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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第10章 罪の色、天邪鬼

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第八話

 一人の女の子が絶望の淵にいるその頃、ニカムリバの町中、リュカとその仲間たちはと言うと。


「うわぁ、このお肉おいしい!」

{リュウちゃん、こっちの料理もイけるよ!}

{本当!? いただきます!}

「全く、呑気でいいわね……まぁ、おいしいのは確かだけど」


 呑気に出された料理に舌鼓を打っていた。

 彼女たちが入ったのは、小高い山の上にある一軒の料理店。中はやや古臭いように見える木材で形作られた前世で言うところの[ログハウス]のような内装。でも、雰囲気的に合致する料理が提供されることによって古臭さと言う彼女の中の想像よりもっと上、そう、[オシャレ]な空間に様変わりしていた。

 彼女たちは次々と厨房から出される料理にまるで海賊か何かのように食らいつくとその感想を言い合っていた。いや、彼女たち、と言うよりもリュカとエイミー、あとヴァーティーの三人が主に食べていて、他に一緒に居たカインやレラの二人はその三人を遠目から見ているだけだった。


「全く、何しにこの国に来たのか……」

「まぁまぁ、今日は下見に来ただけなんだから」


 と、リュカたちの姿を見てあきれ果てるレラをなだめるカイン。そう、今日は下見。交渉事に関してはまた後日。と、言うわけで彼女たちは本当に観光気分でニカムリバの国を楽しんでいた。


「それにしても、ニカムリバって食料品だけの国じゃなかったんだ」

「当たり前でしょ?」

「痛ッ」


 と、言いながらレラは大きな本をリュカの頭の上に乗せた。はたから見て、この二人の主従関係を見定めるのは困難であろうと思われるくらいにひどい扱いをされているリュカだが、そこは彼女の性格上笑って許して、レラに聞く。


「どういう事?」

「確かにこの国の作る食料の種類は豊富で有名よ。でも、ただそれだけで国を維持することはできないわ」

「だから、それを使った料理店を数多く開店させて、その素材の味を楽しんでもらって新しい契約先を探す。ただ食糧が豊富なだけで食の国を名乗っているわけじゃないのよ」


 と、セイナが付け加えた。そうか、考えてみれば前世の世界でも一緒だった。確かにある一種の素材が有名な町であったとしても、それの輸出だけで生計を立てている町は数少なかったはず。

 それを主な食材とした数々の料理と、それを出すお店があるからこそ輸出と供給、需要と供給の[バランス]が取れて、食材が有名となり、さらに多くの人に知れ渡ることになる。

 このお店もまた、このニカムリバの国で作られた食材を提供することによって自分のような観光客に食材のうまさを[アピール]し、購入、そして[リピーター]になってもらう。それを目的としたお店となっているのだろう。


「それに、食材だけで料理のうまさは決まらないわ。その作り手がいてこそ、料理は際立つ物」

「その通り、貴方いいこと言うわね!」

「?」


 と言いながら、レラに近づいてきたのは、とても見目麗しい女性だった。長髪の茶色、目は前世の少女[マンガ]のようにきらきらとしていて、何よりその豊満な胸は女性である自分でも羨ましいと思ってしまうほど、まさしく完璧な女性と言っていいような女性が目の前に立っていた。


「あの、貴方は?」

「私? 私はこのお店の店長のクランの娘でお店の手伝いをしているマルカ! よろしく」


 と言って、女性は、包丁を良く握っているのであろう、タコがたくさんついた手を差し出して言った。リュカは、その手を握ると、とても強い力で握り返された。

 なんて力強くて、硬い手なのだろうか。これが、これは、料理人の手、か。前世今世通して初めて感じる感覚に、リュカは何だか久しぶりに新鮮な気分になった。


「クラン? その名前、確かどこかで聞いたことがあるわね」

「え、そうなの、レラ?」

「えぇ……」


 どうやら、レラは彼女の母親の名前に心当たりがあるようだ。しかし、それを思い出せないらしい。その様子を見たマルカは言った。


「あぁ、きっとお母さんの本を見て知ったんでしょうね」

「本?」

「そう、『料理おばさんクランの簡単お料理教室』っていう料理本。買っていく?」

「あ、はい! ぜひ!!」


 と、勢いで買う事を決定してしまったリュカに対して、ヴァーティーは口を拭きながら言った。


「リュカ、忘れてない? 私たちはその料理を作る『材料』を探しに来たんだって」

「あ、そうだった」

「材料? どういう事?」

「あ、えっと実は……」


 リュカは、マルカに自分達が数名で旅をしているわけでなく多くの人間と一緒に旅をしていることを話した。もちろん、移動国家ヴァルキリーの名前は伏せて、只々普通の旅人のようにふるまう事を忘れずに、とにかくその旅を続けるために食材を探しに来たのだという事を伝える。

 その、旅人の人数と必要と考えられる量、それらを伝えると、マルカは考えこむように顎を手の上に置くと言った。


「それは少し難しいかもしれないわねぇ」

「え、そうなんですか?」

「やっぱり、人数が多すぎるから?」

「いいえ、そう言う事じゃなくて……」


 と言うと、マルカは自分たちが料理を食べ終えていることを見ると、一度会計を済ませるように言う。

 かなり飲み食いしたような気がするのだが、その代金は恐らくミウコの半分以下、なんて家計に優しいお店なのだろうか。そう思いながらお店を出たリュカたち。マルカは一度厨房の方に声をかける。恐らく、このお店の店長たるクランに話をしているのだろう。

 その後、自分の仕事である配膳などを他の人たちに任せたらしきマルカは、外に出て来た。リュカは即座に聞く。


「どうして、難しいって思うんですか?」

「それだけの人数で旅をしているって、それ旅人っていうよりもはや部族かなんかでしょ」

「まぁ、確かにそうね」


 実際、国を極秘で名乗っているので部族と言っても過言ではないし、とレラは心の中で呟いた。


「それくらいの規模となってくると、食材の供給は、販売店で勝手に決められないのよね」

「え?」


 曰く、このニカムリバには、その頂点に立つ長、国家制を用いていないから前世で言うところの首相と言ってもいいのか、その長を頂点として十三人の大臣がいるらしい。

 数人や数十人の旅人に食料を配給するならまだしも、自分たちのように百人以上単位で動いている人間たちに食料を配給するには、その全十四人に加えて、この国独自の機関である特別料理騎士隊の隊長、副隊長の了承を得なければならないのだとか。

 これは、一つのお店が食材の供給の斡旋をすることによる他の店との共存関係にヒビが入るのを避けるためだとかなんとか言われたが、正直頭の悪いリュカにはよくわからなかった。


「とにかく、その首相さんたちと、特別料理騎士隊の人たちに了承を取ればいいんですよね」

「えぇ、でもそのためには厳しい試験を突破しないといけないわよ」

「あら、そのことに関しては任せて」

「私たちは、これまでみっちりと絞られてきたから、今更どんな試験が来てもへっちゃらですよ」


 カインは、あたかもほくそえむように、そしてリュカは遠い場所を見るように言った。あぁ、思い出すなぁ。セイナ団長、いや現ミウコ近衛兵長にしごかれたあの日々を。

 思い出しただけで吐きそうになる、あの日々を。

 辛くて、苦しくて、それでも厳しく指導してくれたあの懐かしき日々。


{リュウちゃんがそんな顔するなんて、一体どんなしごきを受けてたの?}

{……これ以上思い出させないで}


 リュカは、もうこれ以上思い出すと本当に吐きそうになるという事でエイミーからの疑問には答えることなく、マルカに顔を向けると言った。


「とりあえず、ごちそうさまでしたとクランさんにお伝えください。それと、情報提供、ありがとうございました」

「えぇ、またうちの店に来て! 今度は、私がとっておきの料理を用意しているから」

「楽しみにしています」


 という事で、マルカと別れたリュカ一行は、一度ニカムリバを出て自分たちの国に帰ろうかと言う話になった。

 ニカムリバの料理や食材も堪能できたし、食材を提供してもらうための条件も聞けたし、もうこれ以上この国で情報収集をする必要はないと、そう考えたからである。後は後日、国の代表としてニカムリバの首脳陣と会って交渉する。

 ただ、それだけだ。

 でも。


「あれ?」

{この、気配……}


 それだけだった、はずなのに。


「どうしたの、リュカ?」

「ううん、でも、なんだか向こうの方から……」


 怪しい気配がする。そう続けたリュカが指さしたのは、国の裏通りの方だった。薄暗くて、太陽の光も入ってこないような細い裏路地。その向こうにもどうやら数軒の店が立ち並んでいるようだ。


{エイミーも、何か感じた?}

{感じる……嫌な、気配……}


 どうやら、それはエイミーも同じだった様子。ほとんど人の気配がない山とは勝手が違うが、しかし彼女の探知能力自体はまだ機能する様子で、自分と同じように妙な気配をその路地裏から感じ取ったらしい。でも、一体何なのだ、この変な気配。なんだか、唯事じゃない気配がぞろぞろと、まるで行進しているかのような、そんな気配がしてならない。


「……できれば、貴方たち三人のような純粋な人には見せたくない光景だったけど……」

「?」


 と、レラが言った。三人、と言うのは自分とエイミー、それからもしかするとヴァーティーの事を言っているのだろうか。でも、純粋な自分たちに見せたくない光景って、どういうことなのか。


「いいわ。この国の裏側を見るのも交渉のためには必要な事……貴方たち、ついて来て」

「え? あ、レラ!」


 と、レラはその細い路地裏を何の躊躇もすることなくズカズカと歩いていく。

 リュカたちは、その後をついて行くだけ。

 そう、ついていく。

 ただ、それだけで、彼女たちは思いもよらぬ光景を、思いもよらぬこの国の、そしてこの世界の闇の部分を見ることになるのだ。

 そう、この時の彼女たち三人の記憶は、そして感情はあまりにもおどろおどろしく彼女たちの中で生涯暴れまわることになる。

 私たち、この世界の人間にとっては常識である事、でも、彼女たちにとっては非常識である事。異世界から来た二人の少女と、この世界の常識をほとんど知らないヴァーティー。この三人に見せるには、あまりにも酷な世界。

 本当は知ってもらいたくなかった。知らせたくなかった。この世界の常識を、彼女たちは知らないままでいて欲しかった。それが、レラの本当の願いだったという。

 でも、気が付いてしまったら後の祭り。だから、レラは彼女たちにできる心の傷をも覚悟して、彼女たちを案内する。

 この世界の、常識、別の世界の非常識、その中心部へと。

 ―――故に、ここから先は私の創作色が色濃くなってしまう事。その真実の一端を隠すことをご了承ください。

 彼女たちの衝撃をそのまま書くと、私はもう二度と、その肉を食べられなくなると思うから。


「行っちゃった……」


 マルカは、そんな路地裏に入るリュカたちを見て、唇をかみしめてから、涙が一筋流れた目を拭いて、お店の中に入ったと言う。まるで、その先のリュカたちの行く末に思うところがあったかのように。

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