのは綱吉なのかもしれないけど……でも、そう言うのを殺して極刑にしたっていうのは、綱吉が言ったことじゃなく、奉行所とかが勝手にやったことじゃないかって言われているんだって』

『へぇ……』

『もともと犬関連の法令が増えたのも、野犬や飼い犬が本当に多くて、それに噛まれたりして住民が怪我することが多かったの。だから、犬を逆に町民から隔離するために犬小屋も作って保護していたの。町民を守るためにね』

『へぇ……』

『それと、姥捨て山って知ってる?』

『確か、年老いた母親を山に捨てに行った息子の話だっけ?』

『うん、あれは本当にあの時代によくあった話で、それを止めようと老人、病人の保護を法律にしたのは、綱吉が初めてなんだって』

『……でも、なんでそんないい法律なのに、皆生類憐みの令を悪法だなんて言ってるの?』

『よく言われるのは、綱吉が死んだ後に、綱吉の事をよく思わなかった人が間違った情報を流したとか、当時あまりにも奇天烈な法律に怒った市民が笑い話みたいに綱吉の悪法の被害を言いふらしたとかだって』

『へぇ……』

『私は思うんだ。今、日本人が命を大事にしたいって思っているのは……綱吉のおかげなんじゃないかって』

『……そうかもね』


 戦国時代。日本中でたくさんの人が一度の戦で死んでいた。山賊だって多く、生きるためには人を殺すしかないという人が沢山いた。

 今から考えるととんでもない時代ではあるがしかし、たぶん、当時の人達はそれ以外の生き方を知らなかったのだろう。並びに、命の大切さにも。

 寺に仕えている僧であったとしても、戦になれば刀や槍を持って人を切り殺していたらしい。本当の意味で命の大切さについて日本中の人々が考え出したのは、生類憐みの令を綱吉が制定してからなのだと、彼女は言っていた。―――諸説あり。

 懐かしき思い出、それをようやく彼女は思い出した。

 昨晩、自分の話を聞いたリュウガは、確かに何か思うところがあったかの表情をしていた。自分の時代からすると想像もできないと言っていた意味。まさかそれがこんな簡単なことだったなんて。悪法だからじゃない、命を大切にするという法律が出来たからだなんて。

 いやあまりにも簡単なことだからこそ思い当たらなかったのだろう。そう、彼女は思った。

 そして、この事件が生類憐みの令をそのままに、身もふたもない言い方をしてしまえばパクったとするのなら、王様の威厳、信用を落とすことを狙いにしているなら、そして国民のだれもかれもが当時の王様を信頼していたとすれば、犯人は絞られる。そして、その中でも可能性があるとすればーーー。


「黒幕は……あの人」


 そこは、先ほども訪れた法務大臣の仕事部屋だ。並びに、この地下にエリスがいた処刑場がある。あの時、自分たちはケセラ・セラによって石を砂に変える魔法を使用して大量の砂が上から処刑場へと落ちていった。その時下に一緒にいた法務大臣や兵士数人も一緒に砂に巻き込まれていたはず。あんなに大量の砂が上から落ちてきて、易々と逃げることなど不可能であろう。と、言うことは、彼はきっとまだそこにいるはずだ。


「リュカさん!」

「ここは、法務大臣の……」


 その時、クラクと団長代理が一階へとたどり着いた。リュカは、団長代理に言う。


「法務大臣は、王様の判子を所持していて、法律の制定や執行を自由にできる立場にありました。あの人が、例の法律を勝手に変えていた可能性が高いんです」

「なっ!」


 団長代理は、リュカのその言葉に言葉を失った。まさか、そんなことがあっていいのだろうか。だが、もし彼女の言う通りだとすれば、あんな法律を聡明な王が出したという事実に明確な答えを得ることができる。しかし、謎となっている部分があるのも事実だ。


「だが! もしそれが本当だとして、一つ大きな疑問が……」

「法務大臣が、何故そんなことをする必要があったのか、ですね」

「あ、あぁ……」


 リュカは、閉じられているドアを見つめて言う。


「おそらく、国力低下のため……肉料理が食べられないためにタンパク質を摂取することが難しくなって、国民は筋力が低下しているはず。それに、好物としている物を奪われるという心理的なダメージも相成って、メンタル的にも大きな打撃になっているはずです」

「リュカさん?」


 クラク、そして団長代理はリュカが何を言っているのかいまいち理解ができなかったり、造語、いや他国の言葉らしきものが混じっていたからか。

 なんにせよ、肉料理を禁じられたことによって痩せ細った人間がいることは確か。おそらく、そのことについて彼女は言っているのだろう。


「そして、一番の目的は、王の信頼の低下……」

「え?」

「クラク、貴方を含めて兵士たちは皆が皆この法律に賛成しているわけじゃないって言ってたよね」

「は、はい……」

「その時点で、王様への不信感が募っているはず。だから、統率を取ることができずに、いずれ瓦解してしまう。たぶん、エリスの処刑もその範囲内だったのかもしれない」

「え、ど、どうしてエリスちゃんが……」

「……そうか」

「え?」


 彼女の話を聞いているうちに、自分の中でも考えがまとまった団長代理がリュカから発言権を奪って言った。


「彼女の両親は、国王の幼馴染として、そして騎士としてこの国に尽力し、国王のために死んだも同然……そんな恩人の娘を無慈悲にも殺したとなれば……」

「不信感につながる」

「そうだ。だが、これは状況証拠を繋げた証拠に過ぎない。だから、法務大臣に直接聞く、というわけだな」

「はい」


 団長代理は、その言葉を聞くと、顎に手を当てて少し考えこむ。確かに彼女の推理には一理ある。だが、本当にそうなのか。

 もしもそうだとするのならば、これは法務大臣一人が企てた事なのか。もしかしたら、裏にもっと大きな存在が隠れている可能性もあるのではないか。ならば、法務大臣を生け捕りにして、そんな策を弄した人間が誰だったのかを、拷問してでも聞き出さなければならない。

 だが、相手は魔法使いの中でも達人級の腕を持つ法務大臣。果たして、自分一人で戦って何とかなるだろうか。部下たちを呼んできてもいいのだが、しかし彼らは暴動を起こしている国民の相手で手一杯。民たちに事情を説明すれば呼んでこれなくもないが、そんな時間があるとは思えない。

 こうして扉の前であれこれと考えている間にも、法務大臣はすでに逃げ出している可能性だってある。速やかに部屋の中に突入しなければ。


「君、リュカと言ったな」

「はい」

「君は、対人戦の経験は?」

「二、三度程……」

「その中に、魔法を使う者は?」

「一人います。けど」

「?」


 いるにはいる。しかし、相手は自分の横にいるクラク。しかも魔法と言っても出来損ないの技のみ。リュカの目線を受けたものの、クラクはピンと来ていないようだった。

 とはいえ、団長代理は何かに感づいたようで。一度溜息をついた後言う。


「よし、分かった。今回の所は俺に任せてもらおう」

「え?」

「法務大臣は、魔法の扱いがとても上手い。実戦経験のほとんどない君よりも、俺の方がまだマシだろう」

「でも……」

「なに、これでも団長からは代理を任されているんだ。それに……」

「それに?」


 団長代理は、腰から剣を抜きだすと、とても恐ろしい顔を浮かべながら言った。


「本当に法務大臣が、この混乱の元凶だとするならば一兵士として許してはおけない」

「団長代理さん……」

「ウェスカーだ。俺の名前はウェスカーという」

「ウェスカーさん……」


 彼もまた、団長代理を任されるほどの才覚が、力があるはず。ならば、彼に任せておけば大丈夫なのだろうか。

 実際、法務大臣の力は未知数。ならば、少しは彼の事を知っているであろうウェスカーに任せてもいいのかもしれない。


「分かりました。でも、後ろから援護できるときはさせてください」

「わ、私も!」


 だが、例えそうだったとしても自分たちも何か役に立たなければならない。いや、相手が強敵であるのならばなおさら自分たちも共に戦分ければならないのではないか。リュカとクラクは彼と共に戦うことを提言した。

 ウェスカーは、彼女たちのその強いまなざしを受けて言う。


「あぁ」


 深みのある同意だ。リュカは、ウェスカーと場所が入れ替わるかのようにドアの前に立ち、一つ唾を飲み込む音を出してから、ドアノブを回す。


「モルノア大臣」


 一応、中にいるであろう大臣の名前を述べてからうち開きになっているドアを開くと、その先には大穴、そしてその後ろには本棚と大量の本が置いてあった。

 この大穴の下にあの男がいる、のだろう。しかしなんなのだこの大穴は。恐らく魔法で作ったと思われるのだが、こんなにも部屋の床一面を削るには相当の魔力量が必要なはず。

 状況的に考えて、このリュカとい少女。もしくは、四つ足で走っていた少女のどちらかがやったものだとは思うが、どちらにしても末恐ろし。将来は、自分たち等歯が立たないほどの魔法使いに成長するはずだろう。ウェスカーは、恐怖にも似た期待を、場違いながらにしてしまっていた。

 ウェスカーは、扉の近くにあるスイッチを入れる。その瞬間、明かりが付き、暗くてよく見えなかった部屋が完全に見えるようになった。だが、穴の中は深すぎてよく見えない。


「この下、だな」

「はい」

「よし……ッ!」


 ウェスカーが、意を決して飛び込もうとしたその時、暖かい突風が三人を襲った。


「これって!?」

「二人とも、下がれ!」

「は、はい!」


 ウェスカーの言葉に従って、ドアのすぐ近くまで二人は下がる。間違いない。この嫌な感じ、魔力を放出している時の物だ。ならば、下から上がってこようとしているのは。

 その時、影が見えた。部屋は、明るいはずなのにその影は魔力によって暗く、目を凝らしてよく見なければ、その輪郭を掴むことすらもできなかった。初めてだ。リュウガ以外にこんなにも鳥肌が立ったのは、恐怖を感じたのは。寒気がしたのは。

 闇のように深い場所から闇を伴って現れたどす黒い陰の像。

 輪郭すら確認できず、ただそこにあるだけで途方もないほどの吐き気を催す。

 間違いない。この男こそ、悪だ。

 刀を握りしめたリュカは、いつでもソレを抜けるように待ち構える。

 だが、その刀は抜けなかった。

 あまりにも、闇が濃すぎたから。

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