表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第8章 異様な義母、硫黄の風呂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

158/237

第九話

「ねぇ、この方向って、言ってたよね?」

「えぇ、確かに。私も聞いたから間違いないわ」


 レラは、野菜や果物の汁で汚れ、虫にたかられているリュカに向けそう告げた。

 山中、大量の樹木で生い茂った道なき道を歩く少女たち。リュカとその一行である。

 もう幾度となく山に足を踏み入れ、大体の地理も把握してきた頃合いの彼女たち。しかしそれでもまだこんな秘境の地のような場所があったなんて、そう驚きを隠すことができていなかった。

 ここでふと疑問に思う者がいるかもしれない。彼女たちだけじゃない。騎士団の人間たちも幾度も足しげく通って山の調査をしているということは、すでに伝えたとおりだ。それならば、少しくらい獣道ならぬ人道という物ができていてもいいはず。

 草の根を分け、雑草を踏みつけ、少しくらい人間が通れるくらいの地肌を見せていてもいい。それなのに、どうして彼女たちの周りには膝上くらいまで伸びている草が文字通り山のようにあるのだろうか。

 疑問はそれだけじゃない。


{確か、お父さんはこっちの方向って言ってたよね、エイミー?}

{うん、そうだけど……やっぱり、こっちに『洞窟』なんてあったかな?}


 なぜ、先ほどまでいなかったはずのエイミーとキンがいるのか。そして、一緒にこの山に来たはずのヴァーティーの妹たちの姿がどこにも見えないのはなぜなのか。

 そして、彼女たちがどこに向かおうとしていたのか。その疑問の答えは、今から一時間程度前にまでさかのぼることとなる。



{うわ、リュカちゃんどうしたのそれ!? 乱闘してきたの!?}


 山に到着した直後。エイミーと、そして先に調査にあたっていた騎士団員に出迎えられたリュカ一行。

 来て早々に体中が腐った果物や野菜の汁などで汚れているリュカの姿を見て、エイミーが吃驚した。確かに、事情を知らない人間が見たらその色合いから見て血でもついているのではないかと思われても仕方のないことなのかもしれないし、驚くのは無理もないだろう。


{アハハ、ミウコの国を出るときにちょっとね……}

{大方、国民に物を投げつけられたのだろう}

{え……}

{えっと……うん}


 うまくはぐらかそうとしたリュカ。だが、リュウガにドンピシャ正解を当てられてしまい、罰が悪そうに野菜の汁で引っかかる髪を掻きながらそう言った。

 物を投げつけられた。それって、一体どういうことなのか。

 もしかして、エイミーの脳裏に嫌な予感が舞い降りた。


{まさか、リュカちゃんの正体……}

{うん、もうあの国の人たちみんな知ってるみたいなんだ}

{そう、なんだ……}


 エイミーは、まるで自分がそんな仕打ちを受けたのかというくらいに悲しい表情を示してくれた。やっぱり、この子は自分が思っているよりも優しい子だ。もしも『彼女』でも。これくらいの表情をしてくれるだろう。

 だが、エイミー自身もそれは想像していたことの反中だった。いや、むしろ腐った果物や野菜でよかったと言ってもいいのだろう。まだ、石や凶器を投げつけられるよりもマシなはずだ。いや、実際には投げられていたのだがリュカが受け流したり避けたりしただけなのであるが。

 とにかく大事に至らなかったことを喜ぶべきなのだろうか。

 と、その時だ。彼女たち二人の頭を上から押し込む女性が現れた。


「ほら、三人だけで話してないで。私にも聞かせて」

「せ、セイナ団長、すみません……」

{リュカちゃん、団長さんなんて?}

{私にも話を聞かせて、だって}


 話に割りこんできたのは、今回調査が大詰めを迎えるということで副団長ともども直々に調査に同行したセイナであった。どうやら、彼女は自分たちがどんな話をしていたのかというのに興味深々であるようだ。

 因みに、自分たち三人―リュカ、エイミー、リュウガ―が使っている日本語に関しては、とある地方の人間だけが使える言葉であり、この世界でソレをしゃべることができる人間は、少ししかいないとだけ伝えていた。

 しかし不思議なことがある。リュウガの使っている言葉。確かに彼はもともと織田信長という日本の武将だったから日本語を使うことに達者であることは分かる。だが、彼のいた時代は、俗にいう標準語なんてものはなく、彼の出身から考えると尾張弁という物を用いていたはず。

 しかし、自分が聞く限りでは彼の言葉の中にはその尾張弁の面影なんてものはなくて、転生前の時代の日本で使用されていた言葉と瓜二つ。一体どうしてなのかとリュウガに一度聞いてみたことがあるのだが、当然のように彼は何も教えてくれなかった。

 とにかく、とても不思議な謎が残っているのだが今の自分たちには関係のないことだえると割り切り、というか諦め、今の話を進めていくことにする。


「とにかく、その汚れを早く落とした方がいいわね」

「私もそう思います」


 そもそも彼女は自分たちと一緒に来たわけなので、事情はすでに知っていた。だから、自分たち三人がそのことについて会話をしていたということを知るとまず第一声にその汚れを落とすことを提案してくれた。

 確かに、そろそろ果物の汁か何かの汁かは不明だがカピカピに乾いてきて、なんなら体中がかゆくなってきた。何か漆の成分でも体に撒かれてしまったかのようだ。


{それなら、向こうに川があるからそこで水浴びをすれば?}


 その言葉を聞いたエイミーがそう進言してきた。なお、会話に関してはリュウガが同時通訳をしてくれているので、セイナの言葉をエイミーが、また逆にエイミーの言葉をセイナが聞くということがとても円滑に滞りなく行われている。


「川、そういえばあったね」

「報告にあった、あの川の事ね」


 とセイナが補足。そう言えば、そんな≪不思議≫な川があったような気がするし、そんな報告をしていたような気もする。よく覚えていなかったけれども。

 なぜ、こんなところにも≪不思議≫なんて文字を用いてくるのかと疑問に思ったのかもしれないが、その理由は、その川の水源にある。

 実は、その報告した川の水が一体どこから来ているのかと、騎士団の面々と一緒に探しに行ったことがあるのだ。草の根をかき分けて、山を下り上り、ついに見つけた水源、それがおかしかった。

 そもそもの話、水源とは、要するに川の流れ出ている元のことを言うのだが、大体池とか湖とか、貯水できる場所、主に山の頂上付近から下に流れ出ている。むろん、水も無限に出てきているわけではないので、降水量の関係で川の水かさの増減があるのは当たり前のことだし、山の頂上付近に存在するはずなのだ。

 しかし、知っての通り現在山のあるこの土地は雨もめったに降らない文字通り干ばつ地。事実彼女たちがミウコに来てから『自然の雨』なんてただの一度も降らなかった。

 だというのに、その川の水は一切減ることなんてなく、その中で暮らしている魚たちも元気に泳ぎ回っている。

 不思議なのはそれだけでない。彼女たちが見つけた水源、それは池や湖などではなかった。

 滝、なのである。

 正しくは、山の頂上付近から五十メートルくらい離れた場所にある崖の中ごろから、突如として流れ落ちている滝。それもかなりの量の水が落ちているのだ。そして、それが川という自然物を継続させている。

 というか、本当に自然の川なのか。上記した通り、川とはそもそも山の上の方から斜面を下って下に下にと降りてくるもの。だと言うのに、その川は何故か急こう配を≪駆け上がったり≫している。

 そんな変わった川ある物か。

 錬金術か、あるいは魔法か、どちらにしてもそれがおかしな光景であることには変わりない。一体なぜ干ばつ地でそんな物が存続することができたのか、そして何故そのような地形でも川として役目をは達しているのかと、騎士団全員が不思議でたまらなかったのだ。

 しかし、魚も泳げるくらいだからそんなに危険な水というわけでもないのだろう。事実エイミーやキンもこの山で暮らし始めてから週五くらいで水浴びをしているのだが目に見えての被害なんてものはないらしい。だから、安全性そのものは保証されている。

 とりあえずその場所で水浴びをするという方向で決まりかけた、その時であった。


「向こうに洞窟がある。そこの泉で水浴びなどどうだ?」


 と、言ってきたのがリュウガだった。


「泉?」

{洞窟?}


 と、疑問符を浮かべるリュカとエイミー。


{エイミーも、知らないの?}

{うん、赤ん坊の時からずっとこの山で暮らしてきたけど、洞窟なんて……}


 腕を組んで首を傾げたエイミーを見て、リュカもまた同じく、この山を調査していた時にそんなものあったのかと思っていた。


「ワシが見つけた物だ。その泉は川の水とは違い、温泉のように暖かい。そちらの方が風邪をひくことなく安全であろう」


 まぁ、確かに冷たい水に入るよりも暖かい温泉のような場所に入る方がいいと自分でも思うが。

 とりあえず、リュウガの意見に従って悪い道に入ったことなんて一度もないのだ―修業時代を除いて―。ここは、彼の意見を尊重してみることにしよう。

 ということで、リュカとエイミー、それと興味本位ということでついて行くことになったキン、ケセラ・セラ、ヴァーティー、リュカ分隊の面々。そしてついでにエリスが、その洞窟に向かうことになった。

 因みに、水などをはじく鎧はともかくとして服が汚れているから洞窟に行っている間に洗っておくというヴァーティーの妹たちのご厚意に預かり服を置いていくことになったリュカ。

 それで、例によって例のごとく裸のままで山の中を歩こうとして、何故かエイミーに烈火のごとく『いくら女性しかいないとはいっても羞恥心を持て』『悪い虫に刺されたらどうする』等と怒られたこと、そして結果として彼女から服を借りたということは余談として置く。

 それにしても、リュカが裸で歩いて行こうという時にエイミーやキン以外が止めようとしない辺り、リュカという人間の少し特殊な癖に関しての理解度が高いというか、あきらめが付いているというか、というかまだ付き合いの浅いヴァーティーとその妹にもあきれられるくらいで済んでいる時点で何かがおかしい気がする。

 もしかしたら、予兆があったのかもしれない。後にこの山で伝達されることになるある風習、その前段階に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ