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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第10章 罪の色、天邪鬼

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第七話

{怖い、怖いよぉ。グス……}


 少女は、泣きながら目の前にある野菜を切っていた。

 この玉ねぎに似た野菜、切ってみるととても目に染みて痛くなる。

 今彼女がいるのは、とても大きな、屋敷のように大きな家の、こじんまりとした厨房。そこで一人、その夜のご飯となる予定の、自分の食事を作っていた。

 あの時から、今に至るまで、この心の中にある恐ろしいと言う感情が消え入ることはない。

 そう、あの日、あの女性に拾われた時から。


バタン!

{ッ!}


 少女はその物音にビクッ、と反応した。と同時にまたから垂れる黄色の羞恥の証。あぁ、ダメだ。やっぱりこの人、と言うよりもここの人たちの前に出ると絶対にお漏らしをしてしまう。

 少女はさらに泣きそうになってしまう。

 一体どうしてこんなことになってしまったのだろうか。自分は、ただ、友達を追いかけていただけなのに。

 自分はただ、山の中で遭難していただけなのに。

 気が付いたときにはこの屋敷の中に連れて来られて、女性からどこの言葉かもわからないような言語で話しかけられて混乱した自分は、その間ずっとおしっこを垂れ流しにしている状態だった。

 恥ずかしい、あぁ、恥ずかしい。そう思いながら泣いていると、女性は身振り手振りでここにいていいと言ってくれて、私は今、この屋敷に住まわせてもらっている。

 と言うよりも、屋敷のすぐ下にある倉庫のような場所、と言った方がいいだろう。

 暗い暗い、倉庫の中。裸電球によって照らされた部屋にあったのは、ベッド一つと台所、そして電気もないのに動き続けている冷蔵庫のような箱だけだった。そんな簡素な施設、宿泊所であるとも思えない。

 そして何より特徴的なのが、その床の端っこの方にある大きな穴。床は石畳状になっていて、自分が垂れ流したおしっこは全てそこに細かく刻まれているくぼみによってその穴の中に流れ込んで行ってしまっている。一度そこから脱出できないかと思ったのだが、何か見えない格子のようなものに阻まれて脱出することができないと分かった時は、しかし内心それはそうかと思ってしまった。

 まるで、動物園で動物たちが暮らしているかのような部屋の中。自分が、監禁されてしまったのだと分かるのにそう時間はかからなかった。

 そう、今目の前にいる女性によって。


「……」

{うぅ……}


 まるで騎士のような甲冑を着た女性。金色に輝くその長い髪の毛は、きっと青空の下に出るととてもいい輝きを見せてくれるのだろうとは思う。とはいえ、自分は彼女を青空の下で見たことは一度たりともない。

 自分がこの屋敷に連れて来られたのは夜まもない時の事であったし、この裸電球一つで本来綺麗なはずのその髪の色を見るのは、到底不可能な事。

 はやく、こんな場所から出たい。そう願っていた少女だが、しかしこの部屋の扉は外からカギがかけられていて外に出るなんてことできないし、時折自分の部屋に来てベッドの上に座る目の前の女性はとても筋肉質で、しかも腰には大きな剣を刺しているしで怖くて鍵を盗もうとも考えられない。

 こんな、軟禁状態の中で、しかもおしっこを野生動物のように垂れ流して、人間としての尊厳が徐々に奪われて言えるような、そんな気がしてならなかった。こんなことならもう、いっそのこと死んだほうがましなのではないか。この国に来て一週間、ずっとその事ばかりを頭に浮かべていた。


「……リィゼ」

{え?}


 と、その時だ。女性は、その指を自らに向けて言ったのだ。


「リィゼ……リィゼ」


 その途中途中に知らない言葉がいくつか挟まっている。でも、その言葉だけは変わることはなかった。一体、リィゼとはどんな意味を持つ言葉なのだろう。少女には何も分からなかった。


「……」


 女性も、そのことにガックリとした様子で、ため息をつくと、ゆっくりと立ち上がって自分に向ってくる。

 まさか、しびれを切らしてその剣で自分を殺そうと言うのか。そんな最悪な結末を思い浮かべた少女だったがしかし、何のことはなかった。女性はただ、懐から手拭いを出すと、自分の目から零れ落ちた涙を拭ってくれたのである。


{あ、ありがとう。ございます……}

「……」


 少女は、日本語で女性に対して感謝の意を伝える。でも、無駄な事。この人物には日本語なんて物通じないという事は重々承知。そして、女性もまた、自分の言葉を己に伝えるのは不可能だと分かっていた。

 だからこそ、彼女は彼女なりに不器用ながらも自分が喜びそうなことをしているのだ、と思う。

 そう、今の私はこの人の飼い犬のような物。自分が暮らしいていた国。日本で言うところの犬や猫と同じような扱い。そうじゃなかったら、奴隷と言ってもいいのかもしれない。

 そんな存在に、自分はなり果ててしまった。まったくもって、人間のような扱いじゃない生活。

 もう、嫌だ。何度そう願ったことか分からない。


「……」


 女性もそう思っているのだろう。自分の事を[ペット]をめでるかのように頭を撫でてくる。屈辱的だ。でも、それも仕方のないことなのかもしれない。

 今の自分は人間以下の存在。ただ起きて、いつの間にか箱の中に入っている食材で料理を三食作って、それを自分と、女性と一緒に食べて、そして女性が三回帰ったら寝て。正直時間の感覚何て物は分からないのに、なぜか体内時計はきちんとしている。それが不気味で、なんだか怖かった。

 こんな生活いつまで続くんだろう。自分が、一体いつからここにいて、いつまでここにいるんだろう。そんなことを考えてしまって、とても、恐ろしかった。

 一体どうすればいい。自分はどうなる。

 分からない。分からないからこそ、怖い。

 誰か、誰か助けて。


{誰か、助けてよぉ……}

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