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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第3章 黒い憐れみ、姑息な罠

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第十四話 王のあるべき姿

 まさか、国民のうっぷんがここまで溜まっているとは、団長代理はその場の指揮を近くにいた副団長代理に任せてすぐに王の居住している部屋へと急いだ。この城は、四階からまっすぐ伸びる二つの塔がある。一方は王妃様の仕事場に、もう一方が王様の居住スペースとなっている。

 兵士となって以来、この城の中を覚えるのに途方もない時間が掛かった物だと思う。だが、そのおかげで迷路のような城の中を迷わずにその場所にたどり着くことができた。

 螺旋階段を頂上まで昇ると現れたのは一つの木製のドア。この中に王様はいるはずだ。その部屋の中に入るのは自分は初めて。

 というより、確かあの大戦以降この部屋の中に入った者は極わずか。法務大臣、そして本来の騎士団団長とその側近くらいのはずだ。

 団長代理は、ドアをコンコンと叩く。


『誰だ?』


 間違いない、王様の声だ。団長代理は、中にいる王に向けて姿勢を正すと言った。


「ハッ! 団長代理のウェスカーです! 緊急事態に付きご報告に参りました!!」

『緊急事態? ……分かった、入ってこい』

「ハッ!」


 ウェスカーはその言葉を聞くと、ドアを開けて、王様の寝室へと入る。


「失礼しま……ッ!!」


 ウェスカーは、その様子を見て息を飲んだ。


 同時刻、リュカたちはようやく螺旋階段を降り切ったところだった。


「はぁ、この螺旋階段、もう昇りたくもないし、降りたくもない」

「なんか、目が回りましたね」


 三半規管がおかしくなってしまったのかもしれない。少し吐き気もしてきた。グルグルと回るのはもう御免だ。

 さて、下に降りたといってもここは一階ではない、三階である。

 もう一つの、王様がいるであろう塔に行くためには、わざわざ一階に降りる必要なんてない。そんな悠長な時間があれば、早急に王にあることを聞かなければならないのだ。

 この城、何故か一つ一つの階の天井が無意味に高くて、その分階段がとてつもなく長い。塔を除くとたった四階分しかないと聞いたとには、外見に似合わず随分と小さい城なのだなと思った。

 が、天井が高いとなると話は別。というか、どう考えてもその間に一階、いや二階分は入る隙間はあっただろうに。この城、設計の段階で失敗してたのではないだろうかと思ってしまうほど。

 それはともかく。もしも、彼女の考えが正しいのであれば、この国の全てがひっくり返る可能性がある。国民でもない旅人のリュカがそんなことしなくてもいいはずなのだが、しかしこの国で出会った友の為にも、真実を見極める必要があった。

 もう一つの塔へと向かう途中、リュカ一行は大広間らしき場所に出た。しかし、いささか殺風景にも見える。こういった場所には照明や赤絨毯等豪華絢爛を地で行くようなものが置かれているイメージなのだが、そう言ったものは何もない。


「ここは……」

「ここは、決闘場。その名の通り城の中に侵入してきた者たちとの最後の戦いの場所だ」

「!」


 その時、反対側にあるドアがゆっくりと開き、奥から男性の野太く響くような声が聞こえた。

 そして、ドアが半分くらい開いたところでその全貌がはっきりと見えた。甲冑に身を包んだ男。隣にいる女性と比較してもかなり大きいと思われる。

 その手には槍を持ち、どこからどう見ても友好的とは思えない。さらにもう一人男性が入ってくる。その姿を見た瞬間、クラクはまずいという表情をする。


「げッ! だ、団長代理!?」

「なっ、クラク! お前どうしてそんなところに!?」

「クラク、知ってるの?」

「えっと……この城に常駐している騎士団……の留守を承っている団長代理の方です……」


 そこでリュカはなるほど、と思った。彼女にとって彼は上司。現在の状況は、クラクにとっては非常にまずい状態に陥っているといってもよい。

 クラクは、本来ならリュカ達侵入者を捕縛しなければならない立場だ。だが、そのクラクが自分達と一緒にいるということは、クラクまでも反逆者として扱われてしまっているということなのだ。


「クラク! 貴様、兵士でありながら国王に反逆するとは!」

「い、いや……えっと……」

「ウェスカー、その話は後にしてくれ」

「国王……」


 ウェスカーと呼ばれた男は、鎧を着た男性にたしなめられた。リュカは、鎧の男に聞く。


「貴方は……?」

「ロプロス……ロプロス・キーラ・パラスケス」

「!」


 王の名前を言う男。だが、本物なのだろうか。なんというか、何かがおかしい。覇気、というのだろうか。気力と言ったものが感じられない。

 それに王様と言うと求心力と呼ばれる様な物が感じられるはずなのに、そう言った物もリュウガ程には感じられない。偽物、まさか影武者なのかもしれない。彼ほどの地位にいるのであればあり得る話だ。リュカは聞く。


「じゃ、あなたが王様……?」

「いかにも」


 納得ができない。どうにかして、彼が本物であるという確証を得なければならない。だがどうすればいいのか、その時隣にいるエリスの姿が見えた。


「じゃあ王様……この子のこと知ってる?」

「ん? ッ! エリス……か?」

「あっ、はい! お久しぶりです!」

「あぁ……大きくなったな……」

「どうやら、本物のようですね……」


 ロプロス王が、エリスの名前を感慨深く言った。リュカは、まだ少しの疑惑がありながらも彼が本物であろうことに納得した。大きくなったという言葉は、エリスが小さい頃に王様とあったことがあるということを知っている一部の人間のみが使用できる言葉。

 もしも、彼が影武者であったとしても、最後に会って何年もたっている少女の事までも影武者に伝えているとは思えない。

 それに、エリスもまた目の前の王に違和感を持っていない様子。ならば、やはり本物か。だとすると残る可能性は何だ。覇気が見られない理由は何だというのだろう。


「この城に侵入した理由は聞かない。だが一つ、手合わせ願おう」

「……」


 そして王様は重い一歩を刻み、そして重厚な音が響く。何だろう動きにくそうだ。まるで、甲冑を着慣れていないような。いや、それ以上に動きが一つ一つ鈍い。足を持ち上げるのも辛そうに見える。それに、なにか急いでいるような気もする。


「あっ……」


 リュカはある考えが浮かんだ。もしかすると、そうなのかもしれない。いやそうに違いない。そう考えると、王様が他人に国務を任せるような真似をした理由に説明が付く。

 リュカは、一度目をつぶり、そして決心したように目を見開く。


「分かりました。あなたがそこまで言うなら、相手になります」

「リュカさん大丈夫なんですか!?」

「大丈夫、心配しないで」


 エリスにそう言うと、腰に差している刀を抜き、リュカもまた歩き出す。二人はほぼ同じ速度で等間隔で近づいていく。リュカの鼓動はいつもより高鳴っていた。当然だ。相手は一国の王。前世の自分じゃ決して出会うこともできないやんごとなきお方という物なのだから。

 できれば戦わないというのが一番である。しかし、そんなことばかり言っていてはこの先生きていくことなんてできないというのは分かっていた。

 そしてあと十歩足らずと言ったところで示し合わせたかのように二人は止まった。


「そういえば、君の名前を聞いてなかった。名を何という」

「リュカ、いずれ天下を統一する者よ」

「天下統一か懐かしい言葉だ」

「……」

「ならば、こちらも本気を出さねばなるまい!」

「!」


 その瞬間、王の身体から何か鳥肌が立つような物を感じた。気を張っていなければ、後ろに下がってしまいそうだ。これが、王様の本当の力だというのだろうか。

 まるで、死が迫る中最後に羽ばたこうとする蝶の足掻きの様な力が、決闘場を支配する。


「いざっ!!」

「……」

「ハァァァァ!!!!」


 王様は、槍を構えるとリュカの心臓を突き刺すべく刃を向け、走り出す。それに対して、リュカの取った行動は―――。





「……え?」

「リュカさん?」

「そうだ、それでよい」


 何もしない。ただ、何もしないでその場に立つだけであった。困惑する一同の中、リュウガだけが満足そうに微動だにしない彼女の姿をみていた。

 そして、その行動に異変を感じたのか、王の槍もまた胸を突き刺す寸前で止まる。


「何故、動かない……」

「私の鎧は、竜の皮を材料に作られています。今のあなたの槍じゃ、貫くことなんてできません……」

「……」


 その言葉を聞いた王様は、槍を降ろし、脱力したように言う。


「ハハハ、やはり気づかれておったか……」


 その言葉と同時に、その身体は崩れ、膝をつく格好になった。リュカは、刀を鞘に戻すと、即座に王様に近づいて肩に手を置くと言う。


「だって、甲冑が重そうだったもの。着慣れていないってこともあるかもしれないけれど、今の力で甲冑を着て歩くなんてのも無理なんじゃないの?」

「まさしくその通り、いい観察眼をしている」

「ケセラ・セラ! クラク! 甲冑脱がせるの手伝って!」

「え? あっはい!!」

「うん!」

「そっちの人達も!」

「あっ、あぁ……」

「……」


 その言葉で、クラクとケセラ・セラ、それから王様の側にいた団長代理と、侍女であろうと思う女性もまたリュカの方へと走り寄る。そして数分後、重い甲冑を脱がし終え、中から現れた王様は、その姿で甲冑を着ていたのもおかしいと言わんばかりに痩せ細っていた。


「王様、その姿は……」

「病気なんですか?」

「あぁ、不治の病というものだ……」


 腕は、血管が青くはっきりと見えるほどに浮き上がり、骨をじかに触っているかのように細々くなってしまっている。よく見ると顔もやつれているだろうか。だが、その顔つきは優しそうに見えるのは確かだった。


「多分、王様の病気が進行し始めたのは二年前じゃないんですか?」

「えぇ、そうよ……」

「そんな……」


 クラクは、その現状に驚愕でそれしか声も出なかった。団長代理のウェスカーは、無理もないと考える。自分ですら、王の姿を見た瞬間言葉を失ってしまったのだから。

 だが王は、国民の暴動について聞くと、すぐさま鎧を着こむとここまで降りてきた。使命感という物だろうか。いや、もしかすると王様はここで死ぬつもりだったのかもしれない。

 それが、自分の役目だと信じて。


「王様、時間がありません。四つほど聞きたいことがあります」

「何かね?」

「まず一つ目、これはあなたが公務で使用している印鑑でいいですね」

「むぅ……」


 ロプロス王は、リュカから手渡された印鑑をまじまじと見つめると、リュカにそれを返して言う。


「確かに、わしの物で間違いない」

「分かりました。次に二つ目、この印鑑は今誰が持ってるんですか?」

「これは、私が二年前に紛失し今は新しく作った印鑑を使用している」

「二年前?」

「紛失って……」


 クラク、エリスの二人は何かに感づいたようだ。

 それは変だ。だって、現に印鑑は目の前にあるではないか。法務大臣が、王様の印鑑を持っていた。なんで。

 失くしていたはずの印鑑は、法務大臣が持っていた。意図的に隠していた。何の目的で。そんなことをして、法務大臣に何の得がある。


「三つ目、法務大臣はもしかして、弟さんの国から来た人ですか?」

「む……確かに」

「そうですか」


 ここまで聞いたら、もうリュカの中で答えが決まっていた。そう、この一連の騒動、その黒幕は十中八九その男。もしもその男が全部裏で糸を引いていたとなると、不可解な印鑑の存在にも説明が付く。

 ダメ押しにと、リュカは最後の質問をする。


「では、これが最後です。あなたが十年前に制定した捨て子の禁止と保護の法律。あなたは、あの法律をそれ以来変えていませんね」

「あぁ、そうだが……」

「なっ!? それではあの法律は?!」

「あの法律? なんのことですか?」


 国王の発言に驚いた騎士団長代理の言葉に、王妃が食いついた。この反応からして、やはり王妃すらも知らなかったようだ。これで全てがつながった。リュカは、立ち上がるとケセラ・セラに言う。


「ケセラ・セラ、王様をお願い。私、ちょっと行ってくる!」

「え?」

「え、あの、行くってどこに!?」

「決まってる!」


 この一連の騒動の発着点、その証拠もすべてそろっている。あとは本人から発言を引き出すだけだ。そう、現在地下で砂に埋もれて気絶しているであろうあの男。


「法務大臣の所!」

「なっ、待て! おい、クラク、我々も行くぞ!」

「え? は、はい!!」


 そして、リュカに続いて団長代理、そしてクラクもまた彼女の後を追う。外は、すでに静かとなっていた。

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