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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第9章 今生の別れ、紺青の旅立ち

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第二十九話

「それで、話って何なの?」

「……」


 件の事件が終結を迎えてからまだ数時間しか経っていない時間。ヴァルキリー騎士団団長セイナは、城のとある一室の中で呼び出されたリュカに向かって面と向かっていた。


「分かっているかしら? 本当なら、私が陣頭指揮を取らないといけないっていうの」


 セイナは、リュカに念を押すかのように言った。確かに、まだ事件からほんの数時間しか経っておらず、国の混乱もまだまだ続いている。その状態で、騎士団の団長一人を呼び出すのだから、ソレ相応の≪何か≫じゃないと許さないと言わんばかりの表情だ。

 いや、リュカも分かっている。分かっているからこそ、この混乱の最中に彼女を呼んだのだ。


「分かっています。混乱している。今がチャンス……好機なんです」

「……」


 その決意を込めた瞳に、果たしてリュカが何をいうつもりなのか、セイナも分かっていた。やっぱり、そう言わんばかりの笑みを浮かべて言う。


「もう、揺らぐことはないのね」

「はい……私は、ヴァルキリー騎士団から、抜けます」


 その言葉には、嘘や冗談で言うようなおちゃらけた雰囲気は一切感じない。いや、むしろ清々しさすらも感じてしまうほどだ。


「今回の事件がきっかけ?」

「……抜けようと考えていたのはずっと前から……団長も、ご存じですよね?」


 確かに、今回の事件、厄子である自分たちが半分原因として関与してしまった。そのために、国にとっても最も重要な人物たるグレーテシア女王陛下が殺され、謀反人となってしまったが、近衛兵長という国にとって最も力強い人間を失った。

 女王の立場は、その後グレーテシアの後を継いだフランソワーズが受け継ぐことが決定的になっているが、国の混乱はしばらく収まることはないのであろうと思う。

 逆に言えば、自分たちがここから離れるには国中が混乱している今しかないのだ。


「私、もともと人の下にいたくない人間なんです。天下統一なんて、馬鹿げた欲望を持っているんですから、人の下になんて立っていられないんです」

「だから、私が団長をしている、そしてこの国の兵士となるヴァルキリー騎士団にはいられない。そう言うことかしら?」

「はい」


 リュカは、何も臆することなくそう言ってのけた。そうだ。自分の欲望は天下統一。かつての日本の戦国時代に、数多くの大名が憧れ、目指した天下を手中に収めるための立場。

 その天下統一をなすためには、下々の立場として、一軍隊の分隊長なんてちっぽけな存在のままではいけないのである。

 だから、彼女は前に進むのみ。その為に、不必要なものを切り捨ててでも。


「……あなたについていく人間は?」


 セイナは、以前彼女に呈したような疑問を再度繰り返した。


「お父さんとケセラ・セラ、ロウ達。それから、ヴァーティーたちトオガからきてくれた六人の子供。それと、エイミー、キンと合流して、旅立つつもりです」

「……」


 この言葉に、セイナはどこか怒りも含んだような言葉を交えていった。


「たった、それだけ?」

「はい。それだけです」


 たった、それだけしか増えないのか。前の時より確かに増えたもののそれでも、明らかに人数がおかしいのは、誰の目から見ても明らかだ。


「それだけで、天下統一ができると、本気で思っているの?」

「思っていません。この騎士団と同じ、各地で少しずつ人員を集めて、長い時間がかかるかもしれませんが、大きな軍隊を作って、自分の国を、持ちたいと思っています」


 完全なる理想論。もちろん自分にだって分かっている。

 仮に自分の考えの通りに自分だけの軍隊を、自分だけの国を持つことができたとしても、天下統一なんて大それたものを果たすまで果たして何年かかることか。

 無理だ。セイナは、そう結論づけて言う。


「そんなだいそれた目標、なくていいじゃない」

「……」

「この国に腰を据えて、穏やかな人生を送って……そうね、結婚して子供を産んで、余生を過ごす……そういうのは考えなかったのかしら?」

「考えたこともありません。というか、考えられません」


 リュカは、断言した。そんな、理想的な人生、それこそ現実的ではないのだと。


「私は、私の欲望に忠実でありたい。例えどれだけの困難にぶつかっても、私は、ありのままの私でいたい。だからこそ、そんな平凡な人生、送りたくない。命がある限りできることをしたい。それが、今の私の欲望であり、目標なんです」


 そうだ、例え全員に無理だ無茶だ無謀だと罵られたって構わない。それでも、自分は前にしか進めないのだ。ただただ、真っ直ぐ、歩き出したからには、目標のために、夢のために、自分の命を捨てる覚悟を、そして他人の命も捨てる覚悟も持たなければならないのだ。

 それが、≪この世界の異物として混入してしまった≫自分の罪であるのだから。


「止めても無駄なのだと、団長お分かりでしょ?」

「え……」

「……」


 そう言いながら、一人の女性が部屋に入ってきた。これまた、現在進行形で混乱をきたしている国の陣頭指揮を取らなければならない女性だ。

 どうしてその女性がここにきたのか。リュカは聞く。


「どうしてここにきたんです……フランソワーズ女王陛下」

「あなたが、セイナ団長を呼び出したと聞いてもしかして、と思ってね」


 フランソワーズは女神のような微笑みをリュカに向ける。あんな形で妹を亡くした直後であると言うのに、とてもきとくな女性である。それが強さなのか、強がりなのかはわからないが、とにかくフランソワーズはセイナに向けて言った。


「セイナ団長。私からも、この子の騎士団の脱退を進言したいと思います」

「何故ですか? このリュカは、騎士団にとって、そしてこの国にとって十分な戦力になると言うのに」


 と、セイナは騎士団員としての意見を述べた。しかし、フランソワーズは首を振って言う。


「確かに貴方の言うとおり、彼女も、そしてケセラ・セラも、ヴァーティーも、この国にいてほしい大切な人材。でも……この子達はこんな国に収まっているような子達じゃありませんわ」

「女王陛下……」


 きっと、フランソワーズにも分かっていたのだろう。彼女たちが、ただの一兵士として収まっているような人間ではないと言うことを。ただの一人員としての面子として他人と同位置に立っていられるような人間ではないと言うことを。

 だからこそ、彼女はこんな小さな国じゃなく、もっと大きな世界に飛び出さなければならないのだ。フランソワーズはそう考えていた。


「女王陛下がそう言うなら、しかたありませんね……」


 セイナは、立場上国の戦力低下を危惧するべくして彼女の脱退を止めているつもりで話をしていた。だがしかし、その国を収める長たる女性がそう言うのなら、自分にも異論はない。だって、自分だって彼女と同意見だったのだから。

 彼女はこんな小さな国に置いて置けるほどちっぽけな人間じゃないと、分かっていたから。


「リュカ、並びにケセラ・セラの騎士団脱退を認めます」

「……ありがとうございます」


 最後は、あっさりと、しかしいざ改めてそう言われてみると不思議なことに、こんないい職場から出ていくことを惜しむリュカ。

 だが、決めたことじゃないか。自分で、自分たちが、世界に羽ばたいていくのだと。

 決めたではないか。他者を蹴落として、前だけ見て、ただただ欲望に忠実に生きていくのだと。

 だから、彼女は決して後ろを振り向かない。前にしかない自分だけの道を、ただ突き進むのみ。


「出発はいつ?」

「明朝、女王陛下の就任演説の時にしようと思います」

「なるほどね、国民がみんな城の方を向いているはずだから、その時間は最適かもしれないわね」


 明日、朝早く、フランソワーズが新しい女王として即位するにあたっての宣言をすることとなっていた。本来なら多くの手続きや就任行事があるのだが、今回は前女王暗殺という特別な事情による女王即位のために、ソレらを全部すっ飛ばし、国民を安心させるための演説が必要だと、フランソワーズが判断したのである。


「リュカさん、もしも貴方が国を持てたら、このミウコと同盟を組んでもらいたいわ」

「あぁ、だったらいますぐ同盟を結んでもらえますか?」

「え?」


 それは一体どう言うことなのだろう。そんな疑問にリュカは朗らかな笑顔で頭をかきながら言った。


「実は、もう土地はあるんですよね私の国の、領土、とまではいかないですけど、拠点としては十分なものが」

「それってまさか……」

「きっと、団長の考えているとおりです」

「そう、なるほどね」


 なるほど、リュカはアレを拠点として、そして国として動かしていく予定なのか。確かにあの場所なら、多少はめだつものの、いざという時になって攻め入られた時の防衛策は万全にできる。大胆だが、いい案かもしれない。


「それじゃ、最後にコレだけは聞かせて?」

「なんです?」


 セイナは、これが最後の質問であることを念を押して言った。


「貴方の分隊の仲間たちは、どうするの?」


 と。その問いに、リュカは隠しきれない悲しい顔を浮かべるだけであった。

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