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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第9章 今生の別れ、紺青の旅立ち

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第一話

本当は序章があったはずなのですが、自分の管理が甘く、紛失、あと第8章に一つ投稿忘れがあったため十四話投稿しました。

 平和な街並みだ。

 フランソワーズは、開いていた本を両手で静かに閉じると、安楽椅子から立ち上がった。

 [バルコニー]に出ると、彼女は部屋の中から見た時とはまた、別の国の空気を感じる。

 そして、改めて国中を見渡すと、悲し気な表情を浮かべた。


「平和……ね」


 耳には、商人たちの元気な声が聞こえる。

 民衆の笑い声や、この国の軍人が足並みをそろえる音。

 見れば、路地裏で元気に遊んでいる子供たちの姿もあって、なんだかほほえましい。

 そして、自分の髪を撫でてくれる澄んだ、独特な匂いの空気。でも、嫌じゃない。

 本当に、平和すぎる。この街は。

 ついこの間まで、戦争で滅亡の危機に瀕していたとは思えないほど。

 あまりにも平和な光景すぎて、逆に不安となってしまう。

 でも、考えてみればこの光景こそが正解なのだ。

 他国との争いも何もない、平和な日常。もし、トオガに負けていれば、この光景は今頃なかっただろう。

 子供たちが元気に遊ぶ姿だって、見れなかった。

 そう、この平和そのものの光景は、戦の勝利によってもたらされたものなのだ。

 何万人もの命をも刈り取り、多くの他国民を犠牲にして勝ち取った、平和、なのだ。

 それなのに―――。


「リュカさん……」


 この国の情勢に無関心であるわけがない。彼女の耳にもすでに届いていた。

 リュカが、厄子であると知られて、多くの国民から石を投げつけられているという事を。

 トオガとの戦。一番多くの敵を倒したという意味であるのなら、確かのその立役者は自分。けど、戦というのは一個人の手柄という話ではない。

 参戦した全ての人間が立役者であり、そして勇者である。

 そして、トオガの国の王、ゴーザを最後に仕留めたのも、リュカとケセラ・セラという二人の厄子と、敵国からの離反者であるヴァーティー。

 この三人の誰かが欠けていたとしても、決してあり得なかった光景であるというのに、どうしてそのリュカ、並びにヴァーティーもまた、差別を受けなければならないのか。

 フランソワーズは、心を痛めていた。

 もしかしたら、自分が優しすぎるからなのかもしれない。

 彼女のことを、よく知っているからかもしれない。

 そもそも、自分の子供が厄子だったから、色々な理由があるからなのか。自分には、彼女たちを差別する気にはならなかった。

 けど、そんな自分の方が、この国にとっては異端なのだろう。


「うぅ……」


 いや、仲間は自分一人じゃなかった。今もベッドの中で眠り、もとい、気絶しているグレーテシア。

 彼女もまた、自分と同じ厄子には偏見を持っていない人間の一人。

 というよりかは、彼女にとっては厄子が災いを呼ぶとか、異端の力を持っているとか、そんなのはどうでもいいのかもしれない。

 今は、王という事でなりを潜めているが、現来彼女は戦闘狂といってもいいほどに戦うことが好きだった。

 そんな人間なのだから、厄子であるかどうかなんて関係ない。

 強いか、弱いか、それが彼女にとっての判断基準。

 そして、リュカは彼女の基準の中では強者だった。だから、グレーテシアは厄子であるリュカも受け入れてくれている。

 なら、弱かったら受け入れてくれないのか。とは思うけども、厄子というのは、たとえどんな人間でも隠された力があると話に聞く。

 故に、たとえ弱者であったとしても何かしらの方法でその力を引き出すことで強者に生まれ変わることもある。

 だから、きっとリュカが弱かったとしても、彼女はこの国に置いていてくれたはずだ。フランソワーズは、どこか確信にも似た物を持っていた。

 この国の民全員が、グレーテシアのように単純であればいいのに、とどこか失礼なことを考えていたフランソワーズ。


「あら?」


 その時だ、扉を叩く音が聞こえる。


「どうぞ?」

「し、失礼します」


 フランソワーズが声をかけると、扉の外から、一人の待女が現れた。

 まだ若い、おそらく、十代くらいであろう女の子だ。フランソワーズは、やはりというかなんというか、やんわりとした笑顔を絶やさずに聞いた。


「貴方、初めて会うわね」

「は、はい……」

「歳はいくつなのかしら?」

「じゅ、十四……です」

「まぁ、ならここに勤めてまだ日は浅いのね」

「はい。まだ、一年も経っていません……」


 なるほど、とフランソワーズは納得した。確かに、彼女の顔はとても緊張感に満ち溢れて、こわばっていた。きっとそれは、この国の姫である自分や今は眠っているが女王として国の長に立っている妹を前にしているからなのだろう。


「そんなに緊張しなくてもいいわ。楽にして」

「は、はい……」


 フランソワーズは、そんな彼女に対してそう優しい声をかけた。

 待女は、その言葉に少しだけ[リラックス]したのか、肩をゆっくりと下げると言った。


「あ、あのフランソワーズ様……」

「何かしら?」

「えっと、その……い、今街の中で流行している柔軟体操、というものをご存知ですか?」

「柔軟体操?」

「はい」


 なんだろう。聞いたことのない言葉だ。と、フランソワーズは彼女の言葉に疑問符を浮かべた。

 柔軟体操。それは、リュカの前世の世界ではほぼ全ての人間が知っていた健康を維持するための体操の一つである。しかし、この世界ではまだその体操は一般的ではなく、ごく一部の人間がだけが行なっているにすぎない、あまり有名とは言えない運動なのである。


「面白そうね……教えてもらえるかしら?」


 フランソワーズは、己がこれから住むこととなるこの国の流行の一つは知っておかなければならない。そう考えて、待女に微笑んだ。


「はい、で、ではまず腕を後ろ手に組んでください」

「えっと、こうかしら?」

「はい……」


 フランソワーズは、言われた通りに手を後ろに回して、互いの手を掴む。


「そ、それから……」


 と、言いながら待女はフランソワーズの後ろに回るとある物を懐から取り出した。

 刹那。


「動くな!」

「ッ!」


 突如として、待女の首筋に立てられたのは[ナイフ]だった。ソレは、彼女の頸動脈にピタリと張り付いていて、ほんの少し引けば、彼女の首から鮮血が飛び散ることは容易に想像できることだろう。

 しかし、一体誰がそんな危険極まりないことをしているのか。考えてみればわかる通りだ。この部屋の中にいたのは、今その凶器を突き立てられている待女。フランソワーズ。そして―――。

 フランソワーズが、振り向きざまに見た女性。


「グレーテシア?」


 この国の王であり、[ベッド]で休んでいたグレーテシア。

 見ると、その[ナイフ]はフランソワーズが果物を切るために使って、[ベッド]の脇に置いていたもののようだ。いや、そんな事よりもだ。何故、グレーテシアは彼女の首筋にそんなものを突き立てているのか、とフランソワーズはその突然の行動に困惑するしかなかった。


「じょ、女王陛下」

「喋るな。そのまま、ゆっくり持っているものを床に捨てろ。さもなければ……」

「ッ!」


 その言葉に観念したのか、待女は手に持ったソレを力なく床に落とした。


「これって、まさか……」


 見覚えがある。つい先日、自分がこの国に戻ってきた時にも腕に嵌められた物。嵌めた者の魔力を吸い取る魔法石で作られた枷だ。何故、そのようなものを、待女が持っていたのか。


「あなた、一体……」

「……御免なさい、これしか、方法はないんです」


 と、言いながら待女は自分の首筋を這う刃をその手で握りしめた。結果、彼女の手は自分の鮮血で汚れることとなる。


「何? ッ!」


 方法がない、どういう意味なのか。それに、自分の手が傷つこうとも、その痛みを耐えてでもソレをなそうとする、その理由はなんだ。そう聞こうとしたグレーテシアであった。しかし、その言葉が出る前に、彼女はその場でふらついてしまった。

 つい数時間前まで行っていたフランソワーズとの模擬戦でおった疲れがまだ回復しきっていなかったのだ。待女は、その[タイミング]を見計らい、彼女の果物[ナイフ]を押し除けると、血だらけの手で懐からもう一つの手枷を取り出し、彼女の腕に嵌めた。


「しまっ……」

「グレーテシア! ッ!」


 突然の待女の行動に面を食らったフランソワーズはしかし、グレーテシアを助けようと魔法を発動しようとした。

 しかし、彼女は動くことができなかった。いや、正しくは動いてはならなかった。

 一本、二本。

 いや、五本程度あるだろうか、うち一つは後頭部にピッタリと密着させられていて、少しでも動けばすぐに串刺しにされる体制が整われていた。

 自分も、鈍ったものだ。フランソワーズは自嘲するように笑うしかない。まさか、背後から近づいてくる刺客に、気がつくことができないなんて。

 十数年前の自分だったら、背後から近づいてくる殺気なんてもの、自分の背後百メートル程まで接近されれば気がついていたはず。けど、あの国での平和ボケが、自分の感覚を落としてしまったのだろう。

 あるいは、やはり先ほどの模擬線の疲れか、あの時に負った傷から流れた電流で脳までしびれていたのか。何にしても、鍛錬を怠った。それが、彼女の最大の失態であった。


「動かないでいただきましょう、姫」

「……」


 男が、フランソワーズに対して剣を差し向けながら言った。フランソワーズはやはり、不敵な笑みを浮かべながらいうのだった。


「貴方たちはトオガの人間?」

「違う。我々は、ミウコのために動く、ミウコを愛する人間だ」

「ミウコを愛する人間が。その国の女王と姫に楯突くというの?」

「愛するが故……だ」


 その瞬間。手にずっしりとした重い感覚が乗せられたのを感じる。待女が自分の手にも魔法石で作られた手枷を嵌めたのだ。


「ごめん……なさい……」


 その表情、声色からして彼女はすすんでこのような事を起こそうと考えていなかった。よっぽどの事情があったのだろうと鑑みることができる。

 しかし、そのことについて考えるのは後にしよう。今は、目の前の事件についてだ。


「それで、ミウコを愛するあなた方の要求は?」

「我々の要求は、ただ二つのみ……」


 これが、ミウコ最大の反乱。そして、最悪の悲劇の始まりとなった事件の始まりであった。

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