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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第3章 黒い憐れみ、姑息な罠

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第十二話 真意を知りたいと願う者

 泣いている二人の少女。しかし、その涙は悲しみではない。喜びの、愛情のなせる涙だった。


「一件落着……か」


 そんな様子を見ていたリュカは、なんだか前世の自分と親友を思い出しながらそう言った。が、なんだか府に落ちない。いや、理由は分かる。もう少しで二人の友情を完全に絶つところだったこの法律。国民を苦しめ、そして自由を奪った法律。二人の姿を見ていたリュカも一つの決意を固めた。少ししてから泣いている二人に声をかける。


「さぁ、いつまでもここにいたら兵士に見つかる。急いでここを出よう」

「はい……」


 ドアは砂によって封じられているため、しかたなく、自分たちが侵入してきた穴から出ることにした。


「クラク、あそこまで飛ぶことできる?」

「え、いえ……私、魔力を扱うのが上手ではないので」

「あぁ、そうだった……」


 そういえば昨日、そんな話をしていた。確かにここから見れば少し高い位置に穴はあるのだが、しかし、魔力を上手に使うことができれば、そこに向かうなんてことはそう難しくない。

 上手に使うことができれば、なのでクラクはその点、ダメなのであるが。


「しょうがない、ケセラ・セラ、先に上に登って」

「うん!」


 その言葉と同時に、ケセラ・セラは足に魔力を溜めこむ、そして大きく地面を蹴ると、即座に先ほど入ってきた部屋へとたどり着いた。


「す、すごい……」

「クラク、ちょっと怖いかもしれないけれど、暴れないでね」


 と、言うとクラクの両脇を後ろからガッシリと掴む。そして、腕と足に魔力を送り込んだ。


「え、な、なにを?」

「いくよ、せーのッ!」

「ふぇ!?」


 と、掛け声を入れる必要はなかったが何となく言ってみたリュカは、クラクを思いっきりの力で上へと投げ飛ばした。


「キャァァァ!!!」

「心配しないで、ケセラ・セラがちゃんと捕まえてくれるから! …………たぶん」


 なにやら不安になるようなことを小声で言ったが、その言葉通り上にたどり着いたころにケセラ・セラが横からクラクの腕をつかむ。体重がほぼ同じなのでケセラ・セラは浮かび上がりそうになるが、必死にこらえてクラクを地面にゆっくりと降ろす。


「ケセラ・セラ! 大丈夫!?」

「うん! 大丈夫!」


 ケセラ・セラのその言葉を聞いて、リュカは次の行動へと移る。


「え? ま、まさか私も?」

「ううん、エリスは小さいから、もう少し穏便に済ませられるよ」


 と言ってリュカはエリスをお姫様抱っこの形に抱きかかえる。

 本来のエリスであればケセラ・セラがやったように跳び上がることは可能なのだが、死の恐怖から逃れられ、脱力した今の身体であり、尚且つあの魔力封じの枷があるからそんなこと出来なかった。なので、ここはリュカに全てを任せることにした。


「んじゃ、脱出するよ。しっかり掴まってて」

「はい!」


 リュカは脚に魔力を込めて、大きくジャンプした。風がいくらか当たって、エリスは思わず目をつぶる。

 そして、次に目を開けたときにはもう地上であった。廊下の窓から入ってくる日差しが大きく開けたドアから覗くことができる。

 二度と見ることはないであろうと考えていたそれを見ることができたエリスは、また一つ、涙をこぼしたのだった。


「まぶしい……」

「少し暗い所を見ていた方がいいよ、暗いところにいた人が急激に強い光を目にすると失明するかもしれないんだって」

「は、はい」


 さすがに半日とはいえ、太陽の光の届かない場所にいた彼女は、開いたドアからくる光にも過敏に反応してしまっていた。因みに、リュカの言葉の根拠は出典不明のため安易に信用しない方がよい。

 まぁ、出典不明のものなんてこの物語にしょっちゅう出てくるのだが。


「お姉ちゃん、どうする?」

「……」


 獣の言葉ではない、この世界の言葉でリュカにきくケセラ・セラ。他に人がいる時には獣の言葉は使わないように教えていたので、うまくできた事を頭を撫でることによって褒めたリュカ。

 ケセラ・セラのニンマリという言葉が似合う笑顔を見ながら考える。どうするか、そんなこと決まっている。

 本来であれば、裏切者となってしまったクラクとエリスを連れて、この国を脱出すればいいだろう。だが、流れはこっちに来ている。国民は皆こちら側に付き、兵士の力もそれほどではない。と、なるともうこれしかない。


「ねぇ、このまま王様を倒さない?」

「え?」

「だって、このまま王様を放って置いたら、またエリスみたいな思いをする人が現れるかもしれない。それなら、今の王様を倒してすべてを変えなくちゃ!」


 そんな彼女の後ろでは机がひっそりと床のいくつかの石と一緒に落ちていった。ケセラ・セラは、リュカがどんな行動をしても付いていくつもりではある。

 しかし、クラクとエリスはどちらかと言うと迷っていた。いくらこんな仕打ちを受けたとしても、兵士であるクラクにとっては王様と言うのは間近で見たこともないほどの人物。エリスには親の親友だった人だ。そんな人と戦えるのだろうか。

 そう、親友だったからこそ、エリスは既に決心していた。


「エリスちゃん?」

「私は、王様の真意が知りたいです。昔はよく会って、話して、遊んでくれた。とても優しかった王様がどうしてここまで変わってしまったのか、それを知りたいです」


 エリスは今よりもっと幼いころ、物心がつく前から王様と一緒に遊んでもらう機会が何度もあった。最後にあったのは二年前、あの法律の制定と戦争の前だったが、あの優しい顔と笑顔は忘れない。

 あんな王様が、何故国民を苦しめるような真似をしたのか、その理由を今、今度こそ聞かなければならない。そんな使命感のようなものが生まれていた。


「……分かった、エリスちゃんがそう言うんだったら私も、もう一度勇気、出してみます!」

「ありがとう、クラク。エリスちゃん、目はもう大丈夫?」

「はい、段々慣れてきました」

「よし、それじゃ行くよ!」

「おー!」

「はい!」


 その言葉と同時に、四人はその部屋を後にする。廊下には国民が何十人と集まっていた。どうやら、一階の殆どは既に占領済みとなっているらしい。


「あぁ、エリスちゃん! 無事だったんだね!」

「はい、リュカさんに助けてもらいました!」

「クラクちゃんもつらくなかったかい?」

「えぇ、取り返しがつかなくなる前になんとか……」


 二人は、即座に国民に囲まれ、ねぎらいの言葉をかけられる。この二人、こんなにも親しまれていたのかと今更ながらに思う。

 そもそも二人の危機を聞きつけてクーデターが起こるくらいなのだ、下手をするとこの国で一番愛されている一般国民なのかもしれない。

 そして、頃合いを見てリュカは言う。


「皆さん、聴いてください」


 その言葉に、国民はリュカの方を注目する。


「私とケセラ・セラ、クラク、それからエリスはこれから王様に会いに行ってきます。一階の兵士だけで構いません。時間稼ぎをお願いしたいんです!」

「おうよ!!」

「持久戦なら私たちに任せなさいって!」


 国民の気力は高い、これならこの場を任せても大丈夫そうだ。

 引き続き城の攻略を国民に任せたリュカ一行は、急ぎ上へと向かう階段の方向へと駆け出す。

 エリスに関しては手枷足枷を破壊する方法が不明のためケセラ・セラが遠吠えで呼んだロウの一匹の上に乗って運んで貰うこととなった。


「ねぇクラク、王様は今どこにいるの?」

「えっと、たぶん寝室。だから、赤い瓦の塔にいるはず。王妃様と一緒に……」

「分かった! あの塔、遠くから見たらかなり高いところにあったはずだけれど……」


 ともかく、上に寝室があるということが分かっているのだ、階段を上っていればいつかはたどり着くであろう。だが、そうやすやすと許してくれないのも、兵士たちである。


「お姉ちゃん!」

「来る、行くよ!」

「うん!」


 階段の上から、槍を持ってこちらに向かってくる兵士が五人。これぐらいならば、簡単に倒すことができる。

 ケセラ・セラがまず、階段の横の壁に飛び移る。兵士たちが彼女の方を見ようとしたが時既に遅し、彼女はもう一方の壁に飛び移り、さらにそこから兵士たちの後ろを取るように壁から跳んだ。

 結果、五人中三人が、後ろに気を取られる。と、いうことは前二人は気を取られていないということになるのだが、しかしケセラ・セラのその行動に動揺したために前方不注意になっていることは確かだ。リュカはその隙を逃さなかった。


「ハァ!!」

「ヤァァ!!」


 後ろからはケセラ・セラが素手で、前からはリュカが刀で挟み撃ち攻撃を食らわせ、兵士5人は倒れる。とはいえ、死んではいないのだが。リュカとケセラ・セラはどちらも殺すつもりはなかったため、いわゆる峰内によるもので気絶させただけに済ませたのだ。


「す、すごい……」

「さぁ、先に進もう!」

「う、うん……」


 その後も、うじゃうじゃと出てくる兵士を倒しながら上へ上へと順調に進んでいった。その内、広かった階段は狭くなり、次第に螺旋階段になってきた。これは円柱状の建物特有の構造である。と、いうことはーーー。

 そして、ついに彼女たちはある扉の前にたどり着いた。


「この扉の向こうですね……」

「たぶん……」

「準備はいい? さて、ラスボスとご対面ってね!」


 リュカはドアを蹴り破る。その先にあったもの、それは彼女達の想像していたものではなかった。


「はぇ?」

「え、これって」


 そこにあったのはひな壇のように階段状に作られている家具。その上には、蝋燭やおもちゃらしきものが飾られている。その横にある机の上にはこの世界の言葉で『2』と表紙に書かれている一冊の本だけ。

 少しきつい獣臭がするその部屋にあったのは、それぐらいでベッドなどの他の家具はなかった。簡素なその部屋の家具を見て、リュカが感じた感想、彼女の中にある部屋の様式と比較して当てはまるものはたった一つしかなかった。

 そう、それは。


「祭壇?」


 そこに、王様はいなかった。



「おっと……例の部屋にリィナの報告にあった子供達が入っていったわ」

「早いですね。いや、どちらかと言うと兵士たちが弱いだけですか?」

「みたいね、やっぱり例の法律でみんな弱ってるのかしら……」


 それは、リュカとケセラ・セラがこの街に到着した後、休憩場所として使っていた崖の上での会話であった。今、そこには二人の女性が、そして何人もの女性たちが控えている。

 彼女たちは、そこから遠くに見える城の最上階にある≪青い瓦の塔≫の部屋に入っていったリュカたちを目視で確認していた。


「で、どうします?」

「まず、この暴動を止める。城の中のリィナに合図を送って」

「分かったわ」

「……みんな、行くわよ!」

「「「「了解!!」」」」


 事態は、次々とその様相を変え、そして新たな登場人物の出現により混乱を極めて行こうとしていた。

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