第10章 序章
この世界は、命ある者の遊び場に過ぎない。
命があるからこそ、自分たちがいて。
自分たちがいるからこそ助かる命もあって。
そして、自分たちがいなくなることによって助けられる命もあって。
人は、残酷な生き物だ。
新国家、ヴァルキリーがその胎動を加速させて、最初に私達が訪れた国。そこは、とんでもない国だった。
でも、それが普通としてこの世界に存在している、常識に近い行いを平然とやっている国。
私も、それは知っていたから、そんなに衝撃を受けることはなかった。
でも、リュカさんやエイミーさんたち、転生者の人たちにとってはそうではなかったようで、そのことを知った瞬間のあの顔、そして≪アレ≫を見つけた時の彼女たちが嘔吐したその瞬間を≪後から見た私≫。きっと、生涯忘れることはないでしょう、その二人の光景を。
そう、この世界において最も標準的な肉料理。その材料に使われているモノ、それはに―――。
「待った」
「え?」
後ろに立っていた女性は、机に座る女性の筆を止めると言った。
「このお話は、子供たちもみる物だろ?」
「あ、はい……その予定ですけど?」
女性は、困ったような手つきで、仮面に手を置くと言った。
「確かに、この世界にとっては、その料理も材料も、標準的な物と言っていい。だが、子供に見せるにはあまりにもひどすぎる」
「そうです、か?」
「貴方みたいな豪胆な人間には分からないでしょうけどね」
仮面の女性は、呆れるように首を振ると言った。
「ここはどうだろうか、≪彼女≫の意見を尊重して、少し改変を加えてみるのは?」
「改変、ですか……」
その言葉に、女性は困ったような顔をした。それはそうだろう。なぜならこの物語は、正確に書いてこそより完成に近づいて行くのだ。彼女の、思惑に近づいて行くのだ。それなのに、改変を加えるのなんて、アリなのだろうか。
と思ったが、確かに、彼女は言っていた。
{この物語を、たくさんの人に読んでもらえるようにして}
と。
「そう、でしたね……」
ならば、するべきことは一つ。
これまでは、ただ事実だけを書いてきた自分。しかし、ここからは少しの創作を交えなければならない。大変なことなのかもしれない。だが、それが彼女が望んだことであるのならば。
これは、後世に残る大切な資料なのだから。
そして、{あの少女}と出会った、とても大切な出来事であるのだから。
今、リュカの物語ではない。≪彼女自身≫の物語が、始まろうとしていた。




